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スーパーヒーロー森崎くん

作者: 曲尾 仁庵

 森崎くんは私のご近所さんで、小学校三年生で、小学校に入ってからもずっと同じクラスの、いわゆる幼馴染である。そして、たぶん森崎くんのお父さんやお母さんも知らない、ある秘密を持った男の子だ。小さなころからずっと森崎くんを観察していた私だけが、森崎くんの秘密に気付いている。


 森崎くんは、スーパーヒーローである。




 森崎くんはいつも怖い顔をしている。不機嫌そうにマユとマユの間にシワを寄せ、ポケットに手を入れて、誰も近づいてこないように、ポツンと一人で座っている。誰も森崎くんに話しかけようとはしないし、森崎くんが誰かに話しかけたりもしない。森崎くんは誰からも、怖くて近寄りがたい人、と思われている。だけど。


 朝のバスはいつも人がぎゅうぎゅうづめで、息苦しくてみんなピリピリとしている。その日もそれは同じで、そして、その日はいつも以上に、みんないらだっていた。バスの中でまだ小さな赤ちゃんが、大きな声で泣いていたから。若いお母さんは赤ちゃんを胸に抱いて、周りの人に謝りながら、一生懸命に赤ちゃんを泣き止ませようとしていたけれど、赤ちゃんは全然泣き止んではくれなかった。大人たちはみんな、迷惑そうにちらちらと赤ちゃんのお母さんを見ていて、中には明らかに聞こえるように舌打ちをしたりしていて、私はとても悲しい気持ちになったけれど、私に赤ちゃんのお母さんを助ける勇気なんかなくて、私はただ黙って俯いていた。すると、私の隣にいた森崎くんが小さく「くだらねぇ」とつぶやいて、大人たちの間をぬうように赤ちゃんのお母さんの後ろに移動した。赤ちゃんはお母さんに抱かれて、お母さんの肩越しに後ろを向いている。森崎くんは座席に手を掛け、手すりによじ登って赤ちゃんと顔の高さを合わせると――


 ものっすごい変顔をした。


 赤ちゃんはきょとん、とした顔で森崎くんの顔を見つめると、次の瞬間、ニコニコと笑いだした。バスの中のピリピリとした雰囲気が、ふわっと和らいだ。半分泣きそうな顔をしていた赤ちゃんのお母さんも、ほっとしたように笑顔になった。森崎くんはすばやく手すりから降りると、まるで自分は何の関係もないような顔をして、私の隣に戻ってきた。周りの大人たちは、森崎くんが何をしたかなんてまるで気付いていないみたいだった。


 森崎くんは、スーパーヒーローである。




 森崎くんはかけっこが苦手だ。体育の授業でかけっこをすると、だいたい後ろから数えたほうが早い順位の旗のところに並んでいる。別に手を抜いているようには見えない。一生懸命走った結果、そのくらいの順位にいる。かけっこが早くったって、何のうれしいこともないじゃないかって、そんな顔をして、特に気にするふうもない。だけど。


 小学校からの帰り道、バス停までの道のりを、私は森崎くんと並んで歩いていた。家がご近所さんなので、通る道も使うバスも同じなのだ。最初は私が並んで歩くのを嫌がっていた森崎くんだが、私が毎日しつこく並んで歩くのにあきれたのか、今では何も言わない。ただ、私が話しかけても森崎くんは何も答えないし、森崎くんが私に話しかけることもないので、私たちはずっと無言で並んで歩いている。その日も、私たちは黙ってテクテクとバス停に向かって歩いていた。私たちの目の前で、横断歩道の信号がチカチカと点滅を始める。ああ、もう少し早く歩いていたら渡れたのになぁ。そんなことを思いながらふと見ると、横断歩道の真ん中あたりを、杖をついたおばあさんが、ゆっくりゆっくり歩いていた。どう考えても信号が赤になる前に渡り終わりそうにない。私はハラハラして、心の中でおばあさんにがんばれとエールを送った。しかし案の定、おばあさんが渡り切る前に信号は赤に変わった。信号が点滅してから、おばあさんはほとんど進んでいない。車道側の信号が青に変わる。信号待ちをしていた大きなトラックが、ゆっくりと前に進み始めた。


 あれ? 運転手さん、おばあさんに気付いてない!?


