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人質姫と忘れんぼ王子 番外編  作者: 雪野 結莉
番外編

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ギルバートのいたずら

こちらは「人質姫と忘れんぼ王子」の番外編です。

https://ncode.syosetu.com/n4005gc/

ランバラルド王国、王太子ライリーのいとこ、ギルバートのライリーへ仕掛けたいたずらの内容です。

「人質姫と忘れんぼ王子」PVアクセス3000突破記念での公開になります。

この作品単体でも読めますが、人物設定などの説明がないので、本編をお読みいただいてからの方がわかりやすいと思います。


尚、こちらは記念更新となりますので、次に何かあるまで更新されません。

……次もあるといいなと思っていますが。


お楽しみいただけたら幸いです。


 

 わたしはギルバート・フォンテール。

 この、ランバラルドの王弟の息子として育った。

 父上が王位に興味がなかったので、その父上に育てられたわたしも、王位に興味はなかった。


 父上はよく、旅の話をしてくれた。

 王位継承権第二位の父上は、行動が規制されると思いきや、数ある監視をすり抜けて、フラフラとしていたらしい。

 当時の国王も、父上よりも叔父上(現国王)の方が国王に向いていると言い、叔父上に帝王学を学ばせ、父上には叔父上の手助けになるような知識を学ばせた。

 そのため、諸外国を渡り歩き、様々な知識を仕入れてきたらしい。

 父上が得たものは、その話をしてくれたわたしの中にちゃんとある。


 だが、戦争によって父上は逝ってしまった。


 母上は父上が亡くなってから、実家の侯爵家に戻った。

 わたしも付いて行くはずだったのだが、城の中の反対勢力に邪魔をされ、城に残されることとなった。

 母上は、城を出て行く時に、わたしに何度も詫びていた。

 離れて暮らすが、わたしに何かあった時は、何もかもを捨てて駆けつけると、そう約束をして泣く泣く城を出て行った。


 母上が城から出て行ったのには理由がある。


 平和主義の叔父上を疎ましく思っているものが、政治を司る者の中にいたからだ。

 時は、隣国ボナールがデイデアに攻め入り、戦争に勝利した頃だったと思う。

 ランバラルドは国土もまあまあ広く、大国と中堅国の間くらいの国だが、小国であるボナールが領地を増やしているのを見て、ランバラルドも戦争を仕掛けるべきだと、声高に主張する奴がいた。


 平和主義の叔父上の息子、現王太子のライリーも平和主義だ。

 しなくていい戦争はするつもりはないと、きっぱりと言い切った。

 そこで、わたしが出てくる。


 優秀であったが、第二子のため国王になれなかった(と言われたが、父上本人はほんっとうに本心から王座は要らないと言っていた)父上の息子であるわたしを担ぎ上げ、王座を乗っ取り、戦争をしようと目論んだ。


 母上の実家を後ろ盾にし、権力を持ったわたしなら、それも可能だっただろう。

 だが、父上の思いを知っている母上は、わたしを城に残して実家に帰った。

 わたしを守るためだ。

 変に権力を持って、中央に担ぎ出されることのないようにしたのだ。



 前置きは長くなったが、そんな訳で、幼いわたしは、ライリーがしっかりしていないから、わたしが母上と離れて暮らさなければならなくなったと、逆恨みをしていた。

 もう、ほんとに逆恨みだ。


 ライリーとは、2歳しか年も離れていない。

 王位継承の観点から、わたしとライリーを比べる者も多くいた。


 ライリー殿下はあれもできます。

 ライリー殿下はこうでした。


 たわけ!

