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――同じ頃 居住区シリンダー内
ライアンを見送ったクルツは、残り二機のライドトルーパー・ガラバに向き直った。
(さっきはリックにいいところを見せようと思って、つい『引き受けます』なんて言ってしまったけど……ちょっとマズかったかな?)
クルツは心中で苦笑する。
(けど……ここは何とか乗り切らないと! 『まだ使うな』とは言われていたけど、仕方ないよね)
内心そう呟くと、クルツもまたパワードスーツの左肩にある強化剤注入スイッチを押した。
そして、その腕に熱い“何か”が流れ込む。強化剤だ。
「……! これは」
湧き上がる“力”。そして強烈な灼熱感と痛み。
クルツの額には、大量の汗が吹き出ていた。
(話には、聞いていたけど……ここまでとは)
喘ぐように、大きく息を吐く。
そこに、ごくわずかな隙ができた。
それを逃さず、ガラバの拳が打ち下ろされる。
「ッ!」
クルツはすぐさま両のマニュピレーターを頭上で交差させ、ガード。
しかし、
「ああっ!」
右腕に装備していたハンドガンが半ばから折れてしまった。
だが、クルツの戦意は萎えない。
「このっ!」
使い物にならなくなったハンドガンを相手めがけて投げつける。そして、左腕をアッパー気味に突き上げた。同時に下腕マウントに装備された装甲板、その裏面に装着されたパイルバンカーを射出する。
それは相手の腹部を下から撃ち抜き、貫いた。
更に、その先端に取り付けられた電極から高圧電流を放電。追い討ちで相手の電子回路を灼いてやった。
そのガラバは数度機体を痙攣させたのち、完全に沈黙した。
「よし、二つ。……!」
そこに襲いかかる最後の一体。
「クソッ!」
慌てて向き直ろうとし……しかし、パイルバンカーが抜けず、反応が遅れた。
「ああっ!」
最後のガラバの持つショットガンがファーレスに向けられ……
「!」
直後、銃身が腔発した。
ろくに整備していなかった為であろうか? 銃身が破裂し、破片が飛び散る。
ガラバの右下腕は大きく損傷。一方ファーレスも、先刻のガラバをとっさに盾にはしたものの各所にダメージを負った。
コクピットをかばった右腕はズタズタになり、頭部も大きく損傷した。
「……このっ!」
すかさずファーレスはパイルバンカーをパージ。
背中からプラズマカッターを取り出し、健在な左腕で殴りかかってくるガラバを迎撃する。
そして、
「こいつ!」
プラズマの刃はガラバの胴を大きく斬り裂き……ガラバの左腕は、ファーレスの頭部もろともコクピットハッチを吹き飛ばしていた。
が、動力部にダメージを負ったにも関わらず、ガラバは動きを止めない。
剥き出しになったクルツを叩き潰さんと、左腕を振り上げた。
慌てて飛びのくファーレス。
ガラバはそれを追ってよろめく様に前進し……
その時、何かがその胸部に向かって飛んだ。
直後、爆発。
胸部が大きく破損し、とうとう崩折れた。
「……危なかった」
ファーレスの大破したコクピットで低反動砲を構えたクルツは、一つ大きく息を吐く。
そしてかすかに硝煙を上げる砲を放り捨てると、シートにへたり込んだ。
「!」
が、その表情が強張る。
その脇腹に滲む鮮血。
「はは……ドジったなー。情け無い」
ヘルメットのバイザーを上げ、額の汗を拭う。
ショットガンの散弾がファーレスの装甲を貫通し、更にクルツの脇腹を貫いたのだ。
クルツは腹部の装甲をめくり上げたのち、腰につけたポーチから白いテープ状のモノを取り出し、それをスーツの上から脇腹に貼り付けた。
それは、ナノマシン付きの絆創膏。ナノマシンが傷口に浸透し、治癒を助けるものだ。
「これで、よし。……おっと!」
満身創痍のファーレスがパワーダウンを起こし、崩折れた。
クルツは慌ててシートをつかみ、落下を免れた。
しかし、
「んぐっ!」
衝撃。そして、傷口に走る痛み。
「けど……この程度!」
自らに鞭打ち、立ち上がる。
そして、シート裏から装備品の詰まったザックを取り出すと、機能停止を起こしたファーレスから飛び降りた。
「……ッ!」
着地の衝撃で、再び痛みが走る。
しかしクルツは、走り出した。
敬愛するライアンの元へと。
――建物内 廊下
『バカなっ! 何故そんなことが起きている!』
「落ち着いてくれ。だから、その理由を確かめるために俺たちはここに来たんだ」
逆上し、声を荒げるオティアを、ライアンはなだめる。
コロニー内の重力ブロックにいたとはいえ、多少の変化は気づいても良さそうなものではあるが……。よほど研究に没頭していたのであろうか?
ライアンは内心頭を抱えた。
『これが落ち着いていられるか! どこの馬鹿がそんな事をやろうとしているのだ⁉︎ 他のコロニーや小惑星にでも衝突したらどうするつもりなのだ!』
「……それを聞きたいのは俺だよ。このコロニーは、どうやら地球へと向かう可能性も高いとかいう話だしな」
『何だと……。もし地球に落下する様な事になれば、ワシの研究が水泡に帰してしまうではないか!』
「……そういう問題か? まぁいい。このコロニーには、他に誰かいないのか?」
『いや、そんな物好きはおらんぞ。時々ティラチスの連中がクスリを取りに来るだけでな』
「ふむ……だとすれば、やはりこの先に行かねばなるまい」
『何故わざわざそんな事をせねばならんのだ?』
「……へ?」
『確かにワシは貴様に研究成果を見せてやると言った! しかし、それとこの件は全く関係がないではないか! 貴様は一体何を企んでいるのだ⁉︎』
「う……む」
(しまった。余計な事を言ったか。しかし……だなぁ)
ライアンは心中で愚痴る。何とも扱いにくい人物である。
『……そうか! そういえば貴様、保安庁の人間だったな! 薬物の調査に来たのか! ならば、行かせるわけにはいかん!』
いきなりその胴体から怪しげな兵装を展開するオディア。
「今更かよ⁉︎ いやだからな……」
(殴ってやろうか。……いやいや、まだだ。まだ我慢せねば)
かつてないほどの忍耐力を発揮し、ライアンは怒りを抑えた。
「あのな。俺たちが来たのはあくまでも事故の調査だ。現時点では、それ以外のことは想定していない」
『では、何故この先に行きたがるのだ⁉︎』
「アンタの“研究成果”が、もしかしたらこの件に関わっているかも知れんと思ったからだ」
『バカな! “アレ”にそんな事など出来るはずがなかろう』
「しかし、だ。現状、このコロニー内で“意思”を持ちうるとすれば、アンタ以外には“アレ”しかいまい?」
『“アレ”か……いや、まさか……』
「可能性はあるんだろう? 今のアンタの反応からして……」
『グムー』
どうやらオティアはその可能性に思い至ったようだ。しかし、まだ納得しきれないらしい。
「どのみち、このままじゃアンタの研究成果もろとも俺たちはお陀仏だ。まずは、その原因を確かめようじゃないか」
『む……う』
絶句したおティアに背を向け、ライアンは走り出す。
『待たんか、貴様! ワシを置いていくつもりか!』
そしてオティアもその後を慌てて追った。