 私はハッと息を飲んだ。すると、私の隣にいた森崎くんが小さく「くだらねぇ」とつぶやき、そして、森崎くんの姿が、消えた。びゅう、と強い風が吹き、私は思わず目を閉じた。私が目を開けた時、森崎くんは再び私の隣にいた。おばあさんはすでに横断歩道を渡り終えていて、不思議そうに首をかしげていた。トラックは何事もなかったように走り去っていった。運転手さんも、おばあさんも、森崎くんが何をしたかなんてまるで気付いていないみたいだった。


 森崎くんは、スーパーヒーローである。




 森崎くんは動物が嫌いだと、みんなからは思われている。クラスの係を決める時のじゃんけんでいきもの係になってしまったけれど、うさぎ小屋の掃除も、えさやりも水替えも、やっているところを誰も見たことが無い。クラスのみんなは森崎くんが係の仕事をサボっていると思っていて、いつも森崎くんの悪口を言うけれど、森崎くんはちょっと怖い感じらしく、直接文句を言ったりはしない。森崎くんは何も言ったりはしないし、何を言われても平気な顔をしている。だけど。


「暴れ馬だ! 暴れ馬が出たぞっ!」


 そんな悲鳴みたいな叫び声が、下校途中の私たちの耳に届く。私が後ろを振り向くと、興奮して目を血走らせた一頭の馬が、ものすごいスピードでこちらへ向かって走っていた。私たちの他にも下校途中の小学生は多くいて、みんな悲鳴を上げて逃げまわっている。何が起きているのか気付いた周囲の大人たちは、みんなを誘導したり、警察に110番をしたりしていた。警察への電話の内容が、途切れ途切れに聞こえてくる。その中には「デューク」「殺処分」という言葉もあった。すると、私の隣にいた森崎くんが小さく「くだらねぇ」とつぶやき、そして暴れ馬の前に立ちはだかった! 森崎くんはじっと暴れ馬の瞳を見つめる。暴れ馬は徐々にスピードを落とし、森崎くんの目の前まで来ると、首を下げて鼻を森崎くんにこすりつけた。「よおし、いい子だ」と言って馬の首を撫でる森崎くんの目は、とても優しい。後から駆けつけた警察の人も、先生も、馬がおとなしくなったのは偶然で、なんて危ないことをしたんだと森崎くんを叱ったけれど、森崎くんはつんとなまいきな顔をしてお説教を聞き流していた。大人たちは、森崎くんが何をしたかなんてまるで気付いていないみたいだった。


 森崎くんは、スーパーヒーローである。




 森崎くんには嫌いな言葉が三つある。その一つが、『我慢しなさい』だ。


 その日、同じクラスの千佳ちゃんの元気がなかった。千佳ちゃんは穏やかで、誰にでも優しくて、ひかえめで、そこにいるだけでふんわりと温かくなるような、とてもいい子だ。そして千佳ちゃんはとてもがんばり屋さんで、自分の辛さや悲しさをあまり表に出さない子でもあった。そんな千佳ちゃんが、見て分かるほど落ち込んでいる姿を初めて見て、私はとても心配になった。私が声を掛けると、千佳ちゃんは「心配かけてごめんね」と弱々しく笑って、私に落ち込んでいる理由を話してくれた。

 千佳ちゃんのご両親はどちらもお仕事をしていて、いつもとても忙しいのだそうだ。だから千佳ちゃんはいつも一人で夕ご飯を食べて、食器を片づけ、洗濯物をたたんで、お風呂を入れて、お風呂に入って寝る。ご両親が帰ってくるのは、たいてい千佳ちゃんが寝た後なのだそうだ。でも、そんなご両親も、年に一度だけ、一日中千佳ちゃんとずっと一緒にいてくれる日がある。それが千佳ちゃんの誕生日で、今年はそれが連休と重なり、家族旅行に行く計画を立てていた。千佳ちゃんはそれをとても楽しみにしていたそうだ。ところが昨日、突然お父さんから、仕事の都合で旅行には行けなくなったと言われたのだという。


