第18話 移ロウ季節ニモマケズ
あれから3ヶ月。
特に変わったことはない。気付くと、緑から赤へと色を変えた鮮やかな紅葉が落ち始めている時期である。
俺はあれ以降何ひとつ変わっていない。食事、バイト、自家発電、睡眠の4つを規則正しく繰り返すだけの日々である。
パターン化した、ルーティン化したこの生活は、4ヶ月前からのあの経験をした後では今の生活は物足りないものであった。
刺激が足りない、刺激が欲しい、そんなことを思うようになっていた。
本物の性の快楽を知ったあの世界の俺もこんな感じだったのだろうか。それだとしたら俺は一方的に責めることは出来ないのかもしれない。
あぁ、今日もバイトが始まる。俺は身支度をして家を出る。
何か変わったこと起きないかなぁ…。空から美少女でも降ってこないかなぁ。そんな風に晴れた空を見上げるが降ってくるのは小粒の雨だけであった。
バイト先のコンビニに到着する。今日も今日とて何もない。
山登さんも来た。久しぶりだ。彼女は今色々と忙しいらしく顔を出せていなかったみたいだ。
そう言えば陽は何をしてるんだろうか。どうやって陽と出会ったのだろうか。
こんな風にバイト中に客として来たり…
おっと、客だ。こんなことを考えている場合じゃないな。
外はいよいよ本降りになってきた。今入ってきた客は傘を持ってないのだろうか。ずいぶん派手な客だが、髪も服もびしょ濡れだ。まあ、さっきまで晴れてたから仕方ないか。
その客は塩むすびと野菜ジュースを持ってこちらに来た。塩むすび買う人は中々珍しい。確か、陽も塩むすび大好物だったな。
何だろう、今日はやたらと陽のことばかり考えてしまう。
俺はそんな事を考えながらレジ打ちをする。ありがとうございました、と商品を渡す時、俺は目を疑った。
なんとそこには陽がいたのだ。
一体どういう風の吹き回しだ?あまりにもタイミングが良すぎる。
しかも外見はあの時とはまるで違う。金髪にピアス、マニキュア、そして何より胸元を大きく開けた派手な服。
だが彼女、陽に間違いない。俺は彼女をよく見てきたのだ。いくら化粧を濃くしていても、これは断言出来る。
すると彼女の方も俺に気付いたようで、俺と目が合うと逃げるように店を出ていった。
一体彼女はどうしてしまったのだろうか。彼女はあんなに派手な見た目を好まないはずだ。
何なら彼女が毛嫌いするタイプの女性をそのまま具現化したような見た目になっていた。
まあ人は変わる。人は環境に応じて変化をしていくものだ。日本人はより一層その傾向がある。
だが彼女は違う。大和撫子とは程遠い、気が強く、我を持ち、そしていつも冷静だ。よほどの事がない限り彼女はあんな事をしない。
これはちと闇が深そうだ。
まあ、今となってはただの知人だ。俺が首を突っ込んで良いものでもないだろう。
俺はそう言い聞かせ、次の客のお会計をする。
だが、彼女の姿は俺の脳裏に焼き付き、そして頑固な油汚れのようにこびり付き離れることはなかった。