1章 7
「シャーロットちゃん!」
ドアを閉めるとすぐにフレッドはシャーロットの側まで来た。
「ダメじゃん。せっかくコーディさんも心配してついて行ってくれたのに、こんなところで二人っきりになっちゃ! コーディさんはどうしたの?」
「あ、あの、現場でやっておくことがあるから、先に執務室に行くように言われて……」
オロオロとそう言うシャーロットを見て、ふ、と息を漏らす。
疲れたように、どっかりとシャーロットの隣に腰を下ろした。
「ごめんごめん。いい。オレの八つ当たり。でもさー、シャーロットちゃんは女の子なんだから、部屋に二人っきりになっちゃダメだよ。襲われちゃったら大変だから」
フレッドはちらりと隣に座るシャーロットを見る。
本当は、これはオレの距離じゃない。
シャーロットちゃんの正面に座るべきだ。
けれど、すごく近くに居たかったんだ。
「でも、エドワード様は私に暴力を振るう方ではありませんわ」
「うん。そうだね。でもさ、女の子にとっての暴力って、殴る蹴るだけじゃないから。特に、身分の高い女の子は、もしものことがあれば、その相手のお嫁さんにならなきゃいけなくなることもあるから気をつけてね。今日はちゃんと執務室のドアを開けてたね。エライエライ」
シャーロットの方に身を向けて、頭を撫でると、シャーロットは頬を真っ赤にした。
「フ、フレッド様! 私はもう子どもじゃありませんわ!」
うーん。
子どもじゃないから言ってるんだけどな。
まあ、いいか。
「ところで、機関車の方はどうだった?」
隣に座ったまま、フレッドは話を進める。
「ええ。とても良い勉強になりましたわ」
シャーロットは一生懸命に講義の内容をフレッドに説明した。
「そうだね。是非、ボナールに欲しい乗り物だけど、資金的にまだ早いかなあ。今の状態でランバラルドへの借金返したら、あんまり残らないもんなぁ」
「フレッド様、確かにあったら便利ですが、どうしてもと言うほどではありませんわ。技術面を磨いておいて、線路を各地に引くのはもう少し後にしてもよろしいのではなくて?」
シャーロットは首を傾げた。
シャーロットは、やはり機関車よりは植物の研究に力を入れて、まず国力を上げる方が先と考えたのだ。
「うん。そうだね、そっちを優先しよう。でもさ、ランバラルドと行き来するようになったら機関車があった方が便利だからなぁ」
シャーロットがライリーへの想いを断ち切ったことを知らないフレッドは、シャーロットがライリーを思う気持ちを大事にしてやりたいと思っていた。
いつか、シャーロットが正妃としてランバラルドに嫁いだ時に、機関車があればボナールの王としてシャーロットが政治をする時に、シャーロットの体が楽になるのではないかと思っていたのだ。
逆に、シャーロットはフレッドがランバラルドへ帰る日のことを考えていた。
元々、フレッドはランバラルドの宰相子息だ。
いつか、ランバラルドに帰るのだろう。
そしてたまにボナールに来る時に、機関車は使われるはずだ。
責任感のあるフレッドを理解しているからこそ、帰ってからも様子を見に来るフレッドが、容易に想像できた。
ふたりとも、機関車があればいいとは思いつつも、あれば別れが早くなるとも思っていた。