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トライアゲイン  作者: 注連縄
第1章 性欲との付き合い方
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第2話 ここではないどこか

 ここは一体どこなのか。


 俺はさっきまで自家発電に勤しんでいた自分の部屋とは、上を向いたままでも分かるくらい全く違う場所にこうして無様な格好で横たわっているのだ。

夢なのだろうか。

 そう思い、ドラマやアニメなどでよく見るように頬をつねってみるが痛みを感じる。俺は混乱しながらもあたりを見渡す。

 部屋は様々なお菓子のゴミや空のペットボトルなどでとても散らかっている。しかも和菓子が多い。

 状況が全く掴めない。俺は深呼吸をし状況整理に取りかかる。

 

 まずwhere。ここはどこなのか。とりあえず窓を開け、外に目をやってみる。そこには目を見張る光景があった。


 そこには全く見覚えのない景色が広がっているのだ。


 ここはアパートのようで、その証拠に外を見た時に何台もの車が止まっているのが見えた。しかし俺が住んでいるアパートとの窓から見える景色とは全く異なっている。それ以前に窓の位置自体が違う。

 なぜここにいるのかさっぱり検討がつかない。

 だが、ここは確実に自分の家ではない。


 次にwhen。いつなのか。

 携帯を見れば正確な日時が分かるはずだ。そう思ったが携帯は見当たらない。思えばテレビもないようだ。

 仕方なく時計を見る。時刻は同じである。そしてカレンダーを見るとそれまでの日付にバツが付いていてることからどうやら日時は同じらしいことと、この部屋の主は変な所で几帳面らしいことが分かった。


 しかしこの部屋は俺の部屋と同様、妙なイカ臭いニオイがする。俺は放電により放出した電子をティッシュで拭き取りゴミ箱へ捨てようとゴミ箱に目をやると、そこにはカビカビになったティッシュの山があった。俺はここは男の家だと判断した。このティッシュは女性の部屋から見つかるはずがない。


 とりあえず早く外へ出て自分の家に戻らなければ。

 そう思い、玄関に向かう途中にふと鏡が見えた。その鏡を見て俺は驚いた。


 そこに映し出されていたのは、小太りで、ここ何ヶ月も剃ってないであろう大量の髭を蓄え、ろくに洗っていないであろう髪の毛を持つ男であった。端的に言うと汚い容姿をしていた人物である。

 全く知らない人だ。しかし、不思議と初めて見た感じはしなかった。


 俺は全く別人になっていたのである。赤の他人である。


 オーマイガー。まさかwhoの部分まで違うとは。ここまで来ると頬の痛みを感じれど現実だと受け入れることはなかなか出来ない。

 だいたい頬の痛みを感じれば夢ではないと誰が決めつけたのだ。俺は昨今信じられ、定番化していることの反例を見つけたのかもしれない。


 するとやはりこれは夢なのだろうか?

 そうだ、この状況、ほぼ確実に夢である。なぜなら非現実的で非論理的な事が起きているからである。

 ならば、目が覚めるまで好きに動いてやろうではないか。そう、これは明晰夢である。そうと決まれば、逃げるなんてそんな陳腐なことはしないぞ。目一杯楽しもうじゃないか、この夢を。

 妙な違和感を感じながらもそう自分に言い聞かせた。


 んー、しかし、この人物が誰なのかは大変気になるなぁ。


 とりあえず俺は夢の中で誰か知らんこの汚いおっさんに憑依してるというわけだな。

 どうせなら超絶美女に憑依したかった。そうしたら、ああやって、こうやって、ああして、こうして…。


 俺はこの鬱陶しい髭を剃りながら、そんなくだらないことを考えていた。


「剃ったらだいぶ別人になったな…」


 とりあえず、名前は知りたい。

 明らかに成人済の容姿である。ならば働いているであろう。

 働いているであろうから名刺の1枚くらいはあるはずだ。


 しかしあることに気づいた。普通、仕事をしていれば、服を着ていくはずだから洗濯をするはずである。しかしハンガーも見当たらず服は1着も部屋に干した形跡もない。

 良く考えればこの見た目である。この見た目が働くのに相応しい容姿なわけがない。しかもカレンダーにバツをつけることを怠らないくらい几帳面なら髭も毎日剃るはずである。


 ここで俺はある結論に達した。


 こいつはニートだ。



 ならば郵便物を、と近くにあったダンボールに入っている郵送物を見る。


 宛先には「山田弘」と書いてあった。

 全く聞き覚えもないし、どこにでもいそうな普通の名前ではないか。名前の普通さにこの容姿が追いついていないんだよなぁ。名前負けをしている。もっと、こう、「汚川不潔丸」とかなんかなかったのか。夢だろ?これ。もうちょっとふざけてもいいのに。そうぼんやりと考えていると、


   ピンポーン


 インターフォンが鳴った。ドアを開けると、どうやら宅配便のようだ。今は初夏で、汗だくの配達員が押印を求めてきた。少々汗臭い。

 ハンコの場所など分かるはずもないので、配達員を待たせ、ハンコを探しに部屋に戻ることにした。ペンでサインしてもらえばいいですよ、と後ろから聞こえたのでどちらも探すことにした。


 ペンならばニートでも使うことが多いのでどこか分かりやすい場所にあるのだろうと部屋を見渡すが見当たらない。

 ならばハンコを探そう。普通は携帯しているはずのハンコだがニートには携帯する必要もないだろう。

 だから俺は引き出しの中を探すことにした。


 1段目を開けると、ロウソクやら線香やらと共にハンコがあった。手前に1つと奥にもう1つあった。俺は手前にあった方を取り、開けて見ると「山田」のハンコがあったのでそれを持っていき、ハンコを押して郵送物を受け取った。



 中身が気になりつつも歩き出そうとした時、玄関の段差につまずき、転んだ拍子で頭を強打した。俺は脳が揺れている感覚、そして後からじわじわと来る激痛を味わった。とても痛く、少々血も出ている。

 何年も血を見ていないせいか血が妙にリアルに見えた。


 しかしおかしい。これは本当に夢なのだろうか。ここにきて違和感と疑念が増す。それは夢を見て、夢の中でこんな激痛を感じたことは無かったからだ。


 思えば、窓を開ける時などの手触り、そしてイカ臭いニオイ、汗臭いニオイなども妙にリアルである。


 感触や匂いのリアルさからして、自分に言い聞かせていたことを否定せざるを得ないらしい。薄々感じていたがやはりそう思う。


 これは夢じゃない。


 直感的にそう思った。


 ならば何だろう。その時、にわかには信じ難いがおそらく正解であろう結論に辿り着いた。




 これは夢じゃない、これは現実で、俺は別人になっているのだ。






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