第13話 本日、曇天にて
次の日、俺は目覚ましのアラームよりも先に、インターホンの音で目を覚ました。
こんな朝早くに誰だろう。まだ朝の6時であるというのに。俺は寝惚け眼を擦りながらドアを開けた。
「朝早くに失礼します。私達こういう者です」
なんとそこにいたのは警察手帳を掲げた警察であった。俺が何か悪い事をしたであろうか。いや、確かに最低なことをしたが、別に法に触れることではない。
「あの…、何の用ですか?」
俺は恐る恐る聞く。
「狐火陽さんについて聞きたいことがあります、少しお話を聞かせてくれませんか?」
陽がどうかしたのだろうか。まさか俺が浮気していたから、仕返しとして冤罪をかけたのか?
いや、まさか。あいつはそんなことはしない。 あいつは冷静で、感情を表に出さないため、何を考えているのか分からないが、芯はしっかりしていて真っ直ぐな奴だ。
それならば、彼女の身に何かあったのだろうか?
「あの、ひなt…、狐火さんがどうかしましたか?」
「はい。狐火陽さんが今日未明、遺体で発見されました」
え…?俺は耳を疑った。寝起きだからきっと聞き間違いだろう。もう1度聞いてみるか。
「あの、今なんて?」
「狐火陽さんが彼女の自宅内にて遺体で発見されました」
今度はきちんと聞いた。一言一句聞き漏らさなかった。
しかしちょっと何を言ってるのか分からない。
陽が死んだ?彼女は昨晩まで俺と一緒に居たんだぞ? そんな短い間に死ぬなんてありえるのか?
昨日は色々なことがあったが、別れ際の彼女は至って普通だった。
・・・〝彼女〟は普通だった。ここで言う〝彼女〟は陽のことだ。
ならばここで言わない彼女、楓の方はどうだっただろうか。
楓は昨晩明らかに様子がおかしかった。俺が今まで隠していたことを彼女らに打ち明けた後、彼女は泣く訳でもなく、怒る訳でもなく、笑っていたのだ。
嫌な予感がどんどん強くなる。一応聞いてみよう。
「そうですか…。ちなみに自殺か他殺か分かりますか?」
「すみません、今はまだ調査中ですのでお答え出来ません」
警察らはそう答えたが、陽に限って自殺なんて有り得ない。彼女は自分が苦しくても、誰かが悲しむことは選ばない。
これは確証がないから何とも言えないが、楓が関わっている可能性が高い。あの不気味で不自然な笑い、どうも引っかかる。
この件、果たして警察に任せていいのだろうか。日本の警察は優秀だ。犯人も見つけてくれるだろう。
しかし俺には時間が無い。無慈悲な性欲の波がまた俺を襲うだろう。その前に真実を知りたい。
無理かもしれないが、犯人の心当たりはある。この件、陽が死んだのはおそらく俺のせいだ。直接的ではないかもしれないが間接的な関係はあるだろう。
とりあえず俺は昨晩あったことを警察に打ち明けた。浮気がバレたこと、陽の様子、そして楓の様子。
通常、事情聴取は長いものと思っていたが、警察は案外すんなりと帰っていった。
警察が帰ると俺は楓に謝るため、いや、今となっては真実を知るために彼女と会う約束をした。
いきなりの連絡なのに彼女はすんなりOKを出してくれた。
会う場所と時間は彼女の指定で、彼女の家の近くのカフェとなった。
状況が目まぐるしく、そして大きく変わっているのになぜか順応出来ている。前行った並行世界での経験が役に立っているのだろうか。
そして楓は果たして本当にこの件に関係しているのだろうか。もし関係していなかったとしたら、一体誰が…。
俺はそんなことを考えながら彼女との待ち合わせ場所に向かった。
空を見上げると、俺の心中を具現化したような曇り空がどこまでも続いていた。