2章 3
会場では、ちゃんと聴講生であるボナールの侯爵子息をパートナーとして、リリーはパーティーに出席していて、シャーロットはホッと胸を撫で下ろした。
シャーロットが次に気になったのはフレッドだったが、見回してもフレッドの姿は確認できなかった。
シャーロットがやってきたのを見つけると、コーディはそそとシャーロットに近付く。
「シャーロット陛下、開始のご挨拶をお願いします」
「わかったわ」
シャーロットがそう言うと、エドワードは壇上までシャーロットをエスコートする。
壇上裾まで来ると、シャーロットは一旦エドワードの手から離れた。
「では、シャーロット陛下。後ほど」
「ええ、エドワード様」
コーディはエドワードが離れたのを見計らい、シャーロットに耳打ちをする。
「なんでフレッド殿がパートナーじゃないんだ」
「もお。叔父様まで。エドワード様がパートナーを買って出てくださったから、たまにはフレッド様にも羽を伸ばして綺麗なご令嬢とパーティーに出席していただこうと思っただけです」
「……シャーロット、おまえ、まさかそれそのままフレッド殿に言ってないだろうな」
「言いましたけど?」
「このばか……」
「ばか? 叔父様、失礼ですわよ」
「いいからさっさとパーティー開始の挨拶を終わらせて、フレッド殿を探せ」
「わかってますわよ!」
シャーロットは壇上中央まで移動する。
「今日はたくさんの方にお集まりいただき、感謝いたします。ボナールの発展のために、友好国エルシアからお二人の技術者を迎え、技術交流をすることができました。エドワード・ハミルトン侯爵令息、リリー・ハミルトン侯爵令嬢、お二人に盛大な拍手を」
会場から大きな拍手が聞こえた。
それが落ち着いた頃、静かに音楽が流れ出す。
「シャーロット陛下」
エドワードが前に出て、シャーロットへと手を差し出す。
シャーロットはその手を取り、ホールの中央へと移動した。
エドワードと見つめ合い肩に手を伸ばして、この舞踏会で一番最初のダンスを踊る。
即位した頃はあまり上手くなかったダンスも、フレッドと一緒にいくつもの夜会に出席するうちに、上手く踊れるようになっていた。
もちろん、パートナーはいつもフレッドだったが、パートナーチェンジして踊ることもあり、フレッド以外と踊るのは初めてではない。
しかし、ファーストダンスをフレッド以外と踊るのは、即位式以来初めてのことだった。
曇りそうになる表情を引き締め、笑顔をエドワードへと向ける。
にっこりと笑いかけると、エドワードはぽっと頬を染めた。
「こんなに軽やかなダンスを踊るのは初めてです。永遠に、わたしが陛下のパートナーならいいのに」
「エドワード様、お上手ですね。きっと、お国に帰られたら、永遠のパートナーとなられる方がお待ちでしょう?」
動揺からか、シャーロットのステップが少し崩れるが、エドワードが気が付かないほど僅かだったことに、シャーロットは安堵する。
「わたしに婚約者はおりません。陛下にも、確か婚約者はおられませんよね?」
「私は、ランバラルドで側妃として過ごした時間がある女です。清廉なエドワード様の永遠のパートナーなど、務まりませんわ」
「過去は過去です。それに、ランバラルドの王子とは白い結婚だったと聞いておりますよ」
シャーロットが、次の断りの言葉を探していると、ちょうどよく音楽が終わりをつげた。
「シャーロット陛下、もう一曲お付き合いいただけませんか?」
エドワードは再度シャーロットへと手を差し出す。
「申し訳ありません。2度続けて踊るのは、ルール違反ですわ。それに、ご覧くださいませ。美しい令嬢が、エドワード様とダンスを踊るためにお待ちになっていらっしゃいますわ」
エドワードが顔を上げると、頬を染めた令嬢たちが、凛々しく博識のエドワードを射止めんと、こちらの様子を伺っていた。
「私はあちらで飲み物をいただいてお待ちしております。ボナールの子息、令嬢とも交流を深めてくださいませ」
エドワードは、ふっ、と力なく笑った。
「では、行って参ります。必ず貴女の元に帰ってきます。最後まで、エスコートはわたしだけにしてください」
「もちろんですわ。今日のパートナーはエドワード様ですもの」
シャーロットが微笑んでそう言うと、エドワードは諦めて令嬢たちの渦の中へと飛び込んで行った。
エドワードが無事、次のダンスを踊り出したのを見て、シャーロットもダンスホールから外れた。
壁際から見ると、色とりどりのドレスが回るたびに広がり、ホールに花が咲いたようだった。
ダンスの輪の中には、先ほど分かれたエドワードも、リリーも居たが、フレッドだけが見つからない。
まさか、フレッドはパートナーを見つけることができなかったのだろうか。
シャーロットは不安な気持ちを打ち消す。
あんなに素敵なフレッドに、パートナーが見つからないはずがない。
シャーロットの予想では、リリーをパートナーにするものだと思っていたが、リリーは別の貴族子息をパートナーにしている。
その話を聞いた時、シャーロットは昼間廊下ですれ違った時に立ち話をした大臣の言葉を思い出していた。
大臣には年頃の娘がいるのだが、フレッドに憧れを抱いていると言う。
シャーロットがエドワードをパートナーにすると聞いて、大臣は娘のチャンスとばかりに、フレッドにパートナーを申し込むと言っていた。
だから、リリーがフレッドをパートナーにしなかったのは、他の令嬢がすでにフレッドと約束をしたものだとばかり思っていたのだ。
ホールの隅から隅まで目を凝らして見てみたが、フレッドの姿を探すことはできなかった。
仕方なく、飲食スペースに移動してワインを手に取ろうとした時に、やっとフレッドを見つけることができた。




