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トライアゲイン  作者: 注連縄
第2章 性欲に魅せられて
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第8話 変わっちまった悦びに

 来たのはいいが…。この女性は一体誰なんだ…。暗くてよく見えない…。

 少なくとも元の世界の俺は彼女なんている訳がなく、女性経験なども皆無だ。

 風俗店に行きたくなることなどたくさんある。いつも行きたい、経験してみたいなんて思っているし、何度も行きかけた。

 しかし初めては彼女としたい、なんて高校生の頃からの謎のプライドが今のところ性欲に勝っているのだ。正確に言うとそう思い込んでいる。まあ、自家発電で満たされてるところもあるっていうのも大きいけど。


 そんなくだらないことを考えていると、隣で寝ていた女性が目を覚ましたようで、俺に話しかけてきた。その声は聞き覚えのある声であった。まさか、この女性は…。


「あれ、夏さん、どうしたんですか?なんか悪い夢でも見たんですか?」


 あぁ、間違いない、山登さんだ。しかし俺は不思議と驚きはしなかった。

 なるほど、ここは俺が山登さんと仲を深め、付き合うまでに至った世界か。確かに、何度か食事やら何やらのお誘いを受けたことがあった。俺は怖気付いて、1回も承諾は出来なかったが、別に嫌ってる訳ではなく、何なら好意すら抱いていた。

 そうか、ここの世界の俺は山登さんと仲良くなり、付き合うという選択をした訳だ。


「夏さん、夏さん!聞いてますか?」


 おっと、俺は考え込むと周りの音が聞こえなくなるんだ。こういうところを治さねば。


「あぁ、ごめん、山登さん。起こしちゃった?うん、ちょっと悪い夢を見てちゃってね」


「懐かしい呼び方ですね、急にどうしたんですか??」


 しまった、そうか、彼女のことを苗字にさん付けで呼ぶなんておかしいよな。


「あぁ!ごめん、楓。ちょっと寝ぼけてるみたい」


「その呼び方も辞めてくださいよぉ。楓ぽん、でしょ?夏さん!自分から呼んできたくせに今更照れてるんですか?」


 ・・・!?待て待て待て待て。色々とおかしいぞ。一つ一つ確認していこう。


 1. まず、楓ぽん、とかいうバカが付けそうな名前。中学生カップルかよ。


 2. そしてその名前を俺が付けて、俺自らが呼び始めたということ。この世界の俺はバカなのか?


 3. そして何故か楓、いや、楓ぽんは俺のことを相変わらず夏さんと呼んでいること。いや、せめて俺もなんか夏ぽんとかなんか付けろよ。いや、夏みかんみたいな感じで嫌だ。とにかく何でもいいから。ちょっと寂しいじゃないか。


 4. そして何より、楓ぽんのこの変わり具合が凄まじい、ということだ。俺が知っているあの子は、シャイで物静かな子だ。付き合うとこうも人は変わってしまうものなのか。


「そ、そうだったね。か、楓ぽん。ちょっとトイレ行ってくるね」


 ここで電気を付ける。見るとここは見覚えのない部屋だった。そうか、楓ぽんの家か、ここは。綺麗すぎる部屋だった。さすが女の子だ。ゴミ箱もカビカビのティッシュでなく、普通のゴミで埋まっている。普通のゴミってなんやねん。


「夏さんがトイレに携帯持っていかないなんて珍しいですね」


 え?俺トイレに携帯持っていってんの?まぁいいや。


「あぁ、そうだったね。寝ぼけすぎてて忘れてたよ、あははははは」


 と若干棒読みながらも言われるがままに携帯を持参する。


 携帯を見ると、今はどうやら元の世界と同じ日時らしい。やはり日時は同じなわけか。

 一旦整理しよう。便座に座りながら。

 まず、この世界は俺が楓ぽんと仲良くなり、付き合うという選択をしたことによって生まれた並行世界である。

 そして、山登さん、と呼んだ時の彼女の反応から分かるように、付き合ってからしばらく経っているのだろう。

 まぁ、あんな物静かな子がああなるのなら、けっこう長い月日をかけて打ち解けていったのだろう。


 ふとそこで俺は気づく。これは戻らなくてもいいやつだと。戻らない方がよっぽど幸せである。何たってリア充なのだから。

 しかし性欲は再び燃え上がるだろう。その時はもう戻るしかないのだろうか。あぁ、無念。


 …いや、待てよ。この世界の俺には楓ぽんがいるではないか。ボッチの俺には自家発電しかなかったが今は楓ぽんがいる。どうせ戻るなら楓ぽんとあれこれしてから最終的に放電して戻ればいいのだ。

 そして、もしあの世界に戻るには自家発電でなくてはならないなんて事があったら、それはそれで有り余る性欲を楓ぽんと一緒に…なんてね。


 汚くも幸せそうな笑みを浮かべた俺をスマホが映し出している。俺のスマホがこんな俺の顔を見たことが、果たしてあるだろうか。


 スマホを見て俺は妙案を思いつく。楓ぽんと俺の馴れ初めがLI〇Eのトークに残っているのではないか。

 このスマホは5年ほど変えていないし、楓ぽんと知り合ったのは3年前だ。トーク履歴を消していなければ見れるはずだ。


 すぐさまスマホを開こうとする。しかしロックがかかっている。そうかそうか。そうだよな。俺も高校の頃はロックをかけていた。それこそLI〇Eのトークなんてものを他人に見られると恥ずかしいよな。ましてや楓ぽんなんて呼ぶくらいラブラブなんだし。


 さてさて、ロックのナンバーは何なのだろうか。とりあえず自分の誕生日を打ち込む。

 しかし違うようだ。それならば恐らく2人の記念日だろう。カップルは携帯のロックナンバーを記念日に設定しがちだからな。

 うーむ、しかし記念日が分からない。まあ、いいや、LI〇Eは何件か来ているが朝起きてからやればいい。今はもう寝ててもおかしくない時間なのだから。日付ももう変わりそうだ。一応記念日は聞き出しておこう。



 俺はルンルンとトイレを出て楓ぽんが待ってるベッドに向かった。


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