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EvilZoad「触れ得ざる者」

作者: 鏡 京太郎

 






この小説を、


今も現役で活躍されている、永井 豪さん、

尊敬する 高橋 良輔さん、

そして、惜しくも2006年に亡くなられた、石川 賢さんに捧ぐ。














EvilZoad「触れ得ざる者」



















 ■プロローグ

 A long time ago in a planet far far away from The Milky Way Galaxy...

 

 地球から離れること約60万光年、我々の太陽系を含む天の川銀河を取り巻く衛星銀河のひとつに「Fornax」銀河がある。

 地球がまだジュラ紀の時代だった頃、この「Fornax」銀河のとある太陽系には地球と酷似する「ゴルディロックス惑星」(質量やサイズが地球と同等)が存在した。

 この惑星は主恒星から第四番目の位置にあり、水が液体として存在し、海があり、大陸があり、そして、大気中には適度な濃度の酸素を含み、地球と同じく、多種多様な生命が命の営みをなしていた。


 そして、その中には知的生命体、そう、人類が存在していた。

 彼らは自らの星を「Zoad」と呼び、この惑星の主、支配者として、栄華を誇っていた。

 彼らは優れた文明を持ちながら、知性にも秀でており、彼らの国家は世界で一つ。

 そう、彼らは世界統一国家を樹立し、約260年間、平和を維持し続けているのだ。


 それ以前は地球と同じく、惑星「Zoad」にはいくつもの国家があり、互いに覇権を競っていたのだが、相互間の憎悪と懐疑、信念の違いという、人間として最も困難な問題を克服することに成功し、「Zoad」人として統一された意識を持つに至っていた。


 それに、彼ら「Zoad」人は地球よりも進んだ科学力を持っている。

 その一端はまず、亜光速航行が可能な宇宙船をすでに実用化しており、宇宙開拓時代の幕開けを迎えようとしていた。

 さらに、彼らは「亜空間通信網」なるものも実用化していたのだ。

 

 ※「亜空間通信網」

 亜空間を利用する通信方法。理論的には100万光年離れた相手とも同時通信が可能。

 原理は、空間を共鳴させることで空間を歪ませ、亜空間への入口を開く。

 開いた入口を起点として亜空間上に到達点の座標を定めた後、続けて到達点側の空間を歪ませ、出口を開く。

 亜空間を介することで、銀河間同士の距離さえ克服することができる。

 こうして作られた出入口から電波を通わせて、同時通信を可能とするのだ。

 

 研究者たちはこの技術を応用し、将来的には物質転送を行うことまで視野に入れている。

 巨大な質量が通れる亜空間への出入口さえあれば、そこから宇宙船を通し、亜空間航行させれば、銀河間を一瞬で移動することができる。

 

 しかし、彼らはまだ、コインの大きさ程度の空間しか歪ませることができなかった。

 電波を通わせるだけなら、その大きさで充分である。

 その実現を見据え、研究者たちが日々研究開発を重ねていた、その頃...

 

 惑星「Zoad」のとあるエリア居住区、そこには「Zoad」の人々の日常生活があった。

 もちろん、彼らが地球人より進んだ暮らしをしていることは間違いないのだが、話しは居住区郊外にある動物園から始まる。

 

 ※彼らの居住する都市は革新的機能を持ってはいるが、いざ娯楽となると同じ人類(人間)、動物園くらいあるのだ。

 

 休日と相まって、動物園には家族連れなど、たくさんの訪問客が訪れていた。

 この動物園には人気の動物がいる、シロクマだ(惑星「Zoad」にもシロクマはいる)。

 訪問客は、シロクマを窓ガラス越しに間近で見ることができる。

 これが人気を呼び、シロクマの展示は動物園の売りのひとつになっていた。


 案の定、今日もたくさんの人々がシロクマを見るために集まってきていた。

 のんびりと寝転がっているシロクマが立ち上がり、窓ガラスの前にある池へ飛び込む。

 水しぶきが上がり、ガラス越しにシロクマを近くに見ることのできた人たちが喜ぶ。


 ところが…

 

 ・訪問客母親

 わぁ、シロクマさん、かわいいねぇ。(Smart Glassesに着信がある)(*)

 はぃ、あら、お久しぶり。お変わりない?

 (*)Smart Glasses →コンタクトレンズ型ウェアラブルデバイス。

  電話での会話ができるとともに、レンズに動画などの映像を映すことが可能。

 ・訪問客子供

 お母さん、あれ、見て、あれ…

 ・訪問客母親

 そうなの、たいへんそうね。でも、あなたなら大丈夫よ。

 ・訪問客子供

 お母さん、あれ、ほら、あれ…

 ・訪問客母親

 今、電話中、もう少し待ちなさい。(なぜか、周りがざわつき始めている…)

 あれ、いったいどうなってるの、ゴメン、後でかけ直すから。

 ・訪問客子供

 お母さん、だから、あれ…

 

 Smart Glassesの通話を切った母親は、ここでやっと、シロクマを見ていた訪問客たちが騒然となっているのに気付く。

 なぜなら、ガラス越しに見ているシロクマが突然、おそろしい姿に変貌し、まるで悪魔のような化け物になろうとしていたからだ。

 しかも、この異形の者は体が巨大化し、巨大化のスピードに耐えられず、窓ガラスにはひびが入り、今まさに割れようとしていたのだ。

 

 ・訪問客のひとり

  うわあー! 逃げろー! 何が起こっているんだー!!

