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箱庭奇譚  作者: 神井千曲
18/22

18

――建造物内部

 ライアンは各種センサーを稼働させ、慎重に内部を探りつつ進んで行く。

 それらは、現時点では特に反応しない。

 しかし、以前感じたあの妙な“感覚”。

 それは、“強化剤”により鋭敏化した彼の感覚では、物理的な気配を感じさせるほどのプレッシャーとなって感じられた。

(精神波、の類か。それも、とてつもなく強力な……)

 生物の精神活動によって発するわずかな波動。

 しかしそれが、とてつもなく強力なモノとして感じられる。

 先刻見た、水槽の中の“何か”。そして、ティラチス3に積まれていたミッレ・リーリャ……

「……そうか」

 この先に待つ、“何者か”。その存在がおぼろげながらに浮かび上がる。

 と、前方にそれとは別の気配があった。

「……きたか!」

 現れたのは、新旧二種の人型生物たち。

 ライアンはブレードを抜き、そして左腕部のレーザーガンもアクティブにする。

 一方、彼らもまたライアンに対し、爪を振りかざして襲いかかった。

 しかし……

「むぅ⁉︎」

 彼らの様子がおかしい。今まで接触した連中とは違い、明らかに動きが鈍いのだ。

 それに、どことなく“崩れた”印象も受ける。

 まるで、ゾンビの様だ。

「……失敗作、ということか」

 レーザーを連射しつつ突進。そして次々にブレードで斬り捨てていく。

 彼らは苦悶のような声をあげつつ、為すすべもなく倒されて行った。

「……すまんな」

 そして、全てを倒すと、再び先へと向かった。



――長い廊下を抜け、頑丈な扉をいくつか破壊してたどり着いた先

「……これは⁉︎」

 その部屋の中には、多数の透明なシリンダーが並んでいた。

 シリンダー内には液体が満たされており……その中には、大小様々なヒトらしきものが浮遊していた。その中には、まだ胎児段階と思しきものも存在する。

「ここは……クローン人間の……いや、デザイナーベビーの研究施設なのか!」

 デザイナーベビー。あるいは、ジーンリッチと呼ばれるものたち。

 生体機能や身体能力向上を目的に遺伝子情報を編集されて生まれてくる子供達。

 かつては各国の軍で強化兵士として採用されていたこともある。

 しかし現在では、そうした兵士を作り出すことは禁じられている。

 ……地球連合参加の国では、少なくとも表向きは。

「しかし、妙だ」

 シリンダー内の“それ”の姿。

 明らかに、人間とは逸脱している。

 その姿は……

「いや……まさか⁉︎ あの連中か!」

 剛毛で覆われたもの。硬い表皮を持つもの。このまま成長すれば、あの人型生物に似た姿になるのだろう。

「何故、こんな……」

『素晴らしいだろう』

 と、“何者か”の声が響いた。おそらくは年かさの、男の声だ。しかし、どことなく無機質で、そして狂気を帯びていた。

「……誰だ⁉︎」

 ライアンは慌てて視線を周囲に巡らす。

 シリンダーに気を取られ、周囲の警戒を怠っていた。

 そして、部屋の奥。シリンダーの陰に、その声の主はいた。

「……あんたは」

 それは、確かにヒトではあった。

 しかし、頭だけだ。首から下は、まるで作業機械のような有様だ。

 数対のマニュピレーターと、二対の脚。そして、各脚先にはローラーが付いている。

 いわゆる“ジェイムスン・タイプ”と呼ばれる義体に、頭を無理やりくっつけた様な姿である。

『ワシか』

 男はライアンを見、ニヤリと笑った。

『ワシは、オティア。……しがない科学者だよ』

「俺は、リチャード・ライアン。保安庁の一尉だ」

 ライアンはスーツ左胸部に着けられたエンブレムを示した。

「その科学者のアンタが、ここで何をしている? このコロニーをコントロールしているのも、アンタか?」

