1章 8
翌日も、シャーロットはエドワードの講義を聴き、フレッドはリリーの講義を聴くこととなっていた。
植物の本を片手に、重たい気分でフレッドは会議室への廊下を歩いていた。
「フレッド様~!」
後ろからリリーが小走りにやって来る。
色鮮やかな花柄のドレスを来た公爵令嬢は、輝くばかりの笑顔を浮かべていた。
「お待ちになって、フレッド様。行く先は同じなんですもの。ご一緒させてくださいませ」
「ああ、もちろん」
フレッドはリリーに笑顔を向けると、リリーはりんごの様に真っ赤になった。
とても美しいご令嬢なんだけど、どうしても身構えちゃうよなぁ。
なんだか、ランバラルドで相手にしていたご令嬢達と、同じ匂いがするというか……。
フレッドは不快感を微塵も感じさせずに、リリーをエスコートする。
「今日はどんな内容を予定されているんですか?」
フレッドは当たり障りのない会話を選ぶ。
フレッドに話しかけられたことを気を良くしたリリーは、嬉しそうに返事をした。
「今日は掛け合わせについてお話ししますわ。昨日の植物がよく育つ肥料のお話から、よく植物が育った後の段階と考えていますの」
「へぇ。掛け合わせかぁ。おもしろそうだね」
フレッドが興味を持ったのを確信すると、リリーは顔を赤く、興奮したようにフレッドに向き直る。
「そうなんですの! 植物は奥が深いですわ。より良い特徴を持ったもの同士掛け合わせて、もっと良いものを作る。とても素晴らしいことだと思いますわ。エリシアでは、スイカを掛け合わせて、種無しスイカというものを作りましたの」
「へぇ。確かにスイカは種が多いから、なければその方が食べやすいな」
「今はまだ作り始めたばかりで、まだ失敗も多いのですが、いつの日か市場に流通させてみせますわ!!」
熱心に語るリリーが可愛らしく、フレッドはくすりと笑う。
自分をしっかり持って、使命に燃えてる娘は好感が持てるな。
そんなところは少しだけシャーロットちゃんと重なる。
この子とシャーロットちゃんの違いは、シャーロットちゃんがオレに好意を寄せてないところかな。
そこが結構重要なんだけどね……。
講義用に取ってある会議室に入る。
こちらも、10名前後の聴講生が静かに席についている。
そこからは、先程フレッドを見て頬を染めていた令嬢とは思えない調子で講義が始まる。
ほんとに、この研究が好きなのだろうことが窺えた。
講義はお昼前から夕方まで続く。
熱弁を奮っていたリリーも、窓の外が夕日で赤くなるのを見て、本日の講義を終えた。
フレッドは手早く広げていたノート等を片付ける。
さっさと執務室に行かないと、またエドワードが居座っているかも知れないと。
だが、部屋を出ようとした時に、リリーに呼び止められた。
「フレッド様、もしよろしければ、もう少しご説明したいことがあるのですが……」
「リリー嬢、もう他の生徒は帰宅してしまった者もおりますよ。残った者だけで聴くのは不公平です。続きは明日お願いできますか?」
リリーは傷ついたような表情を見せる。
「いえ、あの、たくさんの生徒と一緒ではなく、フレッド様と二人でご相談したいのですが……」
研究に対する姿勢に、好感が持てていただけに残念だけど……。
「ごめんね。オレは元々機関車の方を担当するはずだったから、あんまり植物については明るくないんだ。だから、もし相談したいことがあれば、シャーロット陛下と時間を取れるようにするけど、どうかな?」
フレッドがきっぱりと断りの態度を示すと、リリーは顔を真っ赤にして泣きそうになりながら謝った。
「お忙しいところ、お引き留めして申し訳ありませんでした。講義を理由にしてフレッド様とお話ししようとして、お恥ずかしいです」
フレッドは心の中で思う。
ちゃんと自分の悪いところもわかってる。
とてもいい子だと思うけど、オレの心が傾くことはないんだろうな。
とても美人だし、昔のオレだったら、自分から誘ってたくらいだろうけど。
「ううん。オレと話したいと思ってくれてありがとう。オレは植物よくわかんないけど、また講義を受けているみんなで、ディスカッションでもしようね」
「……はい」
リリーは無理をして笑顔を作り、フレッドに笑いかけた。
フレッドもリリーに笑顔を向けて、部屋を後にした。