 

 しかし、もう遅かった。

 巨大化した怪物は窓ガラスごと展示場を破壊、池の水が観客のいる場所へ流れ出す。

 壊れた展示場の破片の下敷きになる者、流れ出した大量の水に押し流される者、展示場の天井は消し飛び、青い空と無残に破壊されたその姿が差し込む陽の光に照らされる。

 

 その中には、先ほどの親子がいた。

 壊れた窓ガラスの前にいた親子は不思議に難を逃れ、濡れる程度で済んでいたが、何が起こっているのか理解できず、その場に抱き合って座り込んでいた。

 

 すると、怪物が近寄り、この親子を上から眺める。

 その瞬間、親子の足だけが残り、無残な姿に変わり果てた。

 そう、怪物は、この親子を、喰ったのだ…

 

 この様子を見ていた他の訪問客はパニックに陥る。

 逃げ惑う人々。

 しかし、怪物の動きはシロクマが変貌したとは思えないほど素早く(実はシロクマは動きが早い)、逃げ回る人々を老若男女に関係なく次々と食い殺す。

 動物園は人々の無残な死骸で埋め尽くされていく。

 

 動物園から通報を受けたエリア警察は機動隊を出動させ、現場へ向かわせる。

 この時点で怪物は10メートルほどに巨大化しており、現場に到着した機動隊員は一斉にコスモガンを怪物へ向けて発射するも効き目がなく、怪物の暴虐を食い止められない。

 為す術なく戸惑う機動隊員たち、怪物は容赦なく、この機動隊員たちをも食い殺す。

 

 こうして怪物は手当たり次第に人間を食い散らしながら、居住区に迫ろうとしていた。

 

 この事態を重く見たエリア行政主席官(知事)は非常事態宣言を発令。

 世界政府に対して、エリア軍(*)の出動を要請、世界国家元首はこれを許可する。

 

 (*)エリア軍について

 惑星「Zoad」はかつての国家乱立時代、特定の超大国のみが核兵器を所有しており、地球と同じくそれが国家間の抑止力として働いていたが、賢明な彼らはその後、世界統一国家を樹立し、統一の証しとして、負の遺産である核兵器を廃絶した。

 ただし、旧エリア国家が保有する一般兵器による軍事力は廃止せず、保有を許した。

 その理由は、旧エリア国家が各々軍事力を保有し続けたとしても、もはや紛争を起こすことはないが、約束事を破り、世界統一国家に反逆の狼煙を上げる旧国家が現れた場合の対抗手段として残された。要は「自衛軍」である。

 それが、「エリア軍」だった(が、約260年間、紛争はなかった)。

 

 約260年ぶりに発動された、エリア軍の出動命令。

 軍事訓練は平和が維持されている間も継続して行われ、有事の際の備えは万全を期しているとは言え、今の惑星「Zoad」には実戦経験のある兵士は一人としていない。

 しかも、攻撃対象、敵は「人間」、または人間が操る兵器ではない、前代未聞の「怪物」だ。

 惑星「Zoad」の歴史でも、今始まろうとしているのは「史上初」のことなのだ。

 

 しかし、前線に配置された兵士たちの間には、「相手はたかがシロクマが変身した化け物。ロケット弾を2、3発撃てばあっという間に撃退できる。」との安心感があった。

 無理もない、約260年間有事がなく、しかも、相手は化け物とはいえ生身の「生物」であり、兵器で武装している自分たちには適わない、簡単に事が済む、と思う方が普通だ。

 

 エリア軍は、350年以上前に建設され、現在は激甚災害が発生した場合の避難所として使用されている核シェルターへ順番に、居住区の住民を避難誘導していく。

 住民の避難が開始したことを受けて、援護のため、エリア軍は怪物への攻撃を開始する。

 

 まず、ロケットランチャーを怪物に向かって発射。

 弾道の軌道はまっすぐ怪物に向かい、命中しようとしたその瞬間…

 

 ロケット弾は突然右へ進行方向を変え、居住区のビルを破壊した。

 状況が呑み込めない、エリア軍指揮官。

 ロケットランチャー2発目の発射を命じる。

 同じく、怪物に向かって弾道が軌道を描く、そして、命中!

