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箱庭奇譚  作者: 神井千曲
17/22

17

――スペースコロニー キシュキンダー港湾部

 ライアンが壁に設置されたパネルを操作すると、ゆっくりと隔壁が開いていく。

『あっさりと開きましたねー。てっきり爆破しないとダメだと思ってましたけど』

 クルツの声。

「そりゃ、復讐相手が懐に飛び込んでくるのを邪魔する理由はないだろうさ」

 ライアンは肩をすくめ、再びバイクに乗り込む。

『そりゃ、そうですけど……』

「とはいえ、相手も自分の懐に俺たちを引き()り込む訳だからな。それなりの覚悟で俺たちに対処してくるだろうさ」

『ですよねー』

 クルツの苦笑を含んだ答え。

「でも、大丈夫さ。俺には勝利の女神(ブリード)がついてる」

『ちょっとー、何ワケの分からないこと言ってるんスかセンパイー』

「ハハ……では、行こうか」

『はい!』

 そして二人は隔壁を超え、慎重に進みはじめた。



 連絡通路を超え、もう一枚の隔壁を過ぎると、そこはコロニー居住区の中だ。

『待ち伏せされるかと思ってたけど、全くその気配はありませんね。どうしたんでしょう?』

「ふ〜む。だとすれば、下まで降りてからだろうな。行こう」

 そして二人は居住区“地表”へと向かう開放型エレベーターに乗り込んだ。

 これは、前回も使ったものである。

 そしてしばしののち、二人は地面へと降り立った。

「クルツ、警戒は怠るなよ」

『はい! 先輩こそ!』

「ここでは一尉か隊長と呼べよ」

『はーい、先輩!』

「分かってないじゃねェか」

 軽口を叩きながらも、二人は慎重に進んでいく。



 そして、前回調査隊一行が襲われた地点へと到達した。

『……隊長』

「ああ」

 ファーレスから転送されたデータが、ヘルメットのバイザー内に映し出される。

 それは、複数の“何か”が接近してくるのを示していた。

「……来る!」

『はい!』

 すぐさま二人は臨戦態勢をとる。

 ライアンは腰の銃を抜く。そしてファーレスは、頭部センサーヘッド側面に装備されたレーザーガンが前に倒れ、射撃体勢となった。次いで、左側マニュピレータに装備されていた装甲板が展開し、(シールド)となる。

