第10話 裏切りのハーレム
開いた口が塞がらなかった。単なる比喩、誇張した例えだと思っていた言葉だが実際に同じ状況に陥るようだ。
なぜかと言うと、楓ぽん以外の複数の女性から連絡が来ていからだ。俺の目に映るのは見たことのない女性の名前ばかりだ。
しかし俺の口を開けてさらに塞がらないようにしたのは見ず知らずの女性の数ではない。1番上に書かれていた女性の名前だ。
そこには「狐火陽《 きつねびひなた》」と書かれていた。
一見、男の名前にも思えるこの名前だが、女性と判断できたのには理由がある。
この名前には見覚えがあるのだ。見覚え、という言葉では済まない、いや、済ましてはいけない。俺と彼女はそんな軽い関係ではない。
陽は高校時代、俺の同級生で、かつ初めて出来た彼女なのだ。いわゆる元カノというやつだ。
彼女とは色々なことがあり高3半ばで別れた。原因としては100%俺にあると言っても過言ではない。
彼女との思い出、いや、トラウマが鮮明に蘇ってきた。
そうだ、そういえば〝0229〟は陽の誕生日でもあり記念日だったな。何か嫌な予感はするな…。
しかし今はやるべきことがある。
感傷、いや心傷に浸るのも考え事をするのも後にしよう。
とりあえずトークの内容を見なければならない。
現在の状況は大方予想がついているが、唯一分からないのがこの陽だ。このトークの内容を見ない限り状況を完全に把握出来ない。
俺は手汗が滝のように出る中彼女とのトークを見返し、その流れで他の女性とのトークも見返した。 トークは万が一見られた時のためか、こまめに履歴は消してあった。しかし大方の状況は掴めたので整理しよう。
1.この世界の俺は複数の女性との肉体関係(?)を持っている。しかし不思議と楓ぽんの知り合いなどではないようで、この女性達には共通点はない。恐らく出会い系かなんかなのであろう。
2.それ以外は、元の世界の俺と同じ状況である。
そして次が1番重要である。
3.俺の彼女は楓ぽんではなく、陽であるということ。正確に言えば、陽が本命の彼女であるということだ。しかも交際開始は楓ぽんの方が早いというのだ。
他の女性達とは肉体だけの関係であるということが相互承認であるようだ。楓ぽんを除いて。
やはり先に付き合い始めておいて、実は本命の彼女がいるとは言えないのだろう。
そしてやはり陽とは復縁したようだ。どちらから交際を申しかけたのか分からないが、俺から行くことはないから恐らく彼女からだろう。
楓ぽんで性の快楽を思い知ったから陽に交際を持ちかけたなんてことはないだろう、流石に。そうであって欲しいものだ。
しかし性欲は我々を内から脅かす化け物だ。何があるかは分からない。
とにかく、この世界の俺、前に引き続きやばくないか?