「旅行に行きたいのは、私のわがままだもん。私が我慢しなきゃ」


 そう言ってさみしそうに笑う千佳ちゃんを見て、私は泣いてしまった。本当に辛いのは千佳ちゃんなのに、私の方が泣いてしまって、私は千佳ちゃんに「ごめん」と謝った。千佳ちゃんは私が泣いたことに驚いたみたいだったけど、「ありがとう」と言って私をなぐさめてくれた。逆に千佳ちゃんになぐさめられて、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。私の隣の席に座っていた森崎くんは、私たちの話を聞いていないふりをして聞いていたみたいで、ぽつりと「くだらねぇ」とつぶやくと、カバンから電話を取り出して、どこかにメッセージを送ったようだった。


 翌朝、昨日の様子がまるで嘘だったみたいに、千佳ちゃんは元気いっぱいだった。「どうしたの?」と私が聞くと、千佳ちゃんは花のつぼみがほころんだようにうれしそうに笑って、「旅行に行けるようになった」と教えてくれた。


「トリヒキサキのひとが、急にノウキを伸ばしてくれたんだって」


 教えてくれた内容は、私にはいまいちよくわからなかったが、千佳ちゃんがうれしそうだったので、私にとってはそれで十分だった。隣の席で私たちの会話を盗み聞きしていた森崎くんが、小さく笑った。千佳ちゃんは、森崎くんが何をしたかなんてまるで気付いていないみたいだった。


 森崎くんは、スーパーヒーローである。




 森崎くんには嫌いな言葉が三つある。その二つ目が、『しかたがない』だ。


 健太君はクラスのムードメーカーみたいな男の子で、いつもふざけてはみんなを笑わせていた。そんな健太君が急に学校を休んだことに、私たちはとてもびっくりしていた。昨日まではふだんと何も変わらない様子だったのに、急に風邪でもひいたのかな? クラスメイトとそんな話をしていると、朝のホームルームで先生が、健太君はしばらくお休みすること、健太君のご家族が病気だということをみんなに言った。先生は詳しいことを何も言ってくれなかったが、健太君が『しばらく』学校に来ないという言葉が、ひどく不吉な予感を伴って私たちにのしかかった。

 その日の学校からの帰り、バスを降りて家の近くの公園の脇を通りかかった時、公園のブランコにポツンと一人で座っている健太君を見つけた。健太君はブランコをこぐでもなく、まるで表情を失ってしまったみたいにぼんやりとしていた。私は森崎くんと健太君に近付き、おそるおそる声を掛けた。健太君はゆっくりと顔を上げると、かすれた声で私に言った。


「妹が、病気なんだって」


 健太君には五歳になる妹さんがいて、健太君は妹さんをとても可愛がっていた。しかし昨日、その妹さんが心臓の病気を抱えていることが分かったのだという。しかもその病気はとても珍しいもので、治すことができる病院も、お医者さんも、とても限られているのだそうだ。


「アメリカにいる先生なら治せるかもしれないんだって。でも、アメリカに行って病気を治すのは、ものすごいお金がかかるんだって。ウチには、そんなお金、無いんだって」


 健太君の声はとても淡々としていて、私は聞いていて胸が苦しくなった。きっと悲しみが大きすぎて、心が受け止めきれないのだ。だから自分の感情を見ないふりして、淡々としゃべる以外に方法が無いのだ。