 そして、幾つかの黒い影が茂みから飛び出した。それらは、明確な殺意を持って二人に襲いかかる。

「……チッ!」

 すかさずライアンは銃を三連射。

 同時にファーレスのレーザーガンも火線を伸ばした。

 それらを浴びた先頭の一体が倒れ臥す。

 が、後続はそれに構うことなく二人へと襲いかかった。

「! コイツ……違うぞ!」

 襲いかかる“何か”。

 それは、以前戦ったモノと同様、人型をしていた。

 しかし、それらとは違い、あたかもサイの如き硬い体表と、頭部から突き出た複数の骨瘤を持っていた。

 そして動きはより素早い。

「クソッ」

 ライアンは銃を収めると格闘専用ブレードを抜き、バイクを駆りつつ斬りつけた。

 が、恐ろしく硬い体表に阻まれ、有効な斬撃を与えられない。

 ふと見れば、先刻倒れ伏した一体も、よろめきつつ立ち上がっていた。

 間違いなく、パワーも耐久性もこの連中の方が上だ。

「……仕方ない」

 ライアンはパワードスーツの左肩に仕込まれたスイッチを押す。

 と、チクリとした感覚が左上腕にあった。そして、熱い“何か”が流れ込むような感覚。

 “強化剤”が注入されたのだ。

 左上腕部には強化剤注入器が設置されており、そこに仕込まれていた“強化剤”を血中に注入するようになっているのだ。

 と、その直後。

 身体の奥からとてつもない“力”が湧いてくる気がした。

 “強化剤”……それは、細胞を活性化する作用を持つ薬剤。

 しかしそれは、肉体への負担がとてつもなく大きな諸刃の剣。常人であれば、ナノマシン強化程度ではこの薬剤の使用には耐えられない。

 そう。常人であれば……。

「ぐおっ……おぉ!」

 同時に襲う、全身の灼熱感。そして、痛み。

 それに耐えつつバイクを駆り、恐ろしい速さでブレードを振るう。

「ゴアッ⁉︎」

 横一文字の斬撃が、人型生物の腹を深々と斬り裂いた。

『……リック』

 クルツの声。

「……お前はまだ使うなよ。本当に危ない時だけだ」

『……はい』

 その間にも、ライアンは次々と敵を倒していく。

 ライアンが四体。そしてクルツのファーレスが二体を倒していた。

 そして……最後の一体がライアンに斬り捨てられる。

「ガ……アァ、ソノ……チカラ、ワレラトオナジ……」

 事切れる直前の、呻き。

『だから、貴様らと一緒にするなと!』

「……ビギー」

 またしても激昂するクルツに、ライアンが声をかける。

「同じなんだ。そう。俺たちと、コイツらは……」

『……』

 二人は、地に転がる人型生物の死体をじっと見つめた。

「……行くか」

 ややあって、ライアンが口を開いた。

『……はい』

 そして、また二人は進み始めた。



――さらに、二十分ほどのち

 二人の前方に、一つの建造物が見えた。

 それは、樹木でカモフラージュされた、いかにも頑丈な造りのものだ。

 それも、不自然なほどに。

 地震のないコロニー居住区には、そこまで強靭な構造は必要ない。あるとすれば、何らかの軍事関連か、それとも研究棟か。

『! 熱源反応! それも……複数⁉︎』

 クルツの警告。

「ああ。……来るぞ!」

 軋む音と共に、立ち上がる巨大な影。

 それは、全高10m弱程の、迷彩塗装を施された人型兵器ライドトルーパー。それが四機、彼らに向かってくる。

『あれは……ガラバ⁉︎ 二百年前の骨董品ですよ』

「そうだな。しかし、ロートルとはいえ元は軍用。それに、何らかの改造を施してあるかもしれん。油断するなよ!」

『はい!』

 クルツはすかさずファーレスに、背部コンテナからハンドガンを取り出させ、構える。

 そして、ライアンは、戦闘バイクのモード変更スイッチを操作する。

 と、前後のホイールが双方ともに正中線で分離し、アームごと左右に分かれる。そして、本体パーツもまた変形し、より大型のパワードスーツとなってライアンが現在着けているスーツのさらに外側に装着されていく。

 大型機動兵器との戦闘に対処するための、パワーローダーモードである。

「行くぞ!」

 ライアンは溝からを鼓舞するように叫ぶと、地を蹴りジャンプ。更にスラスタを吹かすと一気にガラバの頭上へと飛び上がった。

 そして、

「喰らえ!」

 グレネードを二発発射。

 命中。

 それは丁度頭部の付け根、喉元に当たる位置で爆発した。

 頭部が吹き飛び、胸部装甲も大きく破損する。

「よし……もう一丁!」

 棒立ちになったガラバの胸部に、もう一発グレネードを発射。

 そして、吹き飛ぶ胸部装甲。

(有人機か? それとも自律型機(ロボット)なのか……

 それにより、コクピットが露わになる……はずであった。が、

「何だ? あれは……」

 コクピットがあるであろう場所に鎮座してたのは、くすんだピンク色の“何か”が入った水槽。

 水槽は破損しており、水とともに“何か”がこぼれ落ちていた。

「……そうか! 悪く思わんでくれよ」

 着地すると、ライアンは再びグレネード射出。

 水槽ごと“何か”が木っ端微塵になると同時に、そのガラバは完全に機能を停止し、そのまま崩れ落ちた。

『リック!』

 クルツの通信。

『ここはボクが引き受けます! リックは中へ!』

 見ると、クルツのファーレスが一体のガラバを片付けたところだった。

 どうやらこの場はクルツに任せても大丈夫だろう。

「分かった。任せた!」

 ライアンは両脚に装備されたホイールを駆動し、一気にガラバたちの足元を駆け抜けた。

 そのうち一体が彼の後を追おうとするが、それはクルツのファーレスが阻止する。

『任されましたー! お気をつけて!』

 クルツの声を背に、ライアンは建造物の中に突入した。

*人物・用語など

ブリード

 ケルト神話の女神。ブリギット・ブリギッドとも。

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