 子どもの時の2年は大きいのだ。

 ライリーにできることがわたしにできなくてなんの不思議があろう。

 と、今なら言えるが、当時のわたしには言えなかった。


 それに、ライリーの歳に追いついてみれば、はっきり言ってわたしの方が優秀だ。


 だが、そんな未来を知らないわたしは、ライリーと比べられて少し卑屈になっていたのだ。


 前置きは長くなったが、そんな訳で、わたしとライリーは仲が良くなかった。



 さて。

 ランバラルドには貴族学校というものがある。

 王族であろうが下級貴族であろうが、ノブレス・オブリージュを学ぶために通うのだ。

 14歳から通い、17の春に卒業する。

 1年間貴族としての仕事を学び、18歳で成人だ。


 2歳違いのわたしとライリーは、学校で学ぶ期間が重なった年がある。

 わたしが14歳、ライリーが16歳の時だ。


 学生のうちに、何事も経験することが大事だ。

 王宮では、実行に移すことは難しいが、ここでならできることを経験することにした。

 それは、いたずらだ。


 新入生のわたしが、上級生に甘えていたずらをする。

 まあ、許されることだろう。



 新入生のわたしとライリーとでは、校舎が違うが、この国の王子と王弟の息子のわたしは学内でも有名だ。知らぬ者はいないはず。


 昼休みに、ライリー目指して上級生の校舎に行っても、誰に咎められることもない。

 城のシェフに作ってもらったランチボックスを手に、ライリーの元へと急いだ。


「あら、ギルバート様。こちらは上級生の校舎ですわ。迷われましたか?」

 女性教員の1人が、ライリーを探してウロウロしていたわたしに声を掛ける。


 ちっ。うるさいな。


「ぼく、ライリーとお昼を食べようと思って探していたのですが、見つからなくて。先生、ライリーはいつもどこでお昼を食べていますか?」

 わたしは自分の容姿が可愛いことを知っている。

 一人称も「ぼく」に変えて、うるうると女性教員を見上げてみる。


「あ、あら、そうでしたの。ライリー殿下とはいとこになりますものね。お昼を一緒に召し上がるのでしたら、殿下はいつもカフェでお過ごしのようなので、カフェに行かれたらよろしいかと思いますわ」

「でも先生、先ほどカフェも見てみましたが、ライリーは居ませんでした」

「殿下はいつもカフェのテラス席にいらっしゃいますけど…。いらっしゃいませんでしたか?」

「すみません。屋内しか見ませんでした。もう一度行ってみます」

 わたしはにこやかにお礼を言って、その場を後にした。


 ちっ。ライリーの奴め。

 城で王族はいつも内側にいろと言われていたのを忘れたのか。

 テラス席なんて、狙撃されたら大当たりで殺されてしまうぞ。


 学内でそれはないと思うが、わたしはちゃんと言いつけを守って、テラス席に行ったことはなかったが、ライリーを思ったらバカバカしくなった。

 わたしは王位は継承しない。

 狙撃される意味がない。

 今度からはテラス席も使おう。

 王太子がソレなのだから、なんの問題もないだろう。


 女性教員に言われたように、テラス席に行くと、ライリーとゆかいな仲間たちが賑やかに談笑していた。

「ライリー、こんにちは。ぼくも、ここでお昼を食べてもいいですか?」

 わたしがおずおずと(演技で)近付くと、みんなが一斉にこちらを向く。

「おおー、ギル。よく来たな。今年入学だと聞いていたが、一向に姿を見なかったんで、心配してたんだ」

 そうだろう。

 会いたくないから避けていたのだ。


 ライリーの隣に座っていたフレッドが気を利かせて、席をあけてくれる。

 わたしはちょこんとそこに座った。


「ぼく、料理長に頼んでランチボックスを作ってもらったのですが、ライリーはもうお昼を食べてしまったのでしょうか?」

 もう食べていたと言っても、これも食ってもらうがな。


 うるうると上目遣いで見つめると、ライリーはわたしの頭をそっと撫でた。

「いや、まだだ。今メニューを見ていたところだが、みんな、オレはギルの持ってきたランチボックスで昼食にするから、みんなはいつも通り注文してくれ」

 ライリーはゆかいな仲間たちにそう告げた。


 わたしは早速、ライリーにランチボックスを手渡した。

 中身は、料理長特製サンドイッチにサラダにチキン、そして少量のペンネアラビアータだ。

 この、ペンネアラビアータが曲者だ。

 普通の唐辛子を使ったソースではなく、悪魔のソースをベースに、ハバネロを足しているという、激辛ペンネアラビアータなのだ。

 もちろん、わたしの分は通常のペンネアラビアータにしている。


「おー。さすが城の料理長。ランチボックスにしてもうまそうだな」

「そうでしょ。どうぞどうぞ。早く食べてね」

 自分で言ってて鳥肌が立ちそうだが、わたしはライリーにランチボックスを勧めた。


 ヤツがパクパクと食べ進むのを横目で見る。

 そして、やっとペンネアラビアータに手を付ける。


 さあ、来い。

 激辛の洗礼を受けろ。


 ところが、ライリーは平気な顔して、普通にペンネを食べている。

「あの、ライリー、美味しい?」

 ライリーは平気そうに、本当に平気そうににこやかにわたしに微笑みかけた。

「ギルが持ってきてくれたランチボックスは、とってもうまいぞ」


 そんなバカな!渡すランチボックスを間違えたか?

