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俺の妹はあいつだけ  作者: アロマセラP
1/1

兄と妹

燃え盛る炎を俺はただ呆然と見続けるしかなかった。俺にはどうすることもできなかった。その炎の中で助けを求めている父にも妹にも、何もしてあげられなかった。

何故、俺だけ助かってしまったんだろう。

                 

「ねえ、お兄ちゃん!」

「お兄ちゃんってば!」

「お兄ちゃん!」

俺の隣で誰かがそんなことを叫んでいる。

「ねえってば!」

俺は歩を速めた。

「ちょっと待ってよ、ねえ、お兄ちゃん!」

無視。

なぜあいつは俺に向かって兄とよぶのだろう。だって、俺の妹はもうこの世には。


                   

「んも~」

兄は今日も私の話を聞いてくれない。

と言うか、私は兄とまともに話したことがない。と言うのも兄と私は血がつながっていない。3ヶ月前に知り合ったばかりである。

「はぁ。」

いつになったら兄は私の話を聞いてくれるのだろう。

                   


校門の前で先生たちが「朝の挨拶運動」とかいうのをやっているらしい。ここ聖トライト学園は小、中、高がエレベーター方式になっている私立校だ。俺は初等部からここに通っている。

妹、夢美もこの学園に一緒に通っていた。

校門の前まで来ると先生が笑顔で「おはようございます」と言ってきたので俺も同じようにかえした。


「お、来たな、シスコン兄貴」

クラスに入るなりそんなことを言われた。

「全く相変わらずだな。今日も見たぞ。朝のやり取り」

こいつは山代貴司、中等部からの腐れ縁で、中1から今の高1まで悲しいことにずっと同じクラスである。

「でもあれはやりすぎじゃああねぇか?いくらなんでも」

最近はずっとこの調子である。

「誰がシスコンだ。俺に妹は…」

今は、もう。

俺はうつむいてしまう

「あ、わりー、余計なこと思い出させちまって。でもよ、お前の母親が再婚してからもう2ヶ月経つぜ。いい加減そろそろ」

だん!

俺は机をこぶしでたたいた。

クラスのみんなが驚いて俺のほうを見る。たぶん今の俺はすごい表情をしているだろう。

「秋良」

貴司が複雑な表情でこちらを見ている。わかってる、わかってるさ。それでも俺は…



「はぁ~」

「また駄目だったみたいね」

私が声の方へ顔を向けると私より少し背の高い女の子が立っていた。彼女、浅田涼子は近くの席から椅子を引っ張ってきて私の隣に座った。

「見てた?」

涼子にそう尋ねると「うん」と笑顔で返してきたので、私は顔を赤くした。

「まあ、見ていなくてもさっきの大きなため息でわかるけどね」

私はぎくりとした。そんなに大きかっただろうか。

「それにしても」リーンゴーン

涼子が話し始めるのとほぼ同時に予冷が鳴った。

「あっと、そろそろ席に戻らないと。またあとで」

「うんまたあとで」

そんな会話をしているうちにクラスの生徒がどんどん自分の席につく。この時間になって慌てて駆け込んでくる奴もいる。

そんな人たちを眺めながら私はまたため息をついた。




「ただいま~、あっ」

私が玄関のドアを開けると目の前に兄がいた。

「あ、お兄ちゃ…」

私が呼び終わる前に兄は家を出ていってしまった。

私はその後姿を見ながら、いつになったら普通に話せるようになんだろうと考えていた。




ガチャ

翌朝、兄はいつもより早く部屋から出てきた。そして私がおはようと言えないうちに家を出て行った。

「お兄ちゃん何でこんなに早く?朝ごはんも食べないで」

「えっと、今日は4月の23日…、あ、そうゆうこと」

「母さん、今日は何か、あぁ」

父と母は納得したようだが私にはさっぱりわからない。

「お父さん、お母さん今日何の日?」

「気になるなら秋良の後について行ってみたら?」

母がそう提案したので朝食を早々に片づけて家を出た。


走って追いかけるとすぐに追いついた。私は兄の少し後ろからついて行った。兄は途中で花や果物を買っていた。

(誰かのお見舞い?)

