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人質姫と忘れんぼ王子 番外編  作者: 雪野 結莉
IF フレッド様の人質姫
32/37

フレッドルートおまけ フレッド様の宝物

 婚姻式の夜、シャーロットは疲れていたが、ゆっくりと湯あみをし、温泉のようにはいかないが、充分に、お風呂で疲れを取っていた。


 お風呂から上がると、ジュディが支度を手伝いにやってくる。

 いい香りのするボディオイルを塗り、透き通るようなシャーロットの肌は、しっとりと吸い付くようになめらかになっていった。


「姫様、いえ、シャーロット様。どうぞこちらをお召しになってください」

 きれいにたたまれた寝衣を差し出すジュディに、シャーロットは首を傾げた。

「シャーロット様なんて呼んで、どうしたの?」

「もう、ご結婚されて、立派な大人になられましたシャーロット様を、いつまでも姫様とお呼びするわけには参りません。きっとすぐにお子さまもお生まれになることでしょう。なので、今日限りで姫様は卒業です。今度は、シャーロット様のお子さまが女の子だったら、その方を姫様とお呼びします」

「ジュディ……」

 シャーロットはジュディに認められたようで、嬉しくなった。

 でも、今までの呼び名でなくなったことは、ちょっぴり寂しかったが、それは内緒だ。


 ジュディから寝衣を受け取り、着ようとするも、それを広げて眉を寄せた。

「なあに、ジュディ。こんな薄い寝衣では風邪をひいてしまうわ。いつもの寝衣はないの?」

 ジュディが渡したのは首回りが大きく開いていて、前ボタンにレースがあしらわれた品の良い新婚用の寝衣だった。

「え、でもシャーロット様。今日はフレッド様をお部屋でお待ちするんですよ?」

「それなら尚のこと、起きて待っているのだから厚手じゃないと風邪ひいちゃうわ。いつものあの胸元が編み上げ紐でリボン結びをする寝衣が可愛くていいのだけれど……」


 ジュディはここで気がついた。

 シャーロットは閨教育を受けていないことを思い出したのだ。


 あー……。そうよね。知らなかったらそう言うわよね。

 でも、今更どうすることもできない。

 これからマッハで閨教育をおこなったとしても、フレッド様が寝室に入る前に終わる気がしない。


 ……大丈夫!

 フレッド様だし。

 ランバルドでは浮名を流したと、ギルバート様から聞いてるし。

 きっと、なんとかしてくださる。


 ジュディは心の中で、問題をフレッドに丸投げした。


「わかりました。シャーロット様。今すぐいつもの寝衣をお持ちしますね」


 シャーロットはいつも、寝相の悪いシャーロットが風邪をひかないようにと、ジュディが用意した寝衣を使用している。

 綿の肌触りの良い、袖は手首のところでゴムで留められ、胸は編み上げ紐で首元まで絞まっているものだ。

 初夜に訪れる花婿からしてみたら、鉄壁の鎧とも取れるものだろう。

 ジュディはそれを用意して、シャーロットに手渡した。






 フレッドはさっと湯あみをし、シャーロットの寝室の前に立っていた。

 今日からは、王の主寝室であるシャーロットの寝室で、共に寝起きをするのだ。

 コンコン。

 ノックをすると、鈴を転がすような声で、中からシャーロットが返事をした。


 ドアを開けて中に入ると、すでに明かりを落とした室内にシャーロットは居た。

 大きな天蓋付きのベッドの側の、テーブルセットに座り、テーブルの上をぼんやりと眺めているところだった。


 フレッドはシャーロットに近付いて声を掛ける。

「シャーロットちゃん、今日はお疲れ様。とっても綺麗だったよ」

 シャーロットはフレッドに満面の笑みを浮かべて立ち上がった。

 フレッドは腕の中にシャーロットを閉じ込め、きゅっと力を入れた。

「フレッド様もとっても素敵でしたわ」

 そしてそのまま、シャーロットもフレッドにぎゅっと抱きついた。


 フレッドはなんの気無しにシャーロットの肩越しにテーブルの上を見ると、そこには何故かティースプーンが一つポツンと置いてあった。

「シャーロットちゃん、テーブルの上のスプーンは何? お茶を飲んでいたわけじゃないよね?」

 ティーセットはテーブルの上になく、置いてあるのはティースプーン一つのみだ。


 シャーロットはパッとフレッドから離れて、恥ずかしそうにテーブルを見た。

「実は、ジルベール陛下が結婚のお祝いに銀のスプーンを贈ってくださると言っていて。私、とても楽しみにしているのですが、どうやったらスプーンを飲み込めるか考えていたのです」