『いや……ワシはただここで研究をしているだけだよ。クク……』

「なるほどな」

 ライアンは苛立ちを抑え、一旦言葉を切る。いわゆるマッドサイエンティストというヤツだ。おそらくは、相当な変人だろう。まともに話が通じると思うのが間違いだ。

「アンタはティラチス商会の関係者なのか?」

『ふむ……。関係者といえば関係者、ではあるがな。連中に協力を求められてここにいる訳であるしな』

「なるほど。ところで……あの人型生物(クリーチャー)を造ったのはアンタだな?」

『うむ? アルヴェレとベルゴーレのことか?』

「アル……なんだ?」

『うむ。初期型がアルヴェレ。その改良型がベルゴーレだ』

「……」

 おそらく最初に接触したのがアルヴェレ、先刻戦ったのがベルゴーレなのだろう、とライアンは結論づけた。頭文字は、AとB。次はおそらくCがつくタイプなのだろうか?

「何故、あんなモノを造った?」

『ウム……それは、復讐だ! ワシを追放した連中へのな! そして、研究を禁止する条約なんぞを結んだ連中への! 無論、彼奴らはこのコロニーでの労働力としても有用ではあったがな』

「……そうか」

 湧き上がる怒り。それを、無理やり抑え込む。

 そして、話題を変えた。

「ところで……ミッレ・リーリャを造っていたのもあんたなのか?」

『ああ。連中の要求で作ったオマケ程度のモノだがな。ワシはこのコロニーに、効率的なプラントを作り上げた。無論、よく言われる非人道的なモノではないぞ』

「……ほう? それは、どんな?」

 ライアンは確信を深め、問うた。

『ウム……かつてない効率的なシステムだ! 見たければ、ついてくるがいい!』

「……」

 オティアの言。ライアンは黙って付き従うことにした。



 部屋の奥、一見何もない壁の一部が沈み込み、横にスライドした。

 そしてその奥に、通路が見える。

「……ほう。こんな仕掛けが」

『ウム。ここから先は、ティラチスの連中にも見せたことなどないぞ。あの連中は、ワシの偉大な研究にも耳を貸さず、ただクスリ――いや、それを売って得られる利益――しか興味がなかったからな。』

「……そうか」

(まぁ……ある意味その方が健全か)

 ライアンは内心肩をすくめる。

 そしてさりげなく、壁に発信機を取り付けておいた。

 クルツが後から来た時のためだ。

「ところで……アイツらをけしかけてきたのは、その研究を守るためかい?」

 ライアンは何事もなかった様に歩きつつ、オティアに問う。

『ふん? ……けしかける? どういう事だ?』

「いや、さっきあの連中が集団で襲ってきたんだが……」

『む? ティラチスの連中は、あいつらに農作業と警備をやらせている様だがな。作業の邪魔でもしたのか?』

「いや……港湾部まできたんだ」

『ほう? ……そういえば、何故保安庁なんぞががこのコロニーまで来たのだ?』

(……今更その質問かよ)

 研究のみに没頭し、外のことには全く関心を払っていなかったのだろうか? 何ともやりにくい相手である。

「ティラチス商会所属の船がこのコロニー港湾部で座礁し、救難信号を発したんだ。で、我々はその救助をすべくこのコロニーにやってきたのだ」

『ほほう……そういえば最近、あの連中の顔を見ていないと思っていたが……そんな事があったのか』

「で、コロニー内の調査をしていたら、アルなんたらから襲われたのだ」

『そうか。ケシ畑の作業をやらせていた様だからな。まぁ、仕方あるまい』

(……他人事か)

「その後、このコロニーが移動を開始したので、それをコントロールしているヤツと話をつけに来たんだが……」

『むぅ? ……コロニーが移動⁉︎ 一体どういう事だ?』

 ライアンの言に、オティアは愕然とした声を上げた。

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