第20話 気になるあの子は
家に帰り考える。彼女の両親が営むラーメン屋も潰れていた。彼女は一体何をやってるのだ?
彼女は大卒のはずだ。良いところに就職しているはすだが…。
しかしあの見た目ならお堅い職業なわけがない。あの見た目なら芸能人や美容師などか?
ひとまず自家発電を済ませよう。性欲を発散させないと考えるのも考えられない。
俺は携帯でサイトを閲覧する。こういうサイトは広告が邪魔でクリックに手間取る。若干イライラしながら広告を消していると、ある広告で手が止まった。
その広告には「激安!最高の美女達がお待ちしています!」と書かれていた。風俗店の広告である。
俺はふと嫌な考えが思い浮かんだ。あの格好、特にあの胸元を強調したような服、あれはもしかして…。
俺はそう思い風俗店のサイトを片っ端から調べていく。彼女は俺のコンビニに来ていたことから、恐らく近くの店なのだろう。市内の店を探そう。
そしてあるサイトに辿り着く。県内ナンバーワンの高級な風俗店、と謳われている店のサイトだ。
年齢と顔写真が張ってあり、お気に入りの女性を選ぶ方式らしい。皆、男の性欲を駆り立てるようなポーズをして写っている。
俺は1人ずつ見ていく。やはりナンバーワンと謳うだけあってか、皆、可愛い。
正気を保っていられるだろうか。自家発電を済ませてからにしようか。
そう考え次の女の子を見る。すると唐突に彼女は現れた。
ヒナタという名前で、見ていられないような過激なポーズをしている笑顔の彼女が写っていた。
ビンゴだった。彼女は風俗嬢となっていたのだ。俺は覚悟していたのであまり驚きはしなかったが、興奮も全くしなかった。逆に悲しい気持ちにすらなった。
彼女の紹介文を見る。
「大卒のエリート娘!そんな経歴からは想像もつかないほどのサービスをお届けします♥」
と書いてあった。俺はそれを見てますます悲しい気分になった。写真に移る彼女の目は心なしか笑っていないようにも見えた。
彼女はそんなことをするような人じゃない。
人生何があるか分からない、とさっき言ったが、彼女に限っては天変地異がない限りそんな事をしない。これは確信を持って言える。
現にコンビニであった彼女はとても悲しそうな目をしていた。まるで助けを求めているかのようでさえあった。
一体彼女に何があったんだ。これは調べずにはいられない。
彼女は恐らくピンチなのだろう。でなければ、こんなことを自らはやらないはずだ。せざるを得ない状況なのだろう。
元彼氏とは言え、今となってはただの知人である。そんな俺がわざわざ彼女の件に首を突っ込むのは余計なお世話かもしれない。
ただ、まるで助けを求めるような悲しそうな目を見てからでは放っておくことは出来ない。
この店のサイトを詳しく見ると出張サービスもやっているようだ。それならば、俺の家に彼女を呼べば良い。
ただ、コンビニアルバイターの所持金はたかが知れている。特にやりたいこともないが、貯金もしていない俺にとって、1時間でも相当値が張る。
しかしこんなこと言ってられないな。来月からもっとシフト増やすか…。
俺は彼女を呼ぶために、掃除や入浴、買い物を済ませた。
電話をかけ、夜の7時に予約を入れ、待つことにした。
俺は彼女を呼んだところで特に何をする気もない。ただ純粋に話を聞きたい、そう思っていた。
そして夜の7時を迎えた。5分ぐらい経ち、ピンポンとインターホンが鳴る。
ドアを開けると彼女、陽が立っていた。この家に彼女を呼ぶことはあちらの世界で1回あった。
しかし、あの世界の時とは状況が全く違う。陽の見た目もあの世界の陽とは似ても似つかない。
彼女は俺を見ると、一瞬驚いたようだったが、すぐに笑顔でこう言った。
「ご指名ありがとうございます!ヒナタです。よろしくお願いします」
そう笑顔で挨拶した彼女の目は笑っていなかった。