「しかたないんだって。どうしようもないんだって。僕のお小遣いをぜんぶあげたって、全然足りないんだって。僕が妹にできることは、なんにも無いんだって」


 健太君の目から、ひとつぶ、涙がこぼれ落ちた。


「僕は、アイツの、お兄ちゃんなのに……!」


 その言葉と同時に、健太君の目から大粒の涙があふれだした。両手で顔を覆って、健太君は歯を食いしばって泣いていた。いつも楽しそうにバカなことばかりやっている健太君がこんなふうに泣いている姿を初めて見て、私はかける言葉が見つからなかった。どんな言葉も軽々しくかけてはいけない気がして、私は泣いている健太君をただ見ていることしかできなかった。私の隣にいた森崎くんは、健太君に聞こえないように顔を横に向けて「くだらねぇ」と小さくつぶやくと、カバンから電話を取り出して耳に当てた。健太君はずっと泣き続けていて、森崎くんはずいぶんと長い間、どこかの誰かと話していた。


 一か月後、健太君は久しぶりに私たちの教室に姿を見せた。健太君の顔はとても元気そうで、ずっと心配していた私は本当にほっとした。私は健太君に近付き、妹さんのことを尋ねた。健太君は少し興奮気味に、この一か月で健太君とご家族に起こった出来事を話してくれた。


「『くらうどふぁんでぃんぐ』っていうのでお金を集めてくれた人がいてさ、それで妹は、アメリカのすっごいお医者さんに診てもらえることになったんだよ!」


 私たちと会った日の夜、一本の電話が健太君の家にかかってきた。その電話は、『くらうどふぁんでぃんぐ』という方法で妹さんを助けるためのお金を集めることができるということ、その手続きはもう終わっているということ、必ずお金は集まるから絶対に希望を捨ててはいけないということを、ゆっくりと、やさしくご両親に伝えたのだという。電話の主は決して自分の名前を名乗らなかったが、電話はそれから毎日かかってきて、健太君の家族を励まし続けた。そしてびっくりするくらいに早くお金は集まり、目標にしていた金額を超えた日、かかってきた電話の主はその謎の人物ではなく、アメリカで『神の手』と呼ばれる、世界でいちばんの心臓のお医者さんだった。「どうして?」と問うご両親にそのお医者さんは「あの人に頭を下げられたら断れないよ」と苦笑いすると、


「今すぐアメリカに来なさい。私が必ずあなたの娘さんを助けます」


 そう言ってくれたのだそうだ。健太君のご両親は急いで支度を済ませ、昨日、妹さんと共にアメリカに旅立った。健太君は日本に残り、おばあちゃんの家から学校に通うことになったらしい。


「いったい誰が、僕たちを助けてくれたんだろう。いつか会って、お礼が言いたいな」


 健太君は憧れの目で、まだ見ぬ謎の恩人のことを語った。一人自分の席に座って手を頭の後ろに組んでいた森崎くんは、ふんっと興味無さそうに鼻を鳴らした。健太君は、森崎くんが何をしたかなんてまるで気付いていないみたいだった。


 森崎くんは、スーパーヒーローである。




 森崎くんには嫌いな言葉が三つある。その最後の一つが、『あきらめろ』だ。


 その日、世界は騒然としていた。


 月よりも大きな巨大隕石が地球を直撃する――


 そんなニュースが世界を駆け巡ったからだ。誰もが始めは冗談だと笑った。しかし国連の偉い人が世界に向けて正式に発表を行い、もう誰も笑ってはいられなくなった。国連も、世界各国の政府もみんな、ずいぶんと前からそのことを知っていて、考えられるあらゆる手段が試されたけれど、結局どれもうまくはいかなかった。もう、できることは何もない。隕石が私たちの目でも確認できるほどに近付き、ようやく各国政府は国民のみんなにその事実を知らせたのだった。


「二十四時間後に、隕石は地球に衝突します。もはやあきらめるより他にありません。せめて最後の一日を、どうか皆さん、有意義にお過ごしください」


 テレビのニュースは繰り返しそんなことを伝えていて、私は降って湧いたようなタイムリミットを実感することさえできずに、ただぼんやりとしていた。私は外に出て、空を見上げた。そこには確かに、今までに見たことのないような岩のカタマリがあって、きれいな空を台無しにしていた。私は誰にともなく、つぶやいた。


