3章 5
翌日、シャーロットはギルバートの滞在している部屋を訪ねた。
ノックの音の後に、ギルバート様の声で入室を許可する言葉が聞こえた。
ガチャ。
「ギルバート様、失礼いたします」
「どうした? シャーロット」
ギルバートは部屋のソファで寛いでいるようだった。
「ギルバート様、初めてボナールへいらしてくださったのですもの。色々とご案内したいところがございますの。お時間あればいかがでしょうか?」
「あぁ、特に用もないが……。シャーロットは大丈夫なのか? 一国の王になったのだろう」
「大丈夫ですわ! うちの宰相はとても優秀なので、私がいなくとも国は回ります!」
「シャーロット……それを元気いっぱい言ったらダメだろうが……」
「では、私はこれからお弁当を作りますので、2時間後に城の馬車で出掛けましょう。楽しみにしていますわね」
シャーロットはニコニコと、ギルバートの部屋を後にした。
「シャーロット……。あの表情では読めんな」
ライリーの縁談に傷ついているのか、それとももう過去の恋となっていたのか。
ギルバートは短い滞在期間の中で、シャーロットの本心を知りたいと思っていた。
シャーロットが願うなら、例えどんな困難が待ち受けていようとも、叶えてやりたいと。
2時間後に、本心が知れることを願って、窓の外を見ると、雲ひとつない青空が広がっているのだった。
ボナール城からガタゴトと馬車に揺られて、しばらく行くと、シャーロットがギルバートに見せたがっていた施設に着いた。
護衛のアーサーと、ギルバートの護衛は、少し離れたところから二人を見守っていた。
「シャーロット、ここは?」
「ここは新しくできた、ボナール国立植物園ですわ」
自慢げに建物の中に入るように言う。
ギルバートがゆっくりと、中に入ると、建物の中にも花壇があり、植物が植えてあった。
「これは観葉植物といって、室内でも育てられる植物なんですの。ある程度日に当ててあげれば育ちます」
「へぇ。室内でも育つとはすごいな」
歩き進んで行くと、建物を通り抜け、庭園に出た。
そこには、色とりどりの花が咲き、シャーロットが走って花のそばに行くと、太陽の光がキラキラとシャーロットを照らした。
「ご覧になってくださいませ。チューリップが満開ですわ」
満面の笑みでギルバートに自慢をするシャーロットを、ギルバートも珍しく微笑んで見ていた。
それから、二人並んで庭園の中を散歩して行く。
チューリップ以外にも、いくつもの花が咲いており、普段花など見る機会のないギルバートも楽しんで歩いていた。
「実は、ランバラルドで国立フラワーガーデンに連れて行っていただいたことがあって、ぜひボナールにも国立の植物園を作りたいと思っておりましたの」
懐かしそうに目を細めて、シャーロットは花を見ていた。
「……ライリーに連れられてか?」
ギルバートは迷いながらもその名を口にした。
シャーロットの目は一瞬、見開かれたが、また穏やかな表情に変わっていく。
「えぇ。ライリー陛下に連れて行っていただきました。いつか、サクラが満開の時に、また連れて行ってくださるとおっしゃっていました。まだ、実現しておりませんけれど」
「もう、ライリーのことはいいのか?」
口元に笑みを残したまま、シャーロットは下を向く。
「はい。良いご縁に恵まれたとのことですので、遠くからライリー陛下のお幸せを祈っていたいと思います」
「……そうか。だが、もしもまだ想いがライリーにあるのなら、わたしはシャーロットに力を貸すぞ?」
シャーロットはギルバートを振り返り、綺麗に微笑んだ。
「いいえ。もう想いはございません。確かに、ライリー陛下は初恋の人で、私の心の中に永遠に居続けることでしょう。ですが、私も心の整理を致しました。ライリー陛下は初恋の人であり、私とボナールの恩人でいらっしゃいます。ライリー陛下に何かあれば、私は全てを投げ打ってでもライリー陛下の元に行く覚悟はございますが、それは恋故にできた覚悟ではございません」
「そうか……。それなら、いい」
シャーロットのきっぱりとした物言いに、本心からの言葉であると確信を持って、ギルバートは肩の荷を降した。
「ギルバート様、ライリー陛下のお相手は、素敵な方でいらっしゃいますか?」
「ん? あぁ、ライリーの縁談か。デイデアの王女だ。少しくすんだ金髪に、湖のように澄んだ水色の瞳をしている。ライリーは幼少期にデイデアの港町で、金髪で薄い青色の瞳の女の子に一目惚れをしたんだが、なんでも、強く真っ直ぐに前を見る瞳が、その少女に似ているんだそうだ。それが、ライリーが観念して縁談を受け入れた理由らしい」
シャーロットは目を伏せて、足元に咲く花を見た。
「そうですか……。デイデアで出会った少女に……」
「シャーロット? デイデアがどうかしたか?」
ギルバートは心配そうに声をかけると、シャーロットは顔を上げ、元気にこう言った。
「ライリー陛下が奥様とお幸せになれるよう、虹の国の王として、心よりお祈り申し上げます」
シャーロットが太陽を仰ぐと、眩しさのせいかシャーロットの瞳から、一粒の涙が溢れた。




