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箱庭奇譚  作者: 神井千曲
2/22

2

――約三十分後。

 一隻の小型艇がコロニーに向かっていた。

 全長は35m程か。船体は上下方向に薄いクサビ型。高さ、幅とも後方にいくにつれ広がっていく様な形状である。その先端の上面に突出した部分がブリッジだ。そして後部側面には大型の可動式スラスターユニットが存在する。

 この小型艇は、レオから発進したカッター(小型巡視艇)、FRC-28である。



――FRC-28 ブリッジ

 そこは、艇長と舵手、オペレーターのほかには数人しか乗れぬ様な狭い場所。

 その窓越しに、巨大な円柱の姿が迫ってくるのが見えた。

 調査隊隊長に任命されたライアンは、そのブリッジで近づくその姿を見つめていた。

「とりあえず、前後のドッキングポートを確認しよう。内部調査を行うかどうかは、それから決めればいい」

「了解」

 その言葉に舵手のルエンロンが応じる。そしてFRC-28はスラスターを吹かしてコロニー後部へと回り込んだ。



 コロニー後端の、ぽっかりと空いた円形の開口部。背面側のドッキングポートが設置されている場所だ。通常であれば、であるが。

 そこは太陽光が当たらない場所である為に、内部は真っ暗な闇に沈んでいた。

 このコロニーが機能しているならば、誘導灯や進入灯などの無数の明かりが瞬いていたはずではあるのだが……。

「中を照らして見てくれ。それと、レーダーも」

「ラジャ」

 FRC-28の前照灯が白い光を放ち、その内部を照らし出していく。

 その内部は、本来円筒状の空洞となっている。船が接舷するための埠頭である円周方向及び高さ方向に壁状の構造物が構築されているはずだ。

 しかし……

「これは……」

「……どうした?」

 ライアンはオペレーターのエンクバットに視線を向ける。

「ええ……どうやらここは、ロケットモーターか何かに改造されている様です。これを」

 フロントウィンドウ上に浮かぶコロニーの姿。エンクバットはそれに重ねて、一つの画像を表示させた。光学カメラおよび各種センサーで取得した現在の開口部内の状況を、CGで表したものだ。

 それによれば、円筒形の港湾部を埋めるように、何らかの機械が配置されているのが見て取れる。

「これは……確かに、播種船などに使用されるタイプの推進システムが設置されているな」

 かつてコロニーを恒星間宇宙船に改造するためのアッセンブリーが開発され、それを利用して造られた播種船が多数太陽系から旅立っていったわけではあるが……

「もしかしたら、廃墟となる前に播種船として改造をされていたのかもしれんな。そして、何らかの理由で廃棄された、と……。そうだな。とりあえず、船長に報告を」

 すぐさまライアンは、エンクバットに命じてレオとの通信回線を開かせた。



――レオ号ブリッジ

『……以上です』

「なるほどな……」

 ライアンからの報告を受けたヴォロフは、腕を組んで考え込んだ。

「このコロニーに関して、そういった情報はあるか?」

 そして、オペレーターに問う。

 オペレーターはすぐさま保安本部のコンピュータに接続し、データ照会を行った。

「……いえ。特には無い様です」

 ブリッジ内の大型ディスプレイ上に、このコロニーに関するデータが映し出された。

 ヴォロフはそれに目を通すと、一つうなずいた。

「……なるほど。確かにそういった改造の届け出は無いようだがな。しかし、この場所にあるコロニーだ。考えられない事では無いな」

 ヴォロフには思い当たる節があった。

「ふーむ……やはりこれは、単なる救難事故などでは無いのかもしれんな。応援を呼ぼう」

「ラジャ」

 オペレーターは保安本部に通信回線を開いた。

「では、そちらは引き続き調査を続けてくれ」

『イエッサ!』

 ヴォロフの指示に、ライアンは敬礼を返した。



――FRC-28 ブリッジ

「では……表に回ろう」

 レオ号からの指令を受けたライアンは、次の指示を下した。

「了解。前方へ回ります」

 ルエンロンは答えると、パワーコントロールペダルを踏み込んだ。



 そしてFRC-28は、コロニー前面に到達した。

 そのほぼ全てを覆う円形の“窓”の奥は真っ暗で、内部の状況はうかがい知ることができない。

 そしてその中央部に、円筒形の突出部があった。さらにその中央には、長方形の開口部が存在する。これが前面側のドッキングポートである。

 それに正対する位置に、FRC-28は静止した。

 そして、各種レーダーおよび光学センサーでその状況を探る。

 と、その結果が、カッターのフロントウィンドゥ上に映し出された。

「あれは……」

 ライアンが身を乗り出した。

 光学センサーで捕らえられた開口部の奥、直方体型の空間の深部に四角い“何か”が見えた。

 どうやら宇宙船の類の様だ。

 センサーによれば全長は45m程。船体は上下方向に平たく前後方向に長い直方体形状で、前方に突出した部分はブリッジであろうか。

 それは船首をこちらに向け、斜めになって浮遊していた。

「貨物船の様ですね。おそらくはマイヤーズ社製のアイオンA-103型だと思われます。どうやら船首左側付近に衝突痕がある模様です」

「ふむ……アレが送信元かもしれんな。呼びかけてみてくれ」

「ラジャ」

 ライアンの指示で、エンクバットは幾つかの周波数で貨物船に通信を試みた。しかし、それは徒労に終わる。

「無人か? それとも……」

 ライアンはすぐさま無線をレオのブリッジに繋いだ。

「こちらFRC-28。貨物船らしきものの機影を確認。おそらく大破している模様。無線で呼びかけてみたものの反応は無し。貨物船あるいはコロニーに接舷し、救助活動を行う必要があると思われます」

『了解した。接舷を許可する』

 ヴォロフからの返信。

「よし……それでは、これより接舷を行う。総員配置に着け!」

「ラジャ!」

 FRC-28艇内は、にわかに慌ただしく動き始めた。



 FRC-28は、慎重にコロニーへと近付いていく。

「本艇はコロニー中央軸上の座標に到達しました」

 エンクバットの言葉にライアンは一つ頷く。

「よし。ドッキングポート内に侵入。調査にかかる!」

「了解!」

 その指示に従い、ルエンロンはFRC-28のスラスタを吹かす。そしてカッターはコロニーへと向かっていった。



 調査艇FRC-28は長方形のスリットを抜け、ドッキングポート内へと侵入した。

 スリットの奥は、直方体状の空間が存在する。

 FRC-28はそのほぼ中央で停止した。その前方に、大破した貨物船の姿が見える。

「……どうだ?」

 ライアンが問う。

「熱源反応はありません。完全に動力は死んでいる様です」

「ふむ……」

 動力が死んでいる。それはつまり、船内の熱交換システムが停止しているという事を意味している。

 しかもそこは、常に太陽の光を受ける場所である。本来のバース(係留位置)は開口部より一段下の影になる箇所にあるが、あの貨物船はそこにすら辿り着く事が出来ない状態であったという事か。あるいは破損の状況からして、操船ミスでどこかの壁に衝突し、制御不能になってしまっているのか。

 どれほど時間が経っているか分からないが、あの貨物船内部は高温になっている可能性がある。

「急いだ方がいいな。移乗して捜索を行う。ルエンロンとエンクバットはブリッジを頼む。あの船の船籍番号をレオに伝えておいてくれ」

「ラジャー!」

 ライアンは席を立つとブリッジを出、後部の乗員待機室へと向かった。

*人物・用語など

ガオラン・ルエンロン

 FRC-28の舵手。

エンクバット・ハシュバータル

 FCR-28のオペレーター。

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