2章 4
「フレッド様」
シャーロットはワインを持って、フレッドの元へと急いだ。
「やあ、シャーロットちゃん。ダンス、とても上手かったよ。シャーロットちゃんのファーストダンスを見るのは2度目だけど、とても上達してたんだね」
フレッドはそう言いながらシャーロットの手を取り、混雑している場所からシャーロットを庇うように誘導する。
「フレッド様は? もうダンスは踊られましたか?」
「うーん。今日は踊らなくてもいいかなって」
「どうしてですの?」
「いや、別にどうしても踊りたいわけじゃないし」
「パ、パートナーの方はどうしていらっしゃいますの?」
フレッド様はバツ悪そうに、手にしていた琥珀の飲み物をクッと空けた。
「今日は裏方に徹しようと思ったから、パートナーはいないよ」
「そんな……だって、大臣が娘さんのパートナーをフレッド様に申し込むっておっしゃっていたわ。他のご令嬢だって、フレッド様とダンスをしたがっていた方はたくさんいらっしゃったのに」
シャーロットはフレッドがパートナーもなしにこの場に来ていることに罪悪感を抱く。
いつも自分がパートナーだったのに、エドワードとパーティーに来てしまったから、フレッドが一人で来る羽目になったのかと。
「シャーロットちゃん、別に、シャーロットちゃんのせいじゃないからね。オレはもうダンスとかはあんまり踊りたくないから、裏方に回っただけだから」
シャーロットの表情で、その思考を読み取ったフレッドが気遣うように言う。
「でも……そうだ! では、せめてお酒くらい楽しんで飲んでくださいな。同じものでいいですか?」
シャーロットはそう言って、自分の飲みかけのワイングラスをそばにあったテーブルに置き、空になったフレッドのグラスを手に取る。
「あ、待ってシャーロットちゃん」
フレッドが慌てて取り返そうとするが、シャーロットは近くにいた給仕にグラスを渡して同じものを頼もうとするが…。
「この匂い、これはブランデーではありませんね?」
てっきり、琥珀色の飲み物をブランデーだと思っていたシャーロットは、驚いてフレッドの顔を見る。
「……いやあ、男が酒も飲まずにここに居るのもなんだからさぁ。冷やした紅茶をグラスに入れてもらってたんだよ」
「どうしたんですの? フレッド様、ブランデーもワインもお好きでしたよね?」
シャーロットに問われて、フレッドは困ったように笑った。
「うーん。ちょっと気分じゃなかったんだよね。深い意味はないから、オレのことは気にしないでよ」
ダンスも踊らず、お酒も飲まず、本当に裏方に徹するためにフレッドは来ていた。
思っていたのと違う展開になり、シャーロットが戸惑ってフレッドを見つめていると、両手にワイングラスを持ったエドワードが現れた。
「シャーロット陛下、こんなところにいたんですか。ワインをお持ちしたんですが、どこにいらっしゃるのかわからず、随分探しましたよ」
エドワードはシャーロットにワイングラスを差し出すと、チラリとフレッドを見た。
「これはフレッド殿。どうされましたか?」
エドワードは笑顔であるのに目だけは笑っておらず、冷たい視線でフレッドを見た。
「いや、わたしも飲み物をもらおうとこちらに来たのです。シャーロット陛下、では、どうぞパーティーをお楽しみください」
そう言ってフレッドはその場を後にした。
フレッドの背中を見送っていると、何人かの令嬢がフレッドに声をかけていた。
きっと、ダンスを申し込んでいるのだろうが、フレッドはその誰とも手を取ることはなかった。
「シャーロット陛下?」
エドワードがシャーロットの瞳を覗き込むと、シャーロットは我に返り、にこりと微笑みワインを飲み干した。




