4章 4 最終回
よく晴れた日、ボナールで国王の婚姻式が行われることとなった。
大神殿の前で、ギルバートは腕を組みあきれたように呟いた。
「だから、わからんと言ったのだ。やはり、ライリーよりシャーロットの方が早く結婚したではないか」
「ギルバート様~、いじわる言わないでくださいよ~」
胸に"シャーロット"をブートニアにして差し、主役のタキシードを着たフレッドが頭をかきながらギルバートに照れた笑みを向ける。
この場にシャーロットはいない。
大神殿の中で神官長から婚姻前の教えを受けているため、この場には花婿のみがいるのだ。
側にいたディリオンとコンラッド、ジェイミーはあきれた笑いを浮かべていた。
「まったく。ボナールの宰相になったかと思えば、今度はボナールの王配か。忙しいことだな」
「まあまあ、ディリオン。いいじゃないかフレッドはずっと忍んで来たんだ。それが実るなんて、めでたいことじゃないか」
ジェイミーもうんうんと頷く。
かつて、祖国ランバラルドの為に共に国に仕えた仲間が、今日の婚姻式に出席するため、ボナールへと来てくれた。
残念ながら、ライリーはボナールの婚姻式に出席することができなかった。
敗戦国であるボナールの婚姻式に国王が国を空けてまで出席するのは不可能だったのだ。
しかし、ライリーの結婚式には、ボナールから国王夫妻が出席することとなっており、ライリーにはその時に会えるだろう。
そうして、ランバラルドの面々とフレッドが式場である大神殿の前で立ち話をしていると、帝国のジルベールが現れた。
「なんだ。今日の花婿がこんなところで油を売っていていいのか?」
「これはジルベール陛下。本日はご出席ありがとうございます」
フレッドが頭を下げると、ジルベールは嫌そうな顔をした。
「ふん。わたしの可愛いシャーロットが結婚するというのだ。出席しないわけがなかろう」
「は、はあ」
フレッドはバツの悪い表情を浮かべる。
シャーロットの両親はすでに亡くなっているが、叔父であるコーディが舅代わりとなっている。
ただし、コーディはスネに傷持つ身である。あまりうるさいことは言わない。
しかし、何故だか血縁関係のない舅がうるさいことを言うのだ。
ギルバートとジルベール。
何故か二人から舅イビリをされるフレッドであった。
「おい。そこの先代王弟子息殿。昨日言っていたシャーロットへの贈り物は手配できたのか」
ジルベールが偉そうにギルバートに声を掛ける。
「帝国皇帝殿。わたしの贈り物は壮大なため時間がかかるのでね。今後を楽しみにしていて欲しい」
「ふん。負け惜しみを。わたしは昨日あれから直ぐに手配をしたぞ。明日には見事な銀細工のスプーンがこの城に届く」
「は!スピードなんぞ、なんの自慢にもなりませんな」
「なにおう!」
ギルバートとジルベールが言い争っているうちに、フレッドはこっそりとその場を後にした。
そして、厳かに式が始まる。
ボナールの大神殿。
ステンドグラスから光が溢れて、虹のように見える。
扉から一直線につながる赤い絨毯の上を、白いドレスに身を包み、フレッドとそろいの花"シャーロット"で作られたブーケを持ってシャーロットは祭壇へと進む。
祭壇へ進む絨毯の両サイドには、式に出席している少数の貴族と来賓が長椅子に座り、静かにその様子を見守っていた。
パイプオルガンからの音が止むのと、シャーロットが祭壇に到着するのはほぼ同時だった。
シャーロットは神官長の前に跪き、頭を垂れる。
祭壇の端から神官がふたり、神官長に近付く。
ふたりの手には、神木の枝と聖水の入った水瓶があった。
神官長は、青葉のついた神木の枝を手にし、シャーロットの頭上に翳す。
「あなたのこれからの人生が、幸せ溢れたものになりますように」
そのまま、一振りして、神官の手に戻した。