私はそう思ったが兄が行き着いた場所はお寺だった。

兄はお寺の墓地のほうへ行きお墓にさっき買ってきたものをお供えして手を合わせた。

そこでやっと思い出した。

(そうか、今日はお兄ちゃんの本当のお父さんと妹さんの月命日だ)

お墓の前で手を合わせている兄を見つめていたら、目に光るものを見つけた。

(涙?)

兄はそのまま静かに涙を流し続けた。その横顔が、姿が、いつもの兄と打って変わってとても弱弱しく見えたのは気のせいだろうか。




「お兄ちゃん助けて、お兄ちゃん!」

「夢美!」

俺は燃え盛る車に向かって叫んでいた。

「助けて、お兄ちゃん!」

「夢美、夢美!」

助けなきゃ、夢美を、父さんを。しかし、俺の体はまるで金縛りにでもあっているかのように全く動かなかった。

(助けなきゃ!)

俺は無理矢理体を動かそうとした。

「お兄ちゃん、熱いよ、助けて、お兄ちゃ…」

ドォーン。

いきなり車が爆発した。爆風が、熱が、破片が俺に向かってくる。そして…


「うわっ」ガバッ

俺は飛び起きて辺りを見回した。自分の部屋だ。

「ゆ、夢か」

あの事故以来よくこの夢を見る。特にこの二ヶ月はほぼ毎日だ。俺はあの爆風に煽られてガードレールに頭をぶつけて気を失ったらしい。

らしいというのは気が付いたらベッドの上だったので正確なことはよくわからない。

「っ、くそっ」

あの夢を見るたびに押し寄せてくる後悔。なぜ、自分だけ助かったのか、なぜ、助けに行かなかったのか。

「くそ、くそっ!」

何度も壁を叩きながら俺はその痛みに耐えていた。


「今週末はゴールデンウイークだが5月末には定期試験があるんだ。遊びすぎるなよ。以上」

「気を付け、礼」

クラスのみんなが教室を出始める。

「テストか、だりーな」

「だるいが、赤点でも取ったらそのほうがめんどくさい」

「なあ、赤点って何点だっけ?」

「30以下だ、覚えておけよ」

俺を含めた帰宅部組数人でテストのことを話していた。

「中学の時は赤点なんてなかったのになー」

「それは言うな」

中学のほうが良かったかといわれればそうかもしれないが…

「今日どっか行くか?」

「ゲーセンでもよる?」

中学生の頃は寄り道を禁止されていた。これは高校生になったからできる。

「わりー今日これからバイト」

「バイトとかうらやましいわ」

「それはバイトやってないから言えるんだよ」

「なに?そんなに大変なのか?」

「大変なこともある。金もらえるからいいけど」

「そこが一番うらやましい」

そんなことを話しながら、移動し始めた。




それから数日、同じような日々が続いた。

「はぁ」

「結羽理、ため息してるよ。ため息ばっかりしてると幸せ逃げちゃうよ?」

「そんなこと言われても…」

「あんたもしかしてブラコン?」

「いや、実の兄妹じゃないし」

「血がとか関係なく今は兄妹でしょ」

「私たち、兄妹、なのかな?」

「どういうことよ?」

「こらそこの二人。おしゃべりが多い!ロングトーン10拍2拍5本追加!」

「ええ!」

今部活中なの忘れてた。




「部活終わったー、吹奏楽部って本当に文化部なの?運動部みたいに感じるんだけど」

「入ったときは筋トレしたり走ったりするとは思わなかったもんね」

今日の練習は筋トレからの階段ダッシュ、そこから楽器練習に入った。これで文化部なら運動部はどんなきつい練習をしているんだろう。

「ほんとよ。ところでさっきのやつどういう意味?」

「さっきのって?」

「兄妹じゃないってやつ」

「ああ」

そういえばそんなこと言ったっけ。

「だってあんたらの親同士が結婚したんだから義理とはいえ兄妹でしょ?」

「そういう事実関係がどうとかじゃなくてね、私とお兄ちゃん、ううん、私たちとお兄ちゃんはちゃんと家族なのかなって思って」

「余計にわからなくなってきた」

「なんていうのかな、普通の家族っぽくないっていうかなんて言うか」

「あんたらそもそも普通じゃないよね、家族になった経緯が」

「ま、まあそうなんだけど」

「だったらいいんじゃない?普通じゃなくても。いずれお兄さんとも話せるようになるよ」

「そうかな」

そんな話をしつつ帰路についた。


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