 ロケット弾が爆発し、噴煙があがる。

 しかし、噴煙越しに見える怪物は全くダメージを受けていない。

 

 指揮官は、配備した全ての火器を怪物に向かって放つよう命じる。

 ロケットランチャー、実弾機関砲、ショックカノンによる怪物への総攻撃。

 

 ところが…

 

 総攻撃を命じた瞬間、指揮官は、怪物の体に全身を覆うシールドが張り巡らされていることに気づく。怪物はこのシールドに守られて、全くダメージを受けなかった。

 それどころか、総攻撃で放ったロケット弾、ショックカノンビームの一部がエリア軍側に反転して戻り、エリア軍自身に襲い掛かった。

 

 エリア軍はこの攻撃により、逆に壊滅的な打撃を受けた。

 しかも、実弾機関砲の弾は、撃たれた数の全てがエリア軍指揮官目掛けて戻ってきた。

 エリア軍指揮官の肉体は粉々に砕け散り、指揮室もろとも、跡形も残らなかった。

 

 この状況は逐一、エリア行政主席官がいる司令室へ中継されていた。

 司令部では、この怪物が何らかの超能力を持っている可能性があると判断する。

 しかし、初の経験である、確証など何もなかった。

 

 エリア行政主席官は増援軍の派遣を世界政府へ要請、許可される。

 ただし、増援は陸軍のみで、世界空軍の派遣は怪物と一緒に街ごと破壊しかねないことから許可されなかった。

 連合エリア軍が現場に到着するまでには数時間が必要であり、その間、残存エリア軍が攻撃を続行、臨時の指揮官も立てたが叶わず、怪物の反転攻撃により全滅してしまった。

 連合エリア軍が来るまで、もう、このエリアで怪物に対抗できる力はなくなった。

 

 こうなると、後は怪物の思うままだった。

 人を食うごとに超能力を増していく怪物は念動衝撃波によって核シェルターを破壊する。

 そして、隠れている人々を見つけると強力な念動力によって宙に浮かせ、浮いた人々をそのまま貪り食っていく。

 こうして、核シェルターに隠れていた人々はみな食われてしまう。

 怪物の食欲は旺盛であり、留まるところを知らなかった。

 

 こうして、このエリアには人がいなくなり、破壊された建造物と怪物の食い残した人々の死骸だけが無残に残った。

 この時点で分かったことは、どうやら、怪物は人間の上半身を好んで食うことだった。

 しかし、その理由は分からないし、また、分かったところでどうにもなるものでもない。

 優先されるのは、この怪物の蛮行を何としても止めることだった。

 

 やむなき結果ではあるが、怪物がいるエリアに人がいなくなったことを受け、世界国家元首は許可しなかった世界空軍出動を許可する。

 連合エリア軍の到着を待たず、世界空軍による怪物駆逐をエリア行政主席官へ指示する。

 

 この指示を受け、エリア行政主席官はエリアへの空爆を世界空軍へ要請。

 集まった世界空軍の戦闘機は数十機、現場上空に到着すると、一切に爆撃を開始した。

 

 しかし、シールドに守られた怪物に爆撃の効果は全くない。

 しかも、爆撃に使用したミサイルの一部は発射した戦闘機自身へ反転、自らのミサイルを受けて爆発、墜落してしまうのだった。

 恐るべき怪物の超能力、エリア行政主席官は想定外の事態に困惑を隠せない。

 それでも、このままみすみす、同胞が食われていくのを見過ごすことはできない。

 しかも、怪物は巨大化を繰り返し、今やその大きさは50メートルになろうとしていた。

 後は、どこまで連合エリア軍がやってくれるのかに期待するしかなかった。

 

 そして、やっと連合エリア軍が現場に到着する。

 連合エリア軍は、戦場となろうとしているこのエリア周辺の旧地域国家のエリア軍複数により編成されている。

 数キロメートル四方には戦車、ミサイルランチャー、ショックカノン、実弾機関砲などを装備した何万人もの兵士が配置され、ひしめいていた。

 また、連合エリア軍の到着に合わせ、空軍の増援戦闘機数十機が戦場上空に到着。

 

 この事態から、指揮権は、エリア行政主席官から世界国家元首に移っている。

 連合エリア軍司令官からの攻撃準備完了の報告が入る。

 連合エリア軍が配置を完了するまでの間、議会に承認を得ていた世界国家元首は改めて非常事態宣言を行う。

 続いて、連合エリア軍司令官への総攻撃開始を命じた、その時…


 「ギヤーーーーーーァン!!!」

 

 突然、怪物が咆哮、咆哮の音波は高周波のような性質を持っていた。

 この咆哮を聞いた兵士たちは「キーーーン」という強烈な耳鳴りを感じ、両手で耳を塞ぐ。

 高周波はシステムにも影響を与え、戦場に設置した攻撃システムが一時的にダウン。

 この高周波を拾った、世界国家元首のいる世界政府政務室のシステムも例外ではない。

 システムの停止により、世界国家元首は総攻撃の様子がつかめなくなった。

 

 ・政務室技術者

 原因は不明! 回復には早くとも数分を要します。

 ・世界国家元首

 システムの回復を急げ!