 ライリーがよそ見をしている間に、ライリーのランチボックスに入っているペンネをそっとつまむ。


 ーーーー!!!


 辛い。

 猛烈に辛い。

 ごくごくと水を飲むが、それだけでは耐えられない。


「ら、らいりー、ぼく、ちょっとようをおもいだしたから、とちゅうだけどここでしつれいする」

 辛くて呂律が回らない。

 目も涙目だ。

「ん? ああ、いいけど、お前ほとんどランチボックスに手をつけていないじゃないか」

「もし、よかったら、どうぞ。ぼくはもういくね」


 急いで立ち上がり、テラス席から見えないところまで来ると、わたしは走り出した。


 辛い。辛過ぎる。

 カフェのカウンターにきて、水を頼むが、ごくごく飲んでも治らない。

 ウエイターが、心配そうに声をかけてくる。

「あの、どうかなさいましたか?」

「きにするな。ちょっと、からいものをたべてしまっただけだ」

 涙目でそう答えると、ウエイターはカウンターの中に入り、冷たいミルクを差し出した。

「水では辛さは治らないですよ。ミルクをどうぞ」

 もう喋りたくなくて、申し訳ないが何も言わずにミルクを受け取る。

 口の中に馴染ませるようにミルクを飲むと、かなり辛さは引いて行った。




 詰まるところ、わたしの考えたいたずらは失敗した。

 敗因は、ライリーが辛い物も平気で食べれる鈍感なヤツだったということと、わたしが甘い物好きで、辛い物が普通の人より苦手だったところだろう。







 悔しい。

 もう単純に悔しい。

 一度、ライリーのビックリした顔が見られればそれでよかったのだが、ビックリしたのはわたしの方だった。


 仕方なしに、他のいたずらを考えることにする。


 次のいたずらは、今日の上級生限定の校外学習でおこなうことにする。


 校外学習の内容は、それぞれ財布に家から小遣いを持ってきて、町で買い物をするというものだ。

 もちろん、貴族学校の校外学習だからある程度の護衛はつくし、平民の服を着ていても「コイツら貴族だろ?」と所作からわかってしまうが、それでも貴族は自分でお金を出して買い物などしたことがないので、いい勉強になるらしい。


 わたしはここに注目した。


 はじめてのおつかい、だ。

 財布から偉そうにお金を出した時に、幼児が使う子ども銀行のお金だったら大恥をかくだろう。

 わたしたち貴族も、財務大臣の真似をしたりするママゴトの時に、子ども銀行のお金を使うのだ。

 城の物置から、ライリーが子どもの頃使った子ども銀行券を持ってきている。

 ライリーのヤツ、お札の一枚一枚に、きったない字で自分の名前を書いていた。

 ふん。

 恥をかくがいい。


 この間のように「あれれ~、ぼく、迷っちゃった~」と白々しく上級生の教室に入り込み、ヤツらが出掛ける前にライリーの財布に子ども銀行券を入れる。

 入っていた本物のお札は…どこにしまおう?

 わたしのポリシーとして、人の物を奪うのはNGのため、ライリーの上着を探してそのポケットに入れておいた。


 さて。

 準備はしたが、そのビックリした顔が見られないのでは本末転倒。

 もちろん、わたしは学校を抜け出した。


 今日の店屋はどこも護衛騎士が配備されていて物々しい雰囲気だ。


 ライリーは側近達と一緒に、雑貨屋で買い物をすることに決めたらしい。


 隠れて雑貨屋の窓から様子を伺う。

 ライリーはフレッド達と話しながら楽しそうに小物を見ている。

 ライリーの様子が分かるように、近くに移動する。


 ライリーは万年筆を見ていたが、それを買うことに決めたようだ。


 それを手に、レジへと向かう。

 財布を出して、レジに差し出す。

「お客様、これはおもちゃのお金ですので、ご使用にはなれませんよ?」

 店員さんがにこやかにライリーにお札を返した。


 よし!

 ライリーの顔を見に、店内へと入って行く。

 護衛がわたしの顔を見たが、わたしのことを知っていた為、ノーチェックで店内に入れた。


 近付くと、ライリーは首を傾げる。

「あれ~、おかしいな。昨日入れた時は本物のお札だと思ったのに」

 ライリーが首を傾げると、ディリオンが口を出す。

「貴様、まさかまだ子ども銀行券などで遊んでいるわけではあるまいな」

「まっさかー。これ、ギルのヤツだよ。ほら「ライリーへ」って書いてあるじゃん。間違えて持ってきちゃったのかな~」

「何っ、ギルバート様はまだ子ども銀行ごっこで遊んでいるのか」


 はぁっ!?

