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トライアゲイン  作者: 注連縄
第2章 性欲に魅せられて
14/24

第14話 化けの皮

 待ち合わせのカフェが見える。待ち合わせの30分前だ。


 少し早かったな…。俺は緊張のせいか、いつもよりも早足になっていたようだ。

 まあ、早く来るに越したことはない。そう言い聞かせ店内に入る。この店に入るのはどの世界を通じても初めてであった。


 俺は若干戸惑いつつも、端の窓際の席に腰をかけた。少し落ち着き店内を見回す。優雅なBGMに似合わず、男性客ばかりである。

 新聞を読む者、携帯をいじる者、イヤホンをして音楽を聴く者、様々である。


 俺はとりあえず注文を、と思い店員を呼ぶ。静寂を切り裂くように鳴った呼び鈴のせいか、周囲が一斉にこちらを見る。


 あまり注目されずに生きてきたせいか、視線が痛い。俺は声を最小限に抑え、コーヒーを注文する。店員も見たところ男性のみのようだ。

 ここは男性に人気のカフェなのか?不自然なくらいに男性しかいない。本当に待ち合わせ場所がここなのか確認するが、ここで合っている。


 たまたま女性客がいないだけなのか。平日なのにここにいる男性達は仕事がないのか?日本の将来が少し心配になる。


 さて、注文と彼女、どちらが先に来るかな。

 ただ、もうそろそろ来てもいい時間だ。

 ここは彼女にチップ10枚かな。

 緊張を紛らわすため、俺はそんなくだらない事を考えていた。面白くなくても緊張を紛らわせれば良かったのだ。


 入店の鈴がなる。彼女が来たのだ。時を同じくしてコーヒーも来た。

 彼女は俺を見つけると、


「先輩、待たせてごめんなさい。色々準備してたら遅れました」


 と声をかけた。なるほど、様子に変化はない。いつも通りの楓だ。


  「いや、俺が早く着きすぎただけだよ、そんな謝らないで。謝らなきゃいけないのは俺の方だから」


 俺はそう言い、彼女を正面の椅子に座らせる。緊張をコーヒーで紛らわす。

 とりあえず昨日のことを謝らなければ。


「山登さん、本当にごめん。俺がしたことは到底許されることではない。許して欲しいなんて思っていない。これから償っていくつもりだ。何だってする。」


 俺は声の大きさを抑えながらも、心からそう言った。

 

「良いですよ、先輩。まだ立ち直れていませんが、もうだいぶ気が晴れましたから」


 気が晴れた…?どういうことだ?陽を殺して気が晴れたってことか?

 俺は疑心暗鬼になっているためか、彼女の言葉に引っかかってしまう。いかん、まだ彼女が犯人だと決まった訳では無いのだ。

 顔を上げると彼女は微笑んでいた。昨晩の笑顔とはまるで違う。

 とは言え、彼女が犯人ではないという証拠もない。ここはもう直接聞いてしまおう。

 残ったコーヒーを一気に飲み干し、俺は彼女にこう問いかけた。


「それはよかった。

 話は変わるんだけど、今朝警察が家に来たんだ。陽が今日の未明、遺体で発見されたらしい。何か知ってないか?」


 俺はそう彼女に問いかけた。彼女の目を見つめるが、顔色ひとつ変わらない。動揺も見せない。まさか彼女は関係していないのか??心臓が破裂しそうな勢いでバクバク鳴っている。

 

 沈黙が訪れる。

 しかし少しして彼女が口を開く。


「はい、もちろん知ってますよ。私が殺しましたから」


 彼女は満面の笑みでそう言った。


 俺は血の気が引く感覚を鮮明に味わう。

 やはりお前だったか。覚悟は出来ていたとはいえ、事実を受け止めるのはやはりキツい。

 このままでは倒れてしまいそうだ。俺は唇をおもいっきり噛み締め、なんとか意識を保つ。


 なぜこんなに躊躇いもなく言えるのだ?警察に通報すれば即逮捕だぞ?その覚悟も出来ているということか?


「それは本当なのか?ふざけて言ってるのなら辞めてくれ」


「本気で言ってますよ。あの女、私から何もかも奪った。

 私にとって先輩は全てだった。その全てを奪ったあの女を許せなかった。

 だから殺したんです。いいえ、奪い返したんです」


 彼女は自分は何も悪くない、とでも言うかのような目でこちらを見る。


 俺はふつふつと怒りが湧き、周囲のことなど忘れ強い口調でこう言った。


「山登さん、君がしたことは到底許されるべき行為ではない。俺も許さないし世間も許さない。通報する。その行いを反省し、後悔と罪悪感で苦しめ!」


 俺は携帯電話を取り出し、110番に電話をかけた。



 しかしいくら経っても呼出音さえならない。俺は異変に気づき、携帯を見る。

 すると電波のマークが圏外の表記になっていた。

 なぜだ…?なぜ繋がらない?なぜ圏外なんだ?


「先輩、最後にひとつお願いを聞いてください」


 山登は満面の笑みを浮かべ、こう言った。


「先輩、ずっと一緒にいてください」


 俺は彼女が何を言っているのか分からなかった。それどころではないからだ。

 思えば違和感だらけだ。


 彼女が当日にもかかわらず、待ち合わせの場所、時間を決められたこと。まるでこちらから連絡が来るのを待っていたかのようだった。


 次に、彼女が指定したこの店。

 客は男性ばかり。今までの会話が聞こえているはずなのに、客は全く反応を示さない。加えて携帯電話が繋がらない。


 そして最後の彼女の言葉。

 ずっと一緒にいてください、だって?何を言ってるんだ?

 彼女の精神は確実に病んでいる。愛が重すぎるが故に。

 愛が重すぎる…か…。

 

 

 何だかここにいては、まずい気がする。ものすごい嫌な予感が、嫌な悪寒がする。

 

 この場から離れた方がいい!


 俺は直感的にそう思った。


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