3章 3
「ギルバート様、どういうことだよ。なんで、こんな大事な書状を持ってくるのに、ライリー本人じゃないんだよ!」
ギルバートは眉を寄せたまま答える。
「ライリーも直接来ると言っていたが、わたしとディリオンで止めたのだ。本人が来ても、何もいいことはない。決定されたことが、変更されることもない。だったら、もう本人同士は、顔を合わせない方がいいと、わたしが言ったのだ」
「でもっ!」
激昂するフレッドを、そっとシャーロットの手が腕を掴み、それを止める。
「フレッド様、いいのです。離縁届を本人が持ってくるなどありえません。ましてや、ライリー陛下は縁談がお有りとのこと。他の女に逢いに国を離れるなど、言語道断です」
立ち上がりかけたフレッドは、ソファに深く腰掛け直す。
おさまりはつかないが、シャーロットがそう言う以上、フレッドがギルバートに何かを言う資格はないと思ったからだ。
「ギルバート様、まだすぐには帰られませんわよね? 何日くらいご滞在されますの?」
「あ、あぁ。2.3日は滞在できるが……」
「でしたら、お部屋をご用意いたしますわね。お菓子もいくつかお作りして、おみやげにお持ち帰りいただけるようにいたしますわ。では、一旦失礼させていただきます。フレッド様、あとはよろしくお願いしますわ」
シャーロットは穏やかに微笑み、応接室を出て行った。
残された二人は、なんとも言えぬ気まずい空気の中にいた。
「シャーロットは、まだライリーのことが好きなのか?」
ギルバートはハーブティに口をつけ、フレッドに問いかけた。
「わかんないよ。あれからランバラルドのライリー陛下の話は、ボナール王室ではタブーとなってるんだ。オレも聞けないし」
フレッドは両手で頭を抱え込む。
「そうか」
「そっちはどうなんだよ。ライリーはもうシャーロットちゃんのこと、好きじゃないの?」
「多分、まだ好きだろうな」
「じゃ、なんで!」
「ボナールの女王を娶ることに利益を見出せない内閣が、ライリーとシャーロットの結婚に、強固に反対している」
「ライリーならそんなもの跳ね除けられるだろう?」
「ばかめ。もうあいつは王子ではないんだ。国王になり、我を通してどうなるか見定める目を持った。ここまで離縁届にサインをしなかったのは、あいつの未練だろうが、もう年貢の納め時と今回は素直にサインをしたよ」
「そんな……」
ギルバートは、離縁届にサインをしたライリーを思い出した。
想いを曲げて、サインをしなければならないライリーの気持ちも、ギルバートは理解していた。
「縁談の相手はデイデアの王女だ。あちらはボナールから鉱山を取り返してくれたランバラルドに恩義を感じているが、ランバラルドとしては結び付きを強固にし、鉄鋼の輸入を優遇してもらいたい。今後、産業が発展したら、必ず鉄は必要になる。ボナールでも鉄道へと取り組みを始めたのだろう? ランバラルドでも同じだ。これからは鉄が必要不可欠なものになる。デイデアは、王家が国の象徴となり、実際の国政にはあまり関わってはいないが、やはり王女であるからには多少の外交で役に立つ」
「……ライリーが、よくそんな欲まみれの縁談に頷いたな」
ギルバートはティーカップを置き、寂しそうに笑った。
「それが、王になるということだ」