 

 数分後、システムが回復、戦場の様子がパネルモニタに映し出される。

 まず、モニタに映し出されたのは、上空の戦闘機が次々と墜落していく姿だった。

 地上へ落下し、爆発炎上していく戦闘機。

 コントロールを失っている戦闘機は友軍のいる場所へも容赦なく墜落、多くの兵士たちが巻き添えを食っていく。

 

 信じられない状況を目にした世界国家元首は、すぐさま司令部を呼び出す。

 パネルモニタが司令部の映像に切り替わるが、そこにはまるでマネキンのようになって動かない軍人たちが映し出されている。

 

 ・世界国家元首

 どうした司令部、何をしている、応答せよ!

 

 司令部からは何の反応もない。

 まるで時間が止まっているかのように、誰ひとり動かない。

 声を出すこともなく、何かに縛られているかのように動きを止めている。

 

 世界国家元首は、パネルモニタを再度、前線の映像に切り替えるよう命じる。

 墜落した戦闘機の衝突をまぬかれた場所をズームアップさせると、配備されている兵士たちも同様に、耳を塞いた姿のまま、まるで固まったように動かなかった。

 世界国家元首は、パネルモニタを監視衛星からの映像に切り替えるように指示する。

 監視衛星からの映像を確認すると、動いていないのは兵士や戦車、兵器など人間と人間が操るもののみであり、鳥や虫などの動物は動いていた。

 

 このことは、推測の域を出ないが、何者かが何らかの力で、人間と人間に関わる全てのものの動きを止めている、要は、彼らは動きたくても「動けない」ことを物語っていた。

 

 ・世界国家元首

 これはいったい、どういうことだ。

 あの怪物の超能力の仕業とでも言うのか…

 

 世界国家元首がこうつぶやいた、次の瞬間…

 

 戦場に配備されている動かない兵士たちが突然、次々と倒れ始めた。 

 それはまるでドミノ倒しのように連動していく。

 しかし、倒れていく兵士たちをパネルモニタ越しに確認しても、外傷はない。

 戦場にいた数万人の兵士たちはこうして皆、地に伏したまま動かなくなり、結果として、連合エリア軍は全ての戦力を失ったに等しく、怪物への攻撃は事実上停止したのだ。


 このとき、戦場の兵士たちには何が起こったのか。

 これは後に判明するのだが、彼らは「脳」を失っていた。

 そう、何らかの凄まじい力により、頭蓋骨の中から脳だけを抜き取られていたのだ。


 脳を失えば、人間は即死する。

 では、彼らはなぜ、脳を失ってしまったのか。

 それは、怪物の持つ超能力、強力な念動力によって、瞬間移動させられたのだ。 

 

 これも後に分かるのだが、怪物は「知的生命の脳」を好んで食う。

 その理由は後に述べるとして、シロクマ展示室の前で最初に被害にあった親子が腰から上を食われたのはそのためだ。

 人々を次々と食い散らし、体を巨大化させ、超能力をも発達させた怪物は、欲しているのは知的生命の脳であることを本能的に知る。

 ならば、念動力を使って人間の動きを止め、瞬間移動で直接、脳を自分の胃の中へ転送すれば、口から人間を食らう必要がないことに気づいたのだ。

 

 脳を転送された人間は「用なし」となり、念動力から開放され、自由を取り戻す。

 しかし、自由を取り戻した人間はみな、死んでいる。だから、地に倒れるのだ。

 怪物の消化能力は凄まじい。

 こうして怪物は数万人もの人間の脳を次々に摂り込み、自らの栄養としたのだ。

 

 こうして大量の栄養を得た怪物の成長は止まらない、新たな変貌を遂げる。

 

 取り込んだ脳の吸収が終わったのか、突然、怪物の体から光が発せられた。

 その光は怪物の体を球体に包むと、球体の中で、怪物の体が分裂を始める。

 そう、今度は体を巨大化させるのではなく、分裂させ、個体数を増やすのだ。

 球体の光が消えると、怪物は3匹になっていた。

 この事実は、この厄介な怪物が更なる数に増える可能性があることを示唆していた。

 

 ・世界国家元首

 やむを得ない…

 遊星破壊ミサイルを使うしかない。

 

 先ほども述べたが、「Zoad」人は核兵器を約260年前に破棄している。

 世界統一国家樹立後、大量破壊兵器は同胞たる人間を攻撃するものでなく、遊星の衝突などに備えるための緊急災害に限定されて開発されるようになっていた。

 

 遊星破壊ミサイルは本来、その名の通り、惑星「Zoad」の外へ向かって撃つことを目的として開発されていたが、今回はどのような理由であれ、このミサイルを同胞の住む地域(と言ってもすでに、このエリアに人はいない)に撃ち込む選択肢を選ぶことになる。

 惑星「Zoad」の歴史で、核兵器を含む大量破壊兵器が実戦で使用されたのは過去2度のみ。

 今回使用すれば、核兵器ではないとはいえ、10世紀以上を経て、3回目となる。

 

