第9話 期待のナンバー
ルンルン気分でベッドに戻ると彼女が待っていた。
「あれ?速いね!いつもなら10分以上は出てこないのに」
彼女は嬉しそうにそう言った。
「小の方だからだよ」
俺は咄嗟にそう答えてやり過ごした。
ふーん、と彼女も機嫌良さげに納得してくれた。この世界の俺は一体どれだけトイレが長いんだよ。
さて、どうするか。男女が同じベッドに寝ているのだ。ましてや付き合っている男女。これは
もうそれしかない。
あぁ、なんだ、神様は優しかったのか。これはもうしてくださいと言っているようなものではないか。戻る方法も分かっている。これは快楽を味わって良い気分で戻ろうではないか。俺は記念日を聞くことなど二の次になっていた。
俺は心なしか鼻息が荒くなりながらも彼女の方を向いた。彼女も悟ったのであろうか、表情が変わる。
「だーかーら、girl's dayだからダメってさっき言ったでしょ?終わったら教えるから、我慢してよ?」
oh…。そうか、そんなこともあるよな、そうだよな。俺はいつでも出来ると思ってた猿みたいな自分を反省しながら謝った。
どうしても人間は性欲を前にすると途端に理性を失う。理性は性欲という暴れ馬を飼い慣らすことは不可能だ。特に俺の場合、性欲は常時虎のようなものだ。この性欲を抑えている俺の理性は他人よりも倍以上強いのかもしれない。
ともあれ、念願の本番をし、元の世界に帰るためにはもう何日か待たないといけないのか。
しかし俺はこの虎のような性欲を抑えられるのだろうか。もちろんその他の色々な方法で放電すること、なんならさせてもらえることが可能である。
しかし…。やはり俺は…。
そう考えているうちに俺は眠りに落ちていた。
次の日の朝、太陽の眩しい光に俺は起こされた。快晴だ。
彼女はとてもご機嫌な様子だった。朝からよくそんなご機嫌でいられるな、と思いながらも理由を聞くほどのことではないだろうからと聞かないことにした。
そして彼女は大学に行くようなので、俺もついでに家に帰ることにした。
途中、急な小雨に襲われたが無事たどり着いた。家の場所はやはり元の世界と同じ場所であった。
帰宅した俺は真っ先にしなければならない事があった。そう、携帯のロックの解除だ。携帯のロックのナンバーはたいてい4桁である。ごく稀にとても長いナンバーの奴もいるが…。
しかし思い当たる4桁のナンバーは打ってみた。俺や楓ぽんの誕生日、好きな文字の羅列、どれを打ってもダメだ。こうなるとやはり記念日か。ただ記念日が分からない。4桁以上の数字となるともう堪忍して元の世界に戻ることを視野に入れなきゃならない。いや、そんな簡単には帰らないぞ、俺は。
まあ携帯を開けなければ携帯会社に持ってけばよいのだが。
記念日…。恋人がいる人なら憶えているのだろうか。よくSNSではプロフィールに記念日を書いたり、〇ヶ月記念〜☆となどと書いているカップルを見かける。
果たして彼らは別れた後いつまで覚えているのだろうか。前の恋人との記念日と混同しないのだろうか。元カレや元カノが多い人ほど大変だろうなぁ。
そうあれこれと考えていると、無意識に俺は4桁の数字を打っていた。
〝0229〟
なぜこの数字を打ったかは分からない。しかしその瞬間カチャとロックが外れた。
〝0229〟とはなんだろうか。2月29日は閏年だ。閏年で覚えやすかったからこのナンバーに?いいや、いくら何でもその結論に辿り着かないだろう。何だろうか。何か見覚えのある気がしなくも無いのだが…。
ともあれ、とりあえず携帯は開けた。通知が何件か来ている。
普段俺はLI〇Eなんぞ緊急事態や業務連絡以外はしない。
しかしこの世界の俺は言わば世に言うリア充という奴だ。それなりに人間関係も広がっているのかもしれない。
そう思いながらトークアプリを開く。俺はそれを見て開いた口が塞がらなかった。トークと同時に口も開いた。
比喩ではなく、本当に。