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トライアゲイン  作者: 注連縄
第2章 性欲に魅せられて
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第12話 修羅に猿1人

  まずい、楓ぽんが来てしまった。なぜだ?今日の予定はないはずだ。トーク画面を見た時にはそんなこと書かれていなかったはずだ。どうしてだ?


  いや、今は考えている場合ではない。一刻も早く元の世界に戻らなければ。

  俺は再び手を上下に動かす。

  くそ、くそ、どうしてだ…!極度の緊張のせいか全く興奮しない。それどころかどんどん興奮が冷めてきている。まずい。


  すると、陽が動き出した。


  「どちら様ですか?」


  まずい、2人を会わせるわけにはいけない。俺は急いでズボンを履き、トイレを出た。


  しかし時は既に遅かった。陽は玄関のドアを開けていたのだ。


  場が一瞬で静まり、3人の間に沈黙が流れる。

  これは俗に言う修羅場というやつだ。この状況を2人にどう説明すれば良いのだ。


  先にこの沈黙を破ったのは陽であった。


  「夏、この女性は誰?今日の約束って何?」


  「いや、それはその…」

  俺は狼狽えながらも必死に言い訳を探す。


  「あなたこそ誰ですか?今日は私と夏さんが付き合って2年の記念日で私の家で会う約束をしてたのですが」


  楓ぽんは人見知りを発揮しながらも強めの口調で陽にそう言った。


  そうか今日は楓と付き合って2年の記念日だったのか。そうだったのか。あのプレゼントはそうだったのか。

  となるともっと状況が悪化するではないか。どうにか、どうにかこの状況を打開出来ないだろうか。


  「そう、夏、あなた浮気していたのね。私を妊娠させておいて、しかも私と付き合う前からこの女と付き合っていたのね。」


  彼女はあの頃に見せた表情とはまた違う、悲しみの中にも底知れぬ怒りを含みそう言った。


  「妊娠…?妊娠ってどういうことですか?夏さん、この女性とはどういう関係なんですか?」


  一方、楓ぽんの方はまだ現実を受け止めきれていないようで、悲しみの中にもまだ戸惑いが見受けられる。


  って、こんな分析をしている場合ではない。どうにかしなければ…。

  かと言ってこれはもう誤魔化せる状況ではない。もう全て、洗いざらい白状するしかない。


  覚悟を決めた俺は2人に、陽より先に楓ぽんと付き合っていたこと、しかし陽の方が本命であること、そして陽が妊娠しているということを伝えた。


  陽は、なるほど、分かったわとだけ言いリビングに戻って行ってしまった。

  自分が本命であるという事が分かり安心していたようにも見えた。


  一方の楓ぽんはずっと下を向いたまま肩を震わせ黙り込んでいる。俺は泣いている彼女になんて声をかければ良いのか分からず、彼女の様子を見守るしかなかった。


  しかし俺は彼女の違和感に気がついた。泣いているかと思っていた彼女だが何かがおかしい。


  しばらく見ていると、俺は気づいた。彼女は泣いているのではない。笑っているのだ。彼女は肩を震わせ笑っているのだ。


  「ど、どうしたの?楓ぽん?」


  俺は怖くなり、声をかけた。すると、


  「何でもないです、あ、あと楓ぽんとか言うの辞めてください(笑)」


  彼女は声を震わせながらそう言った。


  とりあえず謝らなければ。俺はそう思い、彼女に声をかけようとした時、彼女は、


  「それでは先輩、さようなら」


  彼女はそう言い、走っていった。

  彼女のいなくなった後の静寂は俺を罪悪感の渦に陥れた。


  これは俺が100%悪い。人として、強姦とは違う意味で最低なことをしてしまった。俺がやったわけではないが、俺もこうなり得たのだ。楓と仲良くするということを選んでいれば俺もこうなっていたのだ。この世界の俺は俺じゃないが俺だ。


  黙って玄関の前で立ち尽くしていると陽が声をかけてきた。


  「夏、これからどうするの?返答次第では殴り飛ばすかもしれないわ」


  「君には迷惑をかけてしまった。ごめん。だけど俺は君が1番だ。その気持ちは変わらない。彼女とは終わりにするから、どうか俺を許してくれ」


  俺がそう口にした瞬間、視界から彼女の姿が消えた。

  俺は彼女からとてつもない威力の平手打ちを喰らったのだ。


  「1番傷ついているのは楓さんでしょう?私のことより彼女の心配をしなさい。謝罪するなら1番傷ついた人を優先するべきよ。私はその後でいい。あなたは謝ったの?謝っていないでしょう?」


  いきなりの平手打ちに面を食らったが、彼女の言うことは最もであるということは理解出来た。俺はこの場を何とか収めることに集中していた。そのせいで陽を失望させてしまったのだ。


  「まぁ、謝罪の言葉が出たから平手打ちで許すわ。彼女にはすぐに謝りに行きなさい。直接よ」


  彼女はそう言い家を出て行った。


  明日、楓に謝ろう。そして関係を終わらそう。許してもらえないかもしれない。それでも俺がやったことだ。自業自得なのだ。


  俺のやっていることは最低だ。やはり性欲は人を狂わせる。

  いや、しかし果たして本当にそうなのか。


  「愚か者は自らが愚かだと気づかないから他に原因を求める」


  彼女、陽はよくそう言っていた。俺は愚か者なのかもしれない。


  彼女はいつも冷静だ。怒りを露わにすることは決してない。怒りどころか基本、感情を表に出さない。

  しかし彼女の右手にはちゃんとした怒りがこもっていた。


  今日はもう寝よう。そして楓に謝ろう。

  楓の不気味な笑顔が脳裏に浮かんだ。あの笑みは何だったのだろうか。何か嫌な予感がする。


  俺は、いつのまにか性欲が失せていて、人生で2度目の自家発電0の日を過ごした。

  左頬は痛みは次の日まで引くことはなかった。





  そして次の日、陽は遺体で発見された。


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