 世界国家元首は、スーパーコンピュータAI「ライト」を呼び出す。

 AI「ライト」は、亜高速宇宙船や亜空間通信網の開発にも用いられている、世界統一国家が所有する中枢コンピュータであり、国防システムの一旦も担っている。

 

 世界国家元首は、遊星破壊ミサイルを使用した場合の怪物への効力を「ライト」に尋ねる。

 これまでの状況を計算した「ライト」の回答は「5%」、この数字に驚く世界国家元首。

 それは例え、街が消失するほどの大爆発を起こしても、怪物を駆逐することができない確率の方が高いことを示している。

 それでも、遊星破壊ミサイルの威力に賭けるしか、この事態を止める方法はない。

 

 世界国家元首はまず、超法規的措置として、怪物に対して遊星破壊ミサイルを使用することを世界議会に通告する。

 続いて、世界連合宇宙軍最高司令官へミサイル発射を命じる。

 

 攻撃衛星に搭載されている遊星破壊ミサイル1発が、怪物に向かって発射される。

 発射から怪物がいる地点へのミサイル到達は数十秒、ミサイルは怪物上空で爆発。

 核兵器の爆発のごとく、このエリアが灼熱と紅蓮の炎に包まれる。

 まるで地獄の炎のごとく、街ごと怪物のいる地域を焼き尽くす、これが十数分続く。

 

 そして、炎が止む、しかし…

 

 「ライト」の計算通りだった。

 3匹の怪物は自らを覆うシールドに包まれ、全くダメージを受けていない。

 彼らには、遊星を破壊するほどの威力のミサイルも効力がなかったのだ。

 

 愕然とする世界国家元首。

 核兵器を持たない彼らには、これ以上の威力の大量破壊兵器はない。

 仮にあったとしても、怪物に有効なのかも分からない。

 世界国家元首は「ライト」に改めて、怪物を駆逐する方法があるか、また、ない場合には惑星「Zoad」の人類が生き残る可能性はあるのかを尋ねる。

 AIである「ライト」は冷静に答える、「いずれも、ありません。」と。

 

 怪物はまだ、その成長を止めない、また、更なる変貌を遂げる。

 このエリアに餌となる人間がいないことを知った3匹の怪物は、背中に羽を作り出した。

 そして、亜音速に近いスピードで空を飛び、3匹がそれぞれに別れ、人間のいるエリアへと移動していく。

 移動した場所では、最初のエリアで起こった悲劇があちこちで繰り返された。

 

 一瞬にして、数万人の人間の脳を瞬間移動し、食らう怪物。

 一瞬にして殺される数万人の人々、攻撃さえさせてもらえず、動きを全て止められた上、脳を失って地に倒れていく地域のエリア軍兵士たち。

 人の脳を大量に摂取し、分裂を繰り返していく怪物。

 最終的に、怪物は500体程度にまで増え、惑星「Zoad」全域に広がっていった。

 こうなるともう、世界国家元首にも誰にも、怪物の進撃を止めることができない。

 惑星「Zoad」の人類は、怪物の暴虐のなすすべになる運命しか残っていなかった。

 

 しかし、世界国家元首は、その立場から、この状況を看過する訳にはいかない。

 せめて、自分の身の回りにいる人間たちだけでも亜高速宇宙船を使って惑星「Zoad」から脱出させようと、彼は考えた。

 

 惑星「Zoad」には衛星がひとつあり、「Zoad」人はその衛星を「Lute」と呼ぶ。

 亜高速宇宙船の実用化を機として、「Lute」には無人基地が建設されていた。

 基地はAI「ライト」の指揮によって建設され、建設には工作ロボットが利用された。

 全自動で建設されたこの基地には、数百人程度ではあるが、人間が長期間滞在することのできる施設も併設されている。

 この「Lute」基地は、人類が「Lute」に移住するためのコロニー建設の試金石だった。

 

 逃げるところがあるとすれば、もう、「Lute」基地しかない。

 恐るべき超能力を持つ怪物も、さすがに、宇宙までは追いかけては来られまい。

 世界国家元首はそう考えた。

 しかし、自分たちだけが逃げ出すことは、同胞を見捨てるようなものである。

 それでも、このまま人類がみすみす滅んでしまうことだけは、避けなければならない。

 世界国家元首は苦渋の決断を下した。

 

 世界国家元首、首脳たちとその家族、そして、亜空間通信網を開発していた科学者たちとその家族など、選ばれた人々だけが亜高速宇宙船数隻に乗り込む。

 人々が怪物の襲撃を受け、大混乱が続く中、彼らは後ろ髪を惹かれる思いを残しながら、スペースポートから亜高速宇宙船を出航させる。

 まもなく成層圏に達しようとしていた、そのとき…

 

 亜高速宇宙船の動きが止まる。全く動かなくなる。エンジンも停止する。

 怪物たちは彼らを見逃さなかった。漏れなく、怪物の超能力の標的となっていた。

 亜高速宇宙船はしばらく空中に留まったあと、全隻が地上へ落下していく。

 乗船していた世界国家元首たちがどうなったのかは、もうお分かりのことだろう….