「もう、あきらめるしか、ないのかな?」

「くだらねぇ」


 いつの間にか隣にいた森崎くんが、いつになく強い調子でそう言った。そして、小さな子供にするように私の頭をポンポンと叩くと、軽やかに地面を蹴り、吸い込まれるように空の彼方へと消えた。


 一時間後、森崎くんはまるで何事もなかったかのように戻ってきた。しかし森崎くんの服はあちこち破れ、焼け焦げ、大きな穴がいくつも開いていた。私は空を見上げた。空を我が物顔で占領していた岩のカタマリは、いつの間にか跡形もなく無くなっていた。


「皆さん! 奇跡です! 私たちは今、奇跡を目撃しています! 隕石が、あの巨大隕石が突然、粉々に砕けてしまいました!」


 テレビのニュースキャスターが興奮気味に叫んでいる。粉々に砕けた隕石の欠片は地球の大気圏で燃え尽き、まるできれいな流星群のようだった。世界を滅ぼす巨大隕石は、世界の未来をお祝いする壮大な天体ショーになった。森崎くんは空を見上げると、まんざらでもないような顔をして、そして家に帰っていった。洋服をぼろぼろにしたことで、森崎くんはお母さんにものすごく怒られたみたいだったけれど、本人は何の反省の色もなく、素知らぬ顔をしていた。世界の誰もが、森崎くんが何をしたかなんてまるで気付いていないみたいだった。


 森崎くんは、スーパーヒーローである。




 森崎くんは、スーパーヒーローである。でも、そのことを誰も知らない。森崎くんは何も言わない。黙って、誰にも気づかれないように、こっそりと、森崎くんは今日も誰かを救っている。でも、私はそれを知っている。だって私は、森崎くんがスーパーヒーローになるずっと前から、森崎くんがスーパーヒーローだってことを知っていたから。


 私がまだ小学校に上がる前のこと、私はお散歩の途中で、両親が近所の人と話し込んでいる最中に勝手に歩いていってしまい、迷子になったことがある。ふと気が付くとそこはまるで見たことのない場所で、私は心細くて、泣きながら両親を探してさ迷い歩いた。どこをどう歩いたのか、まったく覚えてはいない。とにかく歩き続けて、ある家の前にさしかかった時、


 ――ワンッ!


 その家で飼われている、とても大きな犬が、塀の向こうから私に吠えかけてきた。私は恐ろしくて、ただ、恐ろしくて、泣くこともできずに、その場に立ち尽くした。もう二度とお母さんにも、お父さんにも会えないまま、死んでしまうんじゃないかと本気で思った。もう、座り込んでしまおうかと、そう思った時、私のすぐ隣から、小さな手が伸びてきて、私の震える手を取った。


 私の隣にはいつの間にか、私の近所に住んでいる、私と同い年の、小さな男の子の姿があった。男の子はぶっきらぼうに「行くぞ」と言うと、私の手を引いて歩き出した。つないだ手は温かくて、そして少しだけ震えていた。きっとその男の子も、怖かったのだと思う。それでもその男の子は、犬が吠えてもまるで平気な顔をして、私の手をぎゅっと握って、歩いていた。私の中の心細さも、恐ろしさも、まるでつないだ手から勇気が流れ込んでくるように、いつの間にか消えていた。私は男の子に連れられて歩き、無事に両親との再会を果たした。お礼を言う暇もなく、男の子は姿を消していた。




 森崎くんは、スーパーヒーローである。だけど、森崎くんがスーパーヒーローになるずっと前から、森崎くんはもう、私の、スーパーヒーローだった。



わたしが かんがえる さいこうに かっこいい ヒーローの おはなし

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[良い点] 拝読しました。 砂臥さまのおススメとのこと、さっそくお邪魔しました。 とてもとても面白かったです。じーんときてしまいました。静かなる感動がありました。 ちょっとミステリアスな森崎くん、「…
[良い点] 森崎くんすごいですね! クラウドファンディングの話がいちばん好きです! これともろもろをあわせると、真にスーパーヒーローですよね!!
[一言] 森崎くん、超かっこいい!!
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