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千年の罪

作者: 砂虎

あるところに野蛮さと邪悪さでは並ぶ者なしと怖れられた王様がいた。

彼は悪魔と契約し100万人の国民を生贄に捧げて1000年のあいだ不老不死となりその力を利用して暴虐の限りを尽くし国民を苦しめた。


ある時勇敢な若者が直訴する。


「王様このままなら貴方は間違いなく地獄に落とされます。

 今からでも遅くありません。罪を悔い改め正しい道にお戻り下さい」


「遅くないだと?下らん嘘を言うヤツだ。

 俺はもう900年以上も生きて貴様の言う罪とやらを重ねてきた。今さら少しばかり善行を施して何になる。

 地獄に堕ちることなど覚悟の上よ。俺の生き甲斐はな、若造。

 死ぬまでに貴様のような連中を一人でも多く苦しめ殺して道連れにすることなのさ」


王様は若者の舌を引き抜き死体をバラバラに刻んで城の上から投げ捨てた。


それから30年。悪魔との契約が終わり邪悪な王はようやく地上から姿を消した。

すぐに反乱が起こり王の一族は悉く滅ぼされた。

新たな王にはあの勇敢な若者の子供がその座についたと伝えられている。


王様は当然のことながら地獄に送られることになった。

しかしその罪のあまりの重さには神すらも同情をする程だった。


「邪悪な王よ。そなたの悪行は許し難いがお前とて我が息子には違いない。

 反省し来世では善行に励むと約束するならば減刑を考えてやらんでもない」


神の御前でも王は傲岸不遜な態度を崩さない。

不敵な笑みを浮かべると逆に取引を申し出た。


「神よ、それは余計なお世話というものだ。

 俺は自分の行ったことに全く一欠片も後悔などしていない。

 罰を受けろというのなら喜んで受けてやろう。その代わりに約束しろ。

 神すら同情するその過酷な刑罰を終わらせた暁には再び俺を千年の王として地上に蘇らせると」


神は悲しげな表情を浮かべると瞳を閉じ僅かに顔を横に振った。


「それがお前の望みなら私はそれを叶えよう」




刑罰は王の予想を超えて過酷だった。


朝はあらゆる生物の餌として身体を食い千切られ

昼は氷河の海に突き落とされ海底の砂を一粒ずつ拾い集める。

夜になればプルートの代わりに一人で冥王星を動かさなければならない。

食事も睡眠を取る時間すら存在しない地獄。

だが邪悪な王は目をギラギラと光らせてその繰り返しに耐えていた。


「これが神罰か。俺より余程残酷ではないか。

 生前の俺はまだまだ甘かったのだな。

 身体を食い千切られるたびに新しい拷問のアイディアが次から次へと沸いてくる。

 一日でも早く刑罰を終わらせて蘇りたいものだ。

 俺が死んで喜んでいる連中がどんな顔をするのか見物だわい」



途方もない時間が流れた。

絶望的な年月の重みは千年生きた老人を何度となく発狂寸前まで追い込んだが

王はそのたびに慈悲深そうな顔をしておきながら自分を苦しめる神の顔を思い出しギリギリのところで自我を保っていた。

そして遂には不可能と思われていた氷河の海底に沈む砂粒を全て拾い集めることに成功したのだ。


神め、この屈辱は千年では到底足りんぞ。

復活したら何億人を生贄に捧げてもいい。もう一度悪魔と取引をして神をも殺す力を手に入れてやろう。

長い長い罰から開放された王は大の字に寝転がり荒い息を吐き出しながら遙か頭上の天界を睨み据える。

するとどうしたことだろう。暗雲立ちこめる空に輝く天使の集団が舞い降りてくるではないか。


「おぉ見事なり千年の王よ。

 我々天使はどうやら人間の覚悟というヤツを見誤っていたようだ。

 これほどの苦行に耐えられるものは天使の中でも5人とおるまいて」


「要件があるなら早くしてもらおうか天使殿。ワシは少々疲れておるのだ」


「少々!!少々ときたか!!流石は我らが英雄殿。

 なに用件といっても大したものではない。これを受け取ってもらおうと思ってな」


天使が指を鳴らすと荒廃した大地は一瞬にして桃源郷へと代わり

王の前には黄金のベットと地平線の果てまで続く見事な食事の数々が広がっていた。


「貴殿の不屈の精神力に感動した我らからの差し入れだ。遠慮なく味わってくれ」


その言葉より早く王は千年ぶりの食事にむしゃぶりついていた。

何という美味。空腹のせいだけではないだろう。

これに比べたら地上の宮廷料理など豚の餌も同然だ。


「おぉ気に入って頂けたようで何よりだ。それでは今後の活躍に期待しているぞ」


そう言って天使達は空へと帰って行く。

王はしばらくの間そんな意味深な言葉の意味にも気が付かずに黙々と食事を貪っていたがやがて満腹になると頭を働かせ始めた。


「今後の活躍だと?一体どういうことだ」


「そりゃあ言葉の意味のまんまだろうよ」


王の独り言に反応したのは地獄の監督官として働く堕天使。

普段はロクに口も聞かないくせに今日はどういう訳だがやけに馴れ馴れしい。


「おっとこの口調かい。俺はオフだといつもこんなもんさ。

 という訳でひとまずのお務めご苦労さん。

 アンタが10歳までに犯した罪の清算はこれにて完了だ。

 明日からの20歳までの罪の担当は俺じゃないが今後とも頑張りな」




そこから先の話は残念ながら地上に伝わっていない。

確かなことはただ一つ。

これまでのところ千年の王が復活したという話は誰も聞いたことがないということだ。




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