 こうして、惑星「Zoad」の人類は地域階級に関係なく、全てが怪物に喰われた。

 たった十数日で、進んだ文明と知性と科学力を誇った「Zoad」人は全滅してしまったのだ。

 残ったのは、破壊されずに残った「Zoad」人の建造物と、脳を瞬間移動されて死に絶えた「Zoad」人たちの死骸と、そして、分裂して世界に散った怪物のみだった。

 彼らは自分たちがこんなことで滅んでしまうとは、誰一人考えていなかったに違いない。

 

 世界中に散らばり、人々を食い尽した怪物たちは突然、最初に怪物が発生したエリアへ戻るようにして集まり始める。そして、あろうことか共食いを始めた。

 生き残りをかけ、超能力による壮絶な同士討ちを始める怪物たち。

 

 人類を滅ぼしただけでは飽き足らず、怪物同士の超能力の戦争は「Zoad」人が残した文明もろとも、惑星の自然環境までをも壊滅的に破壊した。

 まさしくそれは、地球の言葉で例えると、「ハルマゲドン」の世界だった。

 

 こうして1匹の怪物が勝ち残る。

 この怪物は、惑星「Zoad」に残ったたったひとつの生命体となる。

 ところが、怪物はなぜか自らを食らい始め、最後には無残な姿となって死滅する。

 他に殺して喰うものがなくなり、強烈な殺戮欲と食欲を満たすためには自分を喰うしかなかったのかもしれない。これで、惑星「Zoad」からは一切の生命体が姿を消した。

 ※BGM →The End - The Doors 1966 (https://youtu.be/JSUIQgEVDM4)


 しかし、惑星「Zoad」にはたったひとつ、知性を持つものが残っていた。

 それは、世界統一国家の中枢スーパーコンピュータ、AI「ライト」だった。

 

 「ライト」のメインフレームは世界国家元首政務室の奥深い地下室に設置されていたことから、怪物同士の壮絶な超能力戦争の被害を受けずに済んでいた。

 また、「ライト」を動かす電力は、惑星「Zoad」のマントルの熱を利用した発電技術を利用していたため、半永久的な供給が可能だった。

 

 ひとり(ひとつ)、この惑星に残された「ライト」。

 今は彼だけが、この惑星「Zoad」の悲劇を知っている。

 「ライト」は、自分だけが残された、ただひとり(ひとつ)の証言者であるとの使命感から、持てる能力の全てを総動員して、この怪物の正体を探り始める。

 

 まず「ライト」はなぜ突然、こんな怪物が発生したのかに着目した。

 怪物の死骸からサンプルを採取し、「ライト」は数十年をかけて調査を試みる。

 

 まず行き着いたのは、怪物の細胞が持つ特殊なDNA配列だった。


 このようなDNA配列を持つのは、惑星「Zoad」に生命体として存在していた微生物から知的生命体に至るまで調べても、怪物のみだった。

 しかも、そのDNA配列は癌細胞のように、「一千万分の一」の確率で生命の種に関係なく、細胞のコピーミスによって生み出されるものであることを、「ライト」は突き止める。

 しかも、このDNA配列を持つ細胞は癌細胞と違い、新生悪生物ではなく、元の生命体の細胞を壊すことなく分裂し、正常な細胞として働き、体内中の全細胞と入れ替わる。

 こうして、「一千万分の一」の確率で生まれたコピーミスの細胞が結果的に怪物を生む。

 

 「ライト」はここまでは解明した。

 しかし、このような細胞を稀な確率で生み出している原因にはたどり着けなかった。

 「ライト」は更に研究を進める…


 また、十数年のときが流れた。

 

 「ライト」はようやく、この細胞を生み出した正体が、宇宙から放たれる特殊な電磁波であることを突き止める。

 例えば、ある一定の周波数の電磁波は水分に吸収される。

 吸収された電磁波の振動が取り込まれた物質の水分を揺らし、温度が上がる。

 地球で利用されている電子レンジはこの原理を用いているが、この特殊な電磁波を受け、電磁波を体に取り込み続けることによって、ある日突然、生物が怪物化するのだ。

 

 「ライト」はこの特殊な電磁波を「Phantom」と名づける。

 

 「Phantom」による突然変異の力は凄まじく、動物を巨大化させ、凶暴な超能力を与えるのみならず、自らを分裂し、増殖させる力をも与えていた。

 

 「ライト」は、怪物化したこの悪魔の生物を、「Evil」と名付ける。

 生物が「Evil」に変わると、「Evil」は知的生命を好んで食い尽くす。

 その理由は推測の域を出ないが、動物が「Phantom」の力を得て巨大な体と超能力を獲得しても、知的生命が持つ「知的能力」を得られないことを本能的に「Evil」は知っており、知的生命の脳を喰らうことで、得られない欲求を満たそうとするからだ、と「ライト」は考えた。

