1章 10
「お兄様! どういうことですの? 今夜のパーティーに、わたくしをパートナーとしてエスコートしてくださらないって」
ハミルトン家に二人に与えられた部屋の応接間では、リリーは泣きそうな顔でエドワードに詰め寄った。
「シャーロット陛下がオレをパートナーとして、パーティーに参加するとおっしゃってくださったんだ」
「そんな……! では、わたしはどなたをパートナーにすれば……」
「リリーの講義を聞きに来ていたボナールの侯爵子息がパートナーにしたいと言ってきていたではないか」
「それはもうお断りいたしました」
「では……」
エドワードはリリーに近付き耳打ちをする。
「フレッド殿をパートナーにすれば良いのでは?」
リリーはフレッドを名を聞き、頬を赤くする。
だが、すぐに首を横に振った。
「フレッド様はわたくしをパートナーにはしてくださいませんわ」
「何故?」
「フレッド様はシャーロット陛下を愛しておられるのです」
エドワードはリリーの言葉を鼻で笑う。
「愛してるって? あんなに近くに居ながら、ただ側にいるだけで? オレだったらあんなに孤独な場所に一人で立たせておかない。支え合い、思い合い、愛を育む」
リリーは悲しそうな顔でエドワードを見た。
「確かに、王というものは孤独でしょう。国を一人で背負うのは、シャーロット陛下のような細腕ではつらいこともおありでしょう。ですが
フレッド様はシャーロット陛下に無理強いをせず、臣下としてお支えすることを選んでいるのです」
「それは何故だ」
「シャーロット陛下のお話を聞いたことはございませんか? シャーロット陛下には想う方がおられるのです」
リリーの講義は心を込めて聴講生に話をする。
当然、生徒達からは人気があり、廊下ですれ違えば声をかけられる。
そこで、ボナールの話を聞くリリーには、シャーロットとフレッドが置かれた立場がよく見えたのだ。
エドワードはリリーを見つめた。
「ランバラルドの王か……。側妃であったとの噂を聞いたことはあるが、何年も前に離縁されておられるだろう?」
「シャーロット陛下のご意志であったかどうか……。それに、たとえシャーロット陛下のご意志であったとしても、離縁してすぐにふっ切れる訳でもありませんのよ、女心は。それがわかっていて、あんなに側で触れられない想い人を支えておられるフレッド様を、わたくしは尊敬いたします」
「は! オレにはわからんね」
どっかりとソファに腰を下ろすエドワードを、リリーは悲しそうな目で見た。
「お兄様は、それがわからなければシャーロット陛下を射止めることはできないでしょうね」
リリーは思う。
きっと、シャーロット陛下もフレッドも、まだ全てを思い切れない状態なのだろうと。
シャーロット陛下が過ごした日々は、あまりに過酷で、それを救ったランバラルドの王の存在は、大きいものなのだろうとも。
もし、ランバラルド王がシャーロット陛下の想いに応えてくれて、シャーロット陛下が幸せであれば、フレッド様もシャーロット陛下への想いは恋慕ではなく臣下としてのものに変えることもできるだろうが、今はランバラルド王もボナールへ来ることもないと聞く。
できれば、ランバラルド王とシャーロット陛下が幸せになった世界でフレッドに会いたかったと、リリーは叶えられないことを思った。
結局、リリーはフレッドをパーティーに誘うことはできず、声をかけてくれた侯爵子息に使いを出して、今夜のパートナーを得たのだった。




