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箱庭奇譚  作者: 神井千曲
19/22

19

――同じ頃 居住区シリンダー内

 ライアンを見送ったクルツは、残り二機のライドトルーパー・ガラバに向き直った。

(さっきはリックにいいところを見せようと思って、つい『引き受けます』なんて言ってしまったけど……ちょっとマズかったかな?)

 クルツは心中で苦笑する。

(けど……ここは何とか乗り切らないと! 『まだ使うな』とは言われていたけど、仕方ないよね)

 内心そう呟くと、クルツもまたパワードスーツの左肩にある強化剤注入スイッチを押した。

 そして、その腕に熱い“何か”が流れ込む。強化剤だ。

「……! これは」

 湧き上がる“力”。そして強烈な灼熱感と痛み。

 クルツの額には、大量の汗が吹き出ていた。

(話には、聞いていたけど……ここまでとは)

 喘ぐように、大きく息を吐く。

 そこに、ごくわずかな隙ができた。

 それを逃さず、ガラバの拳が打ち下ろされる。

「ッ!」

 クルツはすぐさま両のマニュピレーターを頭上で交差させ、ガード。

 しかし、

「ああっ!」

 右腕に装備していたハンドガンが半ばから折れてしまった。

 だが、クルツの戦意は萎えない。

「このっ!」

 使い物にならなくなったハンドガンを相手めがけて投げつける。そして、左腕をアッパー気味に突き上げた。同時に下腕マウントに装備された装甲板(シールド)、その裏面に装着されたパイルバンカーを射出する。

 それは相手の腹部を下から撃ち抜き、貫いた。

 更に、その先端に取り付けられた電極から高圧電流を放電。追い討ちで相手の電子回路を灼いてやった。

 そのガラバは数度機体を痙攣させたのち、完全に沈黙した。

「よし、二つ。……!」

 そこに襲いかかる最後の一体。

「クソッ!」

 慌てて向き直ろうとし……しかし、パイルバンカーが抜けず、反応が遅れた。

「ああっ!」

 最後のガラバの持つショットガンがファーレスに向けられ……

「!」

 直後、銃身が腔発した。

 ろくに整備していなかった為であろうか? 銃身が破裂し、破片が飛び散る。

 ガラバの右下腕は大きく損傷。一方ファーレスも、先刻のガラバをとっさに盾にはしたものの各所にダメージを負った。

 コクピットをかばった右腕はズタズタになり、頭部も大きく損傷した。

「……このっ!」

 すかさずファーレスはパイルバンカーをパージ。

 背中からプラズマカッターを取り出し、健在な左腕で殴りかかってくるガラバを迎撃する。

 そして、

「こいつ!」

 プラズマの刃はガラバの胴を大きく斬り裂き……ガラバの左腕は、ファーレスの頭部もろともコクピットハッチを吹き飛ばしていた。

 が、動力部にダメージを負ったにも関わらず、ガラバは動きを止めない。

 剥き出しになったクルツを叩き潰さんと、左腕を振り上げた。

 慌てて飛びのくファーレス。

 ガラバはそれを追ってよろめく様に前進し……

 その時、何かがその胸部に向かって飛んだ。

 直後、爆発。

 胸部が大きく破損し、とうとう崩折れた。

「……危なかった」

 ファーレスの大破したコクピットで低反動砲を構えたクルツは、一つ大きく息を吐く。

 そしてかすかに硝煙を上げる砲を放り捨てると、シートにへたり込んだ。

「!」

 が、その表情が強張る。

 その脇腹に滲む鮮血。

「はは……ドジったなー。情け無い」

 ヘルメットのバイザーを上げ、額の汗を拭う。

 ショットガンの散弾がファーレスの装甲を貫通し、更にクルツの脇腹を貫いたのだ。

 クルツは腹部の装甲をめくり上げたのち、腰につけたポーチから白いテープ状のモノを取り出し、それをスーツの上から脇腹に貼り付けた。

 それは、ナノマシン付きの絆創膏。ナノマシンが傷口に浸透し、治癒を助けるものだ。

「これで、よし。……おっと!」

 満身創痍のファーレスがパワーダウンを起こし、崩折れた。

 クルツは慌ててシートをつかみ、落下を免れた。

 しかし、

「んぐっ!」

 衝撃。そして、傷口に走る痛み。

「けど……この程度!」

 自らに鞭打ち、立ち上がる。

 そして、シート裏から装備品の詰まったザックを取り出すと、機能停止を起こしたファーレスから飛び降りた。

「……ッ!」

 着地の衝撃で、再び痛みが走る。

 しかしクルツは、走り出した。

 敬愛するライアンの元へと。



――建物内 廊下

『バカなっ! 何故そんなことが起きている!』

「落ち着いてくれ。だから、その理由を確かめるために俺たちはここに来たんだ」

 逆上し、声を荒げるオティアを、ライアンはなだめる。

 コロニー内の重力ブロックにいたとはいえ、多少の変化は気づいても良さそうなものではあるが……。よほど研究に没頭していたのであろうか?

 ライアンは内心頭を抱えた。

『これが落ち着いていられるか! どこの馬鹿がそんな事をやろうとしているのだ⁉︎ 他のコロニーや小惑星にでも衝突したらどうするつもりなのだ!』

「……それを聞きたいのは俺だよ。このコロニーは、どうやら地球へと向かう可能性も高いとかいう話だしな」

『何だと……。もし地球に落下する様な事になれば、ワシの研究が水泡に帰してしまうではないか!』

「……そういう問題か? まぁいい。このコロニーには、他に誰かいないのか?」

『いや、そんな物好きはおらんぞ。時々ティラチスの連中がクスリを取りに来るだけでな』

「ふむ……だとすれば、やはりこの先に行かねばなるまい」

『何故わざわざそんな事をせねばならんのだ?』

「……へ?」

『確かにワシは貴様に研究成果を見せてやると言った! しかし、それとこの件は全く関係がないではないか! 貴様は一体何を企んでいるのだ⁉︎』

「う……む」

(しまった。余計な事を言ったか。しかし……だなぁ)

 ライアンは心中で愚痴る。何とも扱いにくい人物である。

『……そうか! そういえば貴様、保安庁の人間だったな! 薬物の調査に来たのか! ならば、行かせるわけにはいかん!』

 いきなりその胴体から怪しげな兵装を展開するオディア。

「今更かよ⁉︎ いやだからな……」

(殴ってやろうか。……いやいや、まだだ。まだ我慢せねば)

 かつてないほどの忍耐力を発揮し、ライアンは怒りを抑えた。

「あのな。俺たちが来たのはあくまでも事故の調査だ。現時点では、それ以外のことは想定していない」

『では、何故この先に行きたがるのだ⁉︎』

「アンタの“研究成果”が、もしかしたらこの件に関わっているかも知れんと思ったからだ」

『バカな! “アレ”にそんな事など出来るはずがなかろう』

「しかし、だ。現状、このコロニー内で“意思”を持ちうるとすれば、アンタ以外には“アレ”しかいまい?」

『“アレ”か……いや、まさか……』

「可能性はあるんだろう? 今のアンタの反応からして……」

『グムー』

 どうやらオティアはその可能性に思い至ったようだ。しかし、まだ納得しきれないらしい。

「どのみち、このままじゃアンタの研究成果もろとも俺たちはお陀仏だ。まずは、その原因を確かめようじゃないか」

『む……う』

 絶句したおティアに背を向け、ライアンは走り出す。

『待たんか、貴様! ワシを置いていくつもりか!』

 そしてオティアもその後を慌てて追った。

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