第23話 変わらぬ日々にサヨナラを
つい、勢いに任せて言ってしまった。言う気はもちろんなかった。
しかし彼女の事を思うと、どうしても助けてあげたくなった。
彼女の助けになるのは俺しかいないと思っている。自意識過剰だの自信過剰だの、思い上がりだの、何を言われたって構わない。
それと、俺は心のどこかではまだ彼女のことを好いていたのかもしれない。
だからあの言葉が突発的に、突拍子もなく出てしまったのかもしれない。
「あ、さっきの言葉は、その…、反射的に出ただけで…」
俺がそう一生懸命言い訳をしているのを見て彼女は笑ってこう言った。
「本当に変わらないわね。羨ましいわ。
そして、こちらがOKするのも何か変よね。助けられている立場なのに、偉そうよね。
だから、私から言わせて」
彼女は姿勢を正し、僕の目を真っ直ぐ見つめて言った。
「私を助けてください」
この言葉だけで十分だった。彼女の思いも伝わってきた。
それからは2人で今後のことについて話し合った。茨にも相談しよう、という話も出たが、あいつを巻き込みたくないのでしばらくは黙っておくことにした。
気が付くともう日がすっかり落ちていた。
外では「家路」のチャイムが鳴り響く。もう6時だ。
彼女は慌てて支度をし、帰っていった。帰ったというより、仕事に向かった。いつか、彼女がこんな事をしなくても暮らせるように俺が支えなきゃな。
俺も変わらなければならない。彼女は変わらないことを羨ましい、と言った。
確かに、変わらなければ、変わろうとしなければ、嫌なことはないかもしれない。ただ、その代わり良いことも中々起きない。
かと言って変わろうとすれば、良いことが起きる反面、悪いことも起きやすくなるだろう。
俺はそれが嫌で、今まで平均値をとるような人生を歩んできた。
もちろん変われるチャンスは何度もあった。ただ、変わるのが怖かった。怖くて、避けてきた。
今まで2回、違う世界に行ってきた。俺の選択の違いによって生まれた世界。
そこはどちらも最悪な世界だった。あれらを経験した後だと尚更、変わるのが怖かった。
変わらないまま、平均値をとってきた今の世界は、あれらの世界よりもずっと平和だ。
ただ、そのままでは救える者も救えない。何もしなくても力も金も得られる、そんな都合の良い話があるわけがない。
ならば、自らが変わるしかない。
俺はそう決心した。
ひとまず就職しよう。何度も就職活動に失敗し、半ば不貞腐れて諦めていたが、これを機にもう1度頑張ってみよう。
俺はバイトの量を増やしながらも職を探すことにした。毎日が忙しかった。しかし不思議と嫌な気分ではなかった。
そんなある日であった。
今まで毎日連絡を取り合っていた陽のぷつりと消息が途絶えた。




