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――スペースコロニー キシュキンダー港湾部
ライアンが壁に設置されたパネルを操作すると、ゆっくりと隔壁が開いていく。
『あっさりと開きましたねー。てっきり爆破しないとダメだと思ってましたけど』
クルツの声。
「そりゃ、復讐相手が懐に飛び込んでくるのを邪魔する理由はないだろうさ」
ライアンは肩をすくめ、再びバイクに乗り込む。
『そりゃ、そうですけど……』
「とはいえ、相手も自分の懐に俺たちを引き摺り込む訳だからな。それなりの覚悟で俺たちに対処してくるだろうさ」
『ですよねー』
クルツの苦笑を含んだ答え。
「でも、大丈夫さ。俺には勝利の女神がついてる」
『ちょっとー、何ワケの分からないこと言ってるんスかセンパイー』
「ハハ……では、行こうか」
『はい!』
そして二人は隔壁を超え、慎重に進みはじめた。
連絡通路を超え、もう一枚の隔壁を過ぎると、そこはコロニー居住区の中だ。
『待ち伏せされるかと思ってたけど、全くその気配はありませんね。どうしたんでしょう?』
「ふ〜む。だとすれば、下まで降りてからだろうな。行こう」
そして二人は居住区“地表”へと向かう開放型エレベーターに乗り込んだ。
これは、前回も使ったものである。
そしてしばしののち、二人は地面へと降り立った。
「クルツ、警戒は怠るなよ」
『はい! 先輩こそ!』
「ここでは一尉か隊長と呼べよ」
『はーい、先輩!』
「分かってないじゃねェか」
軽口を叩きながらも、二人は慎重に進んでいく。
そして、前回調査隊一行が襲われた地点へと到達した。
『……隊長』
「ああ」
ファーレスから転送されたデータが、ヘルメットのバイザー内に映し出される。
それは、複数の“何か”が接近してくるのを示していた。
「……来る!」
『はい!』
すぐさま二人は臨戦態勢をとる。
ライアンは腰の銃を抜く。そしてファーレスは、頭部センサーヘッド側面に装備されたレーザーガンが前に倒れ、射撃体勢となった。次いで、左側マニュピレータに装備されていた装甲板が展開し、盾となる。
そして、幾つかの黒い影が茂みから飛び出した。それらは、明確な殺意を持って二人に襲いかかる。
「……チッ!」
すかさずライアンは銃を三連射。
同時にファーレスのレーザーガンも火線を伸ばした。
それらを浴びた先頭の一体が倒れ臥す。
が、後続はそれに構うことなく二人へと襲いかかった。
「! コイツ……違うぞ!」
襲いかかる“何か”。
それは、以前戦ったモノと同様、人型をしていた。
しかし、それらとは違い、あたかもサイの如き硬い体表と、頭部から突き出た複数の骨瘤を持っていた。
そして動きはより素早い。
「クソッ」
ライアンは銃を収めると格闘専用ブレードを抜き、バイクを駆りつつ斬りつけた。
が、恐ろしく硬い体表に阻まれ、有効な斬撃を与えられない。
ふと見れば、先刻倒れ伏した一体も、よろめきつつ立ち上がっていた。
間違いなく、パワーも耐久性もこの連中の方が上だ。
「……仕方ない」
ライアンはパワードスーツの左肩に仕込まれたスイッチを押す。
と、チクリとした感覚が左上腕にあった。そして、熱い“何か”が流れ込むような感覚。
“強化剤”が注入されたのだ。
左上腕部には強化剤注入器が設置されており、そこに仕込まれていた“強化剤”を血中に注入するようになっているのだ。
と、その直後。
身体の奥からとてつもない“力”が湧いてくる気がした。
“強化剤”……それは、細胞を活性化する作用を持つ薬剤。
しかしそれは、肉体への負担がとてつもなく大きな諸刃の剣。常人であれば、ナノマシン強化程度ではこの薬剤の使用には耐えられない。
そう。常人であれば……。
「ぐおっ……おぉ!」
同時に襲う、全身の灼熱感。そして、痛み。