 なんでそれがわたしのおもちゃという事になるんだ!?

 ライリーへ、じゃない!お前の字が汚いから、そう読めるだけだ!


「ライリー!!それはわたしのおもちゃではない!」

 思わずわたしはライリーの前へ飛び出してしまった。

「あれ?ギルの学年は今日は教室で授業じゃなかったっけ?」

 ライリーにそう言われて、ハッと我に帰る。


 と、同時に騒ぎを聞きつけて教師が雑貨屋を訪れた。



 その後のことは思い出したくもない。

 まだ子ども銀行券で遊んでいるというレッテルを貼られ、ライリー恋しさに校舎を抜けて町まで追いかけて行ったという不名誉な噂まで立てられた上に、教師から反省文原稿用紙10枚の罰を課せられた。

 ……解せん。




 わたしのライフは0に近くなった。

 もう、これでいたずらはやめよう。

 最後の足掻きで、もう一つだけ敢行する。



 わたしに付いている護衛騎士は、父上が選んだ護衛騎士だ。

 腕は立つし、話しやすい。

 その護衛騎士が先日、汗を拭おうとハンカチを取り出した時、広げてみたら女もののパンツだったことがあった。

 まだ5歳にもならない娘がいる上に先月赤ちゃんが生まれて、奥方は今大変らしい。

 家事を手伝っている時に、間違って混入させてしまったようだ。


 よく、コメディ小説にある話だが、実際に間違えたヤツを見て、本当にこんなことがあるのだなと感心したものだ。


 学内では学校専属の護衛が付くので、そいつは学校には来ないが、娘のパンツを貸してもらえるように頼んだ。

 事情を知っているその騎士は、娘のパンツの買い置き、要は新品のパンツを一枚わたしにくれた。


 わたしは、登校時にこっそりとライリーのポケットにそれを忍ばせた。


 まあ、今回も失敗に終わるだろう。

 何せあのライリーだ。

 鈍感にも程がある。

 何食わぬ顔で手でも汗でも拭いて、何食わぬ顔でポケットにしまうだろう。


 もう金輪際、コイツには関わるまい。



 わたしは1階の校舎の中の窓辺に座り、昼休みに噴水の前でふざけるライリー達を見ていた。


 ライリーがふざけて噴水の水をフレッドに掛ける。

 フレッドはうまく避けて、その隙にコンラッドがライリーに水を掛けた。

 安定のディリオンはそれを遠巻きに見ている。

 ライリーは右半分に水を浴びてしまい、ポケットからハンカチを出して顔を拭いていた。


 白く、ハンカチっぽくたたまれたそれに違和感があったのか、ゆっくりとそれを広げる。


 現れたのは、レースに彩られた純白の女性用パンツ(幼児用)である。


 ボンっ!!と音が出そうなくらいの勢いで、ライリーの顔が真っ赤に染まって行く。


 ここからでは聞こえないが、何やら真っ赤になって言い訳をしているようだ。

 それをフレッドたちは、口をあんぐりと開けて見ていた。



 はあ。

 わたしはひとつため息をつくと、窓枠に足を掛け、外に飛び出した。


 ライリーの側まで近付くと、ライリーの顔は真っ赤に染まっており、もはや泣きそうだ。


「ライリー、なんだこれくらいの事で。王太子とあろうものが情けない」


 わたしはライリーからパンツを奪い、校舎の中へ戻って行った。



 わたしは城に戻り、護衛に新品のパンツを一枚付けて返した。





 結局、逆恨みをしている自覚があろうと、ライリーが困っていたら、わたしもいい気分でないと言うことがわかった。


 だから、もう、いたずらはやめようと思う。



 ……それにしても。

 ぷっくくく。

 わたしは笑い出した。

 ライリーの慌てようったら!

 そういえば、ライリーの初恋は6歳の頃と聞いている。

 フレッドと違って、それ以外はあいつには浮いた噂ひとつないから女性への免疫はないのであろうな。

 女性用のパンツ一つであそこまで慌てるとは。





 ランバラルド王国のためにも、我が国王太子ライリーに、幸多からんことを願う。

最後までお読みいただきありがとうございました。

拙い作品ですが、予想していたよりも多くの方に読んでいただけて嬉しいです。

本編はまだまだ続きますが、そちらもお読みいただけたら、とても嬉しいです。


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