シャーロットが立ち上がると、再びパイプオルガンの音がして、扉からフレッドが現れた。
一歩一歩、ゆっくりと祭壇へと歩いてくる。
シャーロットは白いタキシード姿のフレッドを見て、涙が出そうになる。
これまでも、ずっとシャーロットを支えてきてくれたフレッド。
これからは、シャーロットもフレッドを支えていこうと、そっと心に誓った。
一方、フレッドも祭壇で待つシャーロットを見て胸が一杯になっていた。
シャーロットちゃん、綺麗だな。
白いドレスがフワフワしていて天使の羽のようで。
長かった……。
決して実らぬ恋だと思った。
それでもいいと、彼女の役に立てるなら、自分の想いなど殺すことができると、そう思っていた。
けれど、シャーロットちゃんはオレを見ていてくれたんだ。
オレが持っている全ての力で、シャーロットちゃんを幸せにしよう。
そして、フレッドも祭壇まで来ると、神官長の前に跪く。
シャーロットもそれに合わせて再度跪いた。
神官長は、フレッドの頭上に神木の枝を翳す。
「これほど強くお互いを想い合うご夫婦は見たことがありません。どうぞ、お幸せに」
神官長はフレッドに小さく囁く。
次に、枝を聖水に浸し、今度は2人の頭上で三度大きく枝を振るった。
細かい水飛沫が上がり、大神殿のステンドグラスから差し込む太陽の光に反射して、虹色が2人の頭上を覆った。
「神の祝福が得られました。これでお2人はご夫婦となられたのです。お互いを思い遣り、苦しいことも、幸せなことも、分かち合い、夫婦の絆を忘れないでいてください」
神官長の言葉が終わると、シャーロットとフレッドは立ち上がる。
フレッドはシャーロットの右手薬指にはめられた七色の宝石が埋め込まれた指輪を抜き取り、今度はシャーロットの左手薬指にそっと挿し入れた。
シャーロットもフレッドの右手薬指から指輪を外し、フレッドの左手を取った。
「フレッド様、愛しています」
心から想いが溢れ出て、予定になくシャーロットが言葉を紡ぎ、フレッドの薬指に指輪をはめた。
フレッド心に、シャーロットの想いが染み込んで来る。
シャーロットはフレッドを窺うように、おずおずと顔を上げた。
フレッドはそんなシャーロットを見つめる。
絶対に、シャーロットちゃんを幸せにする。
シャーロットちゃんが大事にしているボナールも、守ってみせる……!
たまらなく愛しいシャーロットの顔を見ているうちに、フレッドは引き寄せられるようにシャーロットの唇にキスをした。
ボナールの婚姻式の式典に、誓いのキスは含まれていない。
ハッと我に返ったフレッドとシャーロットは、顔を真っ赤にした。
「ほっほっほ。シャーロット陛下、あなたたちは本当に愛し合っておられるのですな」
神官長は2人に笑みを向け、次に長椅子に座る出席者に向けて、宣言をする。
「神の祝福を受け、虹の祝福も受けて今、ここに新たなる夫婦が誕生いたしました。2人はどんなことがあっても手を取り合い、困難も乗り越えて行くでしょう。国王陛下夫妻と、この国は、今後見たこともないような幸せな未来を迎えると、わたしは予言します」
かつて、前王の結婚式でも、その他の貴族の結婚式でも、神官長や神官が未来の幸せを予言したことなどなかった。
目の前にいる、本当に心から寄り添い、愛し合う二人の姿と神官長の言葉に、そこにいる全ての人々が歓声を上げるのだった。
これは、長い間、運命のいたずらに翻弄されたお姫様と、お姫様を守り抜いてきた青年の愛溢れる物語です。
☆☆☆fin☆☆☆
これで、ifフレッドルートは終わりです。
ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
あと1話だけ、本家と同じように、婚姻式の夜のお話をおまけとして考えています。
更新まで少しお待ちくださいね。