それに耐えつつバイクを駆り、恐ろしい速さでブレードを振るう。
「ゴアッ⁉︎」
横一文字の斬撃が、人型生物の腹を深々と斬り裂いた。
『……リック』
クルツの声。
「……お前はまだ使うなよ。本当に危ない時だけだ」
『……はい』
その間にも、ライアンは次々と敵を倒していく。
ライアンが四体。そしてクルツのファーレスが二体を倒していた。
そして……最後の一体がライアンに斬り捨てられる。
「ガ……アァ、ソノ……チカラ、ワレラトオナジ……」
事切れる直前の、呻き。
『だから、貴様らと一緒にするなと!』
「……ビギー」
またしても激昂するクルツに、ライアンが声をかける。
「同じなんだ。そう。俺たちと、コイツらは……」
『……』
二人は、地に転がる人型生物の死体をじっと見つめた。
「……行くか」
ややあって、ライアンが口を開いた。
『……はい』
そして、また二人は進み始めた。
――さらに、二十分ほどのち
二人の前方に、一つの建造物が見えた。
それは、樹木でカモフラージュされた、いかにも頑丈な造りのものだ。
それも、不自然なほどに。
地震のないコロニー居住区には、そこまで強靭な構造は必要ない。あるとすれば、何らかの軍事関連か、それとも研究棟か。
『! 熱源反応! それも……複数⁉︎』
クルツの警告。
「ああ。……来るぞ!」
軋む音と共に、立ち上がる巨大な影。
それは、全高10m弱程の、迷彩塗装を施された人型兵器ライドトルーパー。それが四機、彼らに向かってくる。
『あれは……ガラバ⁉︎ 二百年前の骨董品ですよ』
「そうだな。しかし、ロートルとはいえ元は軍用。それに、何らかの改造を施してあるかもしれん。油断するなよ!」
『はい!』
クルツはすかさずファーレスに、背部コンテナからハンドガンを取り出させ、構える。
そして、ライアンは、戦闘バイクのモード変更スイッチを操作する。
と、前後のホイールが双方ともに正中線で分離し、アームごと左右に分かれる。そして、本体パーツもまた変形し、より大型のパワードスーツとなってライアンが現在着けているスーツのさらに外側に装着されていく。
大型機動兵器との戦闘に対処するための、パワーローダーモードである。
「行くぞ!」
ライアンは溝からを鼓舞するように叫ぶと、地を蹴りジャンプ。更にスラスタを吹かすと一気にガラバの頭上へと飛び上がった。
そして、
「喰らえ!」
グレネードを二発発射。
命中。
それは丁度頭部の付け根、喉元に当たる位置で爆発した。
頭部が吹き飛び、胸部装甲も大きく破損する。
「よし……もう一丁!」
棒立ちになったガラバの胸部に、もう一発グレネードを発射。
そして、吹き飛ぶ胸部装甲。
(有人機か? それとも自律型機なのか……
それにより、コクピットが露わになる……はずであった。が、
「何だ? あれは……」
コクピットがあるであろう場所に鎮座してたのは、くすんだピンク色の“何か”が入った水槽。
水槽は破損しており、水とともに“何か”がこぼれ落ちていた。
「……そうか! 悪く思わんでくれよ」
着地すると、ライアンは再びグレネード射出。
水槽ごと“何か”が木っ端微塵になると同時に、そのガラバは完全に機能を停止し、そのまま崩れ落ちた。
『リック!』
クルツの通信。
『ここはボクが引き受けます! リックは中へ!』
見ると、クルツのファーレスが一体のガラバを片付けたところだった。
どうやらこの場はクルツに任せても大丈夫だろう。
「分かった。任せた!」
ライアンは両脚に装備されたホイールを駆動し、一気にガラバたちの足元を駆け抜けた。
そのうち一体が彼の後を追おうとするが、それはクルツのファーレスが阻止する。
『任されましたー! お気をつけて!』
クルツの声を背に、ライアンは建造物の中に突入した。
*人物・用語など
ブリード
ケルト神話の女神。ブリギット・ブリギッドとも。




