2章 1
シャーロットはクローゼットの前で考え込んでいた。
私のクローゼットのドレスって、フレッド様の趣味でものの見事に黄色ばっかりだわ。
まあ、パートナーをフレッド様が務めてくださるから、フレッド様に合わせていたのもあるけれど、今日はエドワード様に合わせないといけないものね。
ふと衣装部屋に視線を巡らすと、ドレスのクローゼットの隣に掛けられていたワンピースが目に入った。
これは……、ライがボナールの町に出た時に買ってくれたワンピースだわ。
清楚な青色に白のレースのワンピース。
……青かしら?
やっぱり、ライと同じ色合いを持つエドワード様と合わせるなら青よね?
シャーロットはクローゼットを探して、黄色の大群の中から青色のドレスを見つけた。
「姫様~、ドレスはお決まりになりましたか?」
ジュディが衣装部屋に顔を出す。
「ええ。これにしようと思うの」
青色のドレスをその身に充てて、ジュディを振り向く。
「姫様、先程フレッド様の今日のお衣装を見てきましたが、それでは合わないのではないかと」
ジュディは腕を組んでシャーロットの様子を伺った。
「いえ、今日はエドワード様がエスコートを買って出てくださったので、甘えようかと。たまにはフレッド様も他の美しいご令嬢の手を取ってパーティーを楽しむべきだわ」
いい考えだと思っているシャーロットは、満面の笑みをジュディに向けた。
けれど、ジュディは渋い顔をシャーロットにむける。
「姫様、それは全く名案などではありませんからね。フレッド様のお気持ちを考えたことはありますか? 今までフレッド様がお心を砕いてお世話していた姫様が、ある日突然他の人をパートナーにしたら、どう思うかお分かりですか?」
「あー、肩の荷が降りた?」
「ち、が、い、ま、す!!」
ジュディがスゴイ勢いでシャーロットに迫ってくる。
「姫様、ずっと一緒にいた人がいなくなったら、寂しいでしょう? フレッド様だって、いきなり姫様が別のパートナーとパーティーに出たら、寂しいに決まっています」
シャーロットはジュディの言葉に、素直に耳を傾けた。
「そうね。いきなりはないわよね。私、フレッド様にお話ししてくるわ」
「エドワード様をお断りする方が早くないですか?」
シャーロットはドアの方に走り出しながら、ジュディに振り返る。
「ダメよ。だって、エドワード様とはしっかり約束してしまったのですもの。フレッド様には、ちゃんとお詫びいたしますわ」
そう言い残し、シャーロットは部屋を出て行った。
「……姫様の問題なんだけど、できればわたしとしては、フレッド様を応援したいのよねぇ。あんなに健気なんですもん」
ジュディは一人、ため息を吐きながら、青いドレスにブラシを掛けた。
シャーロットがフレッドを探していると、コーディが廊下で侍従と話をしているのが見えた。
「おじっ、コーディ。フレッド様を見かけなかった?」
危なく、いつもの癖で叔父様と呼びかけて言い直す。
「フレッド殿ですか? まだ執務室におられましたが……」
「そう。ありがとう」
今夜はパーティーだというのに、まだ仕事をしているフレッドにあきれながら、シャーロットはその場を後にした。
コンコン。
形ばかりノックをして、すぐに執務室のドアを開けると、フレッドが自分の机で仕事をしていた。
「シャーロットちゃん、どうしたの? そろそろパーティーの支度をしないと、間に合わないんじゃないの?」
書類から顔を上げて、フレッドは微笑んだ。
「シャーロットちゃん、今日は少し頬が赤い? なんか、いいことでもあった?」
「えっ、あ、きっと今走ってきたからですわ」
「え~、一国の女王様が走っちゃダメだよ~」
くすくすと笑うフレッドの側までシャーロットは歩いて行き、じっとフレッドの瞳を見つめた。
ヘーゼルの優しい瞳が、シャーロットを見つめ返す。
「フレッド様、今日のパーティーですが、エドワード様にエスコートのお申し出をいただきましたの。エドワード様にパートナーになっていただきますので、フレッド様も今日は羽を伸ばして綺麗なご令嬢とパーティーにご出席なさったらいかがかと思って……」
シャーロットは、自分の言葉でフレッドの瞳が段々と悲しみ色に染まっていくのがわかり、言葉を止めた。
「そっか。シャーロットちゃん、今日はエドワード殿の手を取って踊るんだね。わかったよ。それを言いに来てくれたの? オレのことは大丈夫だから、早く支度をしておいで。オレのパートナーじゃなくても、綺麗に着飾ったシャーロットちゃんを見るのは、楽しみなんだから」
フレッドは立ち上がり、シャーロットの背中を押して支度をしに戻るようにと、執務室の外までシャーロットを連れて行った。
「シャーロットちゃんの私室まで送ろうか?」
「いえ、ここで結構ですわ。フレッド様もお仕事は終わりにして、お支度してくださいませね」
「うんうん。わかってるって」
フレッドは明るくシャーロットに手を振り、部屋の中に戻った。
そして、誰も入って来られないように、内鍵をかけ、そのままその場にズルズルと座り込んでしまった。
「結局、ライリーがいてもいなくても、オレはシャーロットちゃんの目には入らないんだよなぁ」
どこまでいっても、『優しいフレッド様』だ。
フレッドは、これ以上シャーロットの口から、他の令嬢との付き合いをすすめる言葉を聞きたくなくて、シャーロットを執務室から追い出した。
それでも、フレッドはシャーロットの側でシャーロットに仕えることをやめられない。
例え、選ばれなくても、シャーロットの隣で見知らぬ男が笑っていようとも。
祖国に還らず、敵国であるボナールに居続けることの意味をシャーロットはわかっていない。




