第1話 自家発電のすゝめ
本当にこんな人生を送っていていいのだろうか。
これまでの決断は、選択は、正しかったのだろうか。
それを確かめる方法なんてないのに、そんな事ばかり考えて生きている。
ただ、恐らく俺の今までの人生はお世辞にも良い人生とは言い難いものであろう。俗に言う負け組というものである。
俺は、向風夏。高卒、コンビニアルバイターでボッチ童貞、おまえに30を越えたおじさん。性欲が異常に強いことを除けば、特に記述することのない平凡な人間である。
父は俺が物心ついた時にはいなく、母も父については多くを語ろうとはしない。ただ、分かっているのは俺に似た人であるということだけだ。それは容姿の事なのか、性格のことなのかは定かではないが、俺に似ているのならば、察しがつく。ろくでなしなのであろう。
そんな俺の唯一の安らぎは、
自家発電である。
比喩表現のおかげでパッと見は普通の言葉だが意味するところは至極下品なことである。
毎日、荒れ狂う性欲を抑えながらバイトに明け暮れている俺は疲れも性欲も溜まっている。しかし自家発電をすればあら不思議、両方吹っ飛ぶのである。
しかし最近、何かがおかしい。
所謂自家発電をし、所謂放電をした瞬間、意識が飛ぶようになった。しかもそれは決して快感から来るものではない。
最初はすぐに意識は戻っていたのだが、最近、その時間はどんどん長くなりつつある。不気味なので辞めようと考えていたのだが、性欲には当然勝てるはずもない。人間は性欲に従順すぎるのである。
今日もバイトを終え、帰宅し、セットポジションにつく。今日はこの子に決めた。最近来ているグラビアの子だ。奇跡30代らしい。この子での発電は初めてだがいけそうだ。よろしくお願いします。その子があたかも自分のお見合い相手のように丁寧に親しみを込めて挨拶をする。
発電開始。
運動エネルギーに比例し快感が高まる。放電が近くなる。意識が飛ぶのではないかという不安が頭をよぎる。しかし止められない。
自分の性欲が異常なことを憎みながら、放電を迎えた。
いつものように意識が飛ぶ。だが今回は、すぐに意識が戻った。
安心しながら起きる。しかし何かがおかしい。そう、放電した時に生じる所謂電子なるものがないのだ。そしてまた気づく。
ここは一体どこなのか。