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トライアゲイン  作者: 注連縄
第3章 性欲あれど愛はない
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第24話 奴隷はどちら?

 陽とは、毎日連絡を取っていたのに、ここ3日間、音沙汰が無い。既読もつかなく、返信もないので、電話をかけてみたが返答なし。


 これは極めて不自然だ。彼女の身に何かがあったと考えた方が良い。


 彼女の家は先日教えてもらった。彼女の家に行ってみよう。俺は前の世界での出来事が頭をよぎった。


 まさか、そんなことはないだろう。俺は自分に言い聞かせながら彼女の家に向かった。今宵は月が綺麗だ。





 彼女の家が見えてきた。彼女はアパート暮らしだ。窓を見るがカーテンは開いている。家には帰っていないのだろうか。もう帰ってきても良い時間なのだが。


 やはり嫌な予感がする。インターホンを鳴らしてみる。しかし一向に出てくる気配がない。




 ドアノブをひねってみる。するとドアノブはすんなりと回転を許し、ドアが開く。


 どうやら彼女は鍵をかけていないようだ。おかしい。実に奇妙である。女性の、しかも一人暮らしとなれば尚更用心するはずである。


 玄関の鍵をかけないなんてことはあるはずがない。




 俺は彼女に申し訳ないと思いつつも、恐る恐る中を覗いてみる。物音ひとつしない。


 俺は小さく、お邪魔します、と呟き中に入る。




 あの見た目とは裏腹に、家の中は一見スッキリとしていた。あいつらしいな。彼女が彼女でいられるのはこの家だけだったのかもしれない。




 ここは日本なので、しっかりと靴を脱ぎ、リビングへと歩みを進めていく。付き合っているからといって、こんなにズケズケと女性の部屋に入っていくのは気が引けるものである。部屋から漂ってくる良い匂いに、少し興奮を覚えたが、理性で性欲を殴って何とか抑えることが出来た。




 不安をかき消すためにそんなことを考えながら、ドアを開けリビングに入る。リビングにはいない。カーテンが開いているせいで、月明かりが部屋に差し込んでくる。どこか幻想的な雰囲気を覚えたが、そんなことをしている場合ではない、とすぐに我に返る。




 リビングの隣にはおそらく寝室であろう部屋があった。寝室に入るのは流石に躊躇う。家の中で1番プライベートな空間は?と聞かれたら、諸説はあろうが世論は寝室と答えるだろう。トイレと浴室も捨て難いが、ここではそうしておく。


 しかし何より陽の心配が優先だ。単に鍵を閉め忘れただけで、この部屋でグッスリ眠っていて欲しい。そう思いながら、俺は期待と力を込めてドアを開ける。




 辺りを見渡す。どうやら寝室で正解のようだったが、彼女の、陽の姿はどこにもなかった。いよいよ不安が強くなる。浴室やトイレもくまなく探したが見当たらなかった。


 彼女は大人の女性だ。迷子になって行方不明なんて知らない場所に連れていかれない限りないだろう。




 …いや、待てよ?俺は2つの違う世界に行ってきた。2つの世界はどちらもこちらの想定を上回る、漫画やアニメのような世界だった。この世界にもそのような事が起きても何らおかしくはない。最悪の場合を想定した方が良いかもしれない。


 その結論に至った時、俺は不安と同時に恐怖を覚えた。もしかすると、さっきの俺の考えは、あながち間違いではないのかもしれない。




 いかんいかん、考えすぎだ。並行世界に初めて行ったあの日を境に、何かおかしくなっている気がする。


 ひとまず、不法侵入になるかもしれないが、ここでひとまず待ってみよう。一晩経っても帰ってこなかったら、警察に捜索願を出してみよう。


 焦るな、落ち着くんだ、何を興奮している?





 そう、別の意味で俺は興奮している。彼女とはいえ、女性の家に忍び込んでいる背徳感。そしてその家が陽の家であるということ。そういえば、クローゼットの中を探していなかったな…。


 意識した途端に興奮が増す。くそ、いつも俺はこうだ。性欲に逆らえず、いつも性欲の奴隷に成り下がっている。いや、成り下がっているもなにも、元からそうなのだ。




 しかし、俺は今までの俺じゃない。違う世界の俺は、見事なまでに性欲に魅せられていた。そのせいで失敗していたのだ。この世界の俺に出来ることは、この性欲に抗うことだ。絶対に自家発電はしない。俺はそう決意した。




 …はずだった。しかしどうやら脳と身体は分離しているようで、身体は勝手にクローゼットの方へと向かっている。


 やはりダメなようだ。性欲と心中することが俺の運命のようだ。考えるのはやめよう。そうだ、1回自家発電を済ませれば、賢者になれる。上級役職だぞ、賢者は。




 そうすれば、また何か良い考えが浮かぶのかもしれない。俺は半ば強引に自分の脳を納得させた。




 そうと決まればだ。俺は彼女のタンスの中を恐る恐る覗いた。そこには派手な下着と日用の下着が分けられていたが、絶頂に達するには十分すぎる主菜だった。




 俺は彼女の下着を片手にトイレに駆け込む。そうだ、念の為鍵を閉めておこう。邪魔が来ては困る。




 俺は付属品の棒を一生懸命上下に擦る。もはや俺自身が付属品なのかもしれないが、そんなことはこの際どうでも良い。




 今までにない気持ちよさである。こんなに興奮する自家発電は久しぶりだ。手のスピードが早まる。彼女の顔が、陽の顔が脳裏によぎる。蔑んだような、呆れた顔だ。俺は思い出した。この顔はあの時の顔だ。それと同時に嫌な予感もした。嫌な予感は、本職の占い師より当たる方である。しかしもう止められない。




 どうか無事であってくれ、陽!この期に及んで、せめての償いとして俺はそう願った。






 …そして俺は快楽の頂点に達した。満足感とともに虚無感に包まれる。同時に頭の中が真っ白になる、あの感覚を味わう。




 しまった。これでは予想外だ。彼女を探さねばならないのに…。何を最低なことを…。


 嫌な予感が当たってしまった。賢者になんかなるもんじゃあない。


 理性の冷たい視線を浴びながら、意識が薄れていく。





 何を見てやがる。お前も共犯だろ…。





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