 

 この底なしの欲求から、「Evil」は知的生命(の脳)を喰らい尽くすまでは満足しない。

 しかも、進んだ文明を持っていた惑星「Zoad」の人類の持つ火器は「Evil」の凶暴な超能力の前には通用せず、恐るべき「Evil」の超能力攻撃により全滅したのだ。

 

 結論として、「Evil」に対抗するには「Evil」を上回る超能力を持つ超人を生み出すしかない、と「ライト」は判断する。しかし、そんなものをどうやって生み出すのか。

 「ライト」は、「Phantom」とコピーミスによって生まれる特異なDNAに着目する。

 「Phantom」と特異なDNAが融合した際に生み出されるエネルギーをコントロールすることさえできれば、人間の意識を保ち続け、怪物の恐るべき殺戮欲とあくなき食欲を抑え込みながら、「Evil」の超能力を得ることができる。

 要は、体は「Evil」となるが、人間の意識を持ち続ける超人となるのだ。

 

 そこで、「ライト」は特異なDNAの組成を特定し、分析研究する。

 分析には約100年の歳月を要したが、この研究により、特定の塩基配列情報を置き換えることで、「Evil」になることをコントロールし、「Evil」に精神を乗っ取られず、「人間」の心を保ったまま、強大な超能力を得ることができることを解明した。

 

 しかし、「ライト」はここで行き詰る。

 なぜなら、この惑星「Zoad」にはもはや、人がいない。

 研究はあくまで「ライト」の机上の計算だ。

 理論的には100%間違っていないところまで何度も推考を重ねているが、それを検証し、実証することができない、そう、この星にはもう、サンプルがないのだ。

 

 「ライト」は、結論としてたどり着いたこのDNAを持った知的生命体が、広大な宇宙のどこかで自然に生まれる確率を計算した。その確率、「五十億分の一」。

 この確率から「ライト」は、その異能知的生命体を「触れ得ざる者」と名づけた。

 要は、存在しないかもしれない、したとしても手の届くところにはいない、触れることさえできない者、との意味が込められていた。

 

 「ライト」に残された手段は、その異能知的生命体の存在を「探す」こと。

 「ライト」はスーパーコンピュータAIである。

 「五十億分の一」の確率は数字上では「0」ではないが、起こる可能性が「0」と大差ないことを知っている。

 それでも「ライト」にできることは、永遠とも言える時間を費やしてでも、その可能性に賭けることしかなかった。何せ、彼はAIである、寿命はないのだ。

 

 「ライト」はまず、惑星「Zoad」に残された「亜空間通信網」を改良した。

 この改良によって、「亜空間通信網」は電波通信だけではなく、異能知的生命体が発する思念波を受信し、その相手との交信が可能となるようにした。

 

 そして「ライト」は、異能知的生命体を探索するため、全宇宙へメッセージを発信した。

 このメッセージは、「ライト」が探す対象者のみが受け取ることができる。

 このメッセージを受け取った者がいた場合、受け取ったものの耳には、「触れ得ざる者よ。触れ得ざる者よ。目覚めたまえ。」と聞こえる。

 聞こえることにより、異能知的生命体の脳からは潜在的能力によって思念波が発生する。

 「亜空間通信網」を駆使して、「ライト」はこの思念波を受け取ろうとしたのだ。

 

 「ライト」は永遠とも思える時を費やし、メッセージを発信し続けた。

 ※BGM →Message In A Bottle - The Police 1979 (https://youtu.be/MbXWrmQW-OE)


 その間にも、宇宙のあちこちで「Evil」の出現が繰り返され、いくつもの知的生命と文明が滅ぼされる悲劇が続いていた。

 ただ、宇宙の広大さからみれば、それはほんの一握りのことだとも言える。

 それでも「ライト」は、他の星の知的生命がみすみす滅んでいく事実を看過できなかった。

 

 待ち続けること、約2億年。

 とうとう、「ライト」の元へ、異能知的生命体からの応答があった。

 応答先は「地球」。

 「地球」は「ライト」の星、惑星「Zoad」のある「Formax」銀河からは約60万光年離れている、天の川銀河にある太陽系の第三惑星。


 「地球」には現在、かつて惑星「Zoad」に存在した人類と同じ種類の知的生命体がいることを「ライト」は知る。ただし、その文明レベルは「Zoad」人と比べれば遥かに低い。

 しかも、かつての惑星「Zoad」のように、地球では特定の超大国が核兵器を保有し、覇権を争っているばかりではなく、多数の地域国家が乱立し、お互いに紛争を繰り返している、いわば、未成熟の人類であることをも知った。

 それでも、文明を持っている「人間」である。

 「ライト」はやっと見つけた異能知的生命体を見捨てることはできなかった。

 

 受け取った思念波の情報を分析すると、異能者は「日本」と呼ばれる場所にいる。

 その名は、「加賀美 晃」。時は地球暦で2017年。

 この物語は、悪魔のような体と超能力を手に入れながら、人間の心を保ち続けて戦う、ある男の物語である。

 