「へ? スプーンを飲み込む?」

 フレッドは、少し考えて、そういえば生まれてくる赤ちゃんが銀のスプーンをくわえて生まれてくると幸せになれるって話があったなと思い出す。


「あのね、シャーロットちゃん。お母さんが銀のスプーンを飲み込んでも、赤ちゃんのところには届かないんだよ」

「えっ、では、どのようにしたらいただいたスプーンを赤ちゃんに届けられるのですか?」

 シャーロットは不安げにフレッドを見上げる。

「大丈夫。生まれてきたらすぐにスプーンを赤ちゃんに渡してあげよう。それに、オレと君の赤ちゃんだよ。幸せになれるに決まってるよ」

 シャーロットは勘違いを恥ずかしく思ったが、フレッドが自分たちの赤ちゃんは幸せになれると言ってくれていることに、感動した。


 頬を赤く染めて潤んだ目で見上げるシャーロットを、フレッドは再びぎゅっと抱きしめた。


「シャーロットちゃん。少し体が冷えてるよ。早くベッドに行って毛布にくるまろう」

 フレッドがシャーロットの耳元で囁く。

 シャーロットはフレッドの腕の中で、ぴくんと身を震わせた。

「……はい」

 フレッドは真っ赤になったシャーロットがかわいくてかわいくて。

 肩を支えて膝に腕を通し、横抱きにしてベッドへと向かった。


 ベッドにシャーロットを下ろし、シャーロットに覆い被さる。

 潤んだ瞳で上目遣いにフレッドを見るその姿に、フレッドは夢を見ているような幸福感に包まれていた。

「フレッド様、あの、大好きです」

「オレも……」

 フレッドは胸がいっぱいで、それだけしか言えなかった。


 フレッドが腕の中のシャーロットを確かめるようにもう一度抱きしめると、シャーロットは幸せそうに笑みを浮かべた。

「ふふ。こんなに幸せなんですもの。コウノトリさんもすぐに赤ちゃんを連れてやってきてくれますわね」

「コウノトリさん?」

「ええコウノトリさんですわ。フレッド様もご存知でしょう? 仲のいい夫婦にはコウノトリさんが赤ちゃんを運んで来てくれますのよ。コウノトリさんがお母さんのお腹にキスをすると、運んできた赤ちゃんがお母さんのお腹に宿るんです。コウノトリさん、今夜いらっしゃるかしら?」


 フレッドはコウノトリを信じているシャーロットを心から可愛いと思った。

「ねえ、知ってる? コウノトリさんの他にも赤ちゃんがやって来るお話があってね。新婚の夫婦がキャベツ畑に行って引き抜いたキャベツが良く育っているかどうかで、その夫婦の未来を占うんだ。運がいいと、キャベツの中に赤ちゃんがいるんだって」

「まあ! キャベツから赤ちゃんが?」

「そう。だから、赤ちゃんが欲しいお嫁さんはキャベツをたくさん食べるといいんだってさ」

「フレッド様って、とっても物知りですのね。ふふ。では、私もたくさんキャベツを食べますわね」

「うーん。でもね、オレ、もっと早く赤ちゃんが来てくれる方法知ってるんだけど、オレのこと信じてくれる?」

「もちろんですわ。どうするんですの?」

「お父さんとお母さんになる人が、すっごくすっごく、仲良くしたらいいんだよ。ねぇ、仲の良いお父さんとお母さんになるために、キスしてもいいかな」

 フレッドが甘くそう言うと、シャーロットは顔を真っ赤にして頷いた。


 そうして、フレッドはシャーロットと、たくさんのキスをした。







 フレッドとシャーロットは、たくさんたくさん仲良くしたので、婚姻式から一年も経たないうちに、二人の元には赤ちゃんがやって来ました。


 よく晴れた空に、これまでで一番大きな虹の掛かった日のことでした。





 ☆☆☆~fin~☆☆☆






 *****************




 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

 これにて、ifルートは全て終了です。



 これも妄想ですが、最初は女の子が生まれ、フレッドはシャーロットによく似た女の子にデロデロになります。

 しかし、ギルジル舅コンビがボナールに入り浸り、フレッドはため息をつきます。

 ギルバートはシャーロットから姫を預かり、ランバラルドへちょこちょこ連れ帰り、フレッドに嫌な顔をされます。鉄道も通るようなり、気軽に連れて帰ってしまうのです。


 また、ライリーもデイデアの王女と結婚し、政略結婚ながらも優しいライリーは互いを大事にし、燃え上がるような恋ではありませんが、徐々に仲のいい夫婦となり、2人の元にも赤ちゃんが生まれ、年の近い隣国の子ども同士、仲良くなります。



 妄想は尽きることがありませんが、この辺で……。



 このお話は、人質姫のキャラクターを愛してくださったみなさまのおかげで誕生しました。

 心から、御礼申し上げます。

 ありがとうございました!


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