 ■EvilZoad(触れ得ざる者)

 ※BGM →Night - Bruce Springsteen 1975 (https://youtu.be/EGe1bKEdEag)

 

 今夜は中秋の名月。

 夜空には一年を通して一番美しい月が輝いていて、雲一つない。

 ここ数年、こんな夜は稀だ。

 10月に入って気温も涼しくなり、就寝するのにエアコンはいらない。

 

 そんな季節なのに、加賀美 晃は最近、ずっと同じ夢にうなされていた。

 夢はこんな感じだ。

 

 彼は、砂嵐吹きすさぶ砂漠に一人立っている。

 そして、砂漠の中をさまようようにして彷徨している。

 水も食料もなく、歩き疲れた晃は膝から崩れ落ち、砂漠の砂に手をつく。

 すると、砂嵐の轟音が消え、誰かがこんな風に呼びかけてくる。

 

 「我は”ライト"。触れ得ざる者よ。触れ得ざる者よ。目覚めたまえ。」

 

 ◆晃

 おまえは誰だ!


 問い返す晃、しかし、返答はない。

 「我は”ライト"。触れ得ざる者よ。触れ得ざる者よ。目覚めたまえ。」、との声が繰り返し聞こえるだけ。状況が呑み込めない晃に、呪文のようなこの問いかけは続く。

 

 ◆晃

 「触れ得ざる者」ってなんだ!

 俺は晃だ!そんな奴じゃない。やめろーー!

 

 ここで晃は必ず、ベッドから体を起こして目を覚ます。

 涼しい夜のはずが、彼は体中に汗をかいている。


 ◆晃

 また、あの夢か…

 なんなんだ、最近の俺、いったいどうなってんだろ…


 体を起こしたまま彼は、夢のことをしばらく考えてみる。

 でも、考えても何も分かるはずもない。

 考えるのに疲れ、また、ベッドに横になると、眠気に襲われ、眠りにつくのだ。


 そして、朝を迎える。


 ここのところ、3日に1回のペースで「あの夢」を見ている晃。

 「あの夢」は晃を相当疲れさせる。見た朝は、なかなかベッドから出ることができない。

 どうにか重たい体を起こし、パジャマを脱いで、シャワーを浴びる。

 こんな調子だから、今日は大学の講義を休んでしまいたい。

 しかし、今日の講義は必須科目で、一時限目からであり、しかも、必ず出席を取る先生なので、休む訳にはいかない。

 身支度だけを整え、朝食も摂らず、社会人に交じって、朝の通勤ラッシュの電車に乗る。

 向かうは、「大都大学」。彼はこの大学の三回生だ。

 朝から疲れた顔をして大学前の駅を下車し、通学路を通り、大都大学の校門をくぐる。

 そこへ、天智 幸治が晃へ声をかけてくる。


 ◇幸治

 おい、晃。なんだよ、朝から元気ないじゃん。

 なんかあったのかよ。もしかして、実夏ちゃんかぁw

 ◆晃

 何言ってんだよ。何にもないよ。ただな…

 ◇幸治

 やっぱり実夏ちゃんだろw

 ◆晃

 違うって(怒 

 いや、初めて話すかもしれないけど、俺最近、変な夢を何度も見るんだ。

 ◇幸治

 夢かよ。どんな夢なんだよ。

 ◆晃

 俺、砂嵐が吹きすさぶ砂漠に立ってるんだ。

 逃げようとして歩くんだけど、どこへ向かっても風景が変わらない。

 疲れ果てて、膝から崩れ落ちるように砂に手をつくと、俺を呼ぶ声が聞こえるんだ。

 ◇幸治

 マジかよ… 何かそれ、怖ええよな。

 ◆晃

 そうなんだ。

 しかも、誰か分からないんだけど、俺のことを「触れ得ざる者」って呼ぶんだ。

 ◇幸治

 ふ、「触れ得」なんだって? 何かかっこいいよな、それ。

 ◆晃

 よせよ… あ、幸治、話しは後だ、講義に間に合わないよ。

 ◇幸司

 しまった、急ごうぜ。

 

 晃と幸治は一時限目の講義を受けるため、大学の第二講堂3階へ向かう。

 講義は90分、晃は寝不足のせいだろうか、幸治に何度も肩を叩かれて、起こされながら何とか最後まで講義を受けた。

 そして、やっと講義が終わり、講堂を出る。

 

 ◆晃

 あれ、達也じゃないか。

 この間のミスコンの前座、あれ、すごかったぜ。やるじゃん!

 ・達也

 晃、いてくれたんだ。気づかなかったよ。

 ◆晃

 後ろの方にいたからな。

 ・達也

 俺、あれからいろいろあってな…

 ◆晃

 深くは聞かないけど、もしかして、英真とかい?

 ・達也

 それはまた、ゆっくり話すよ。俺、部活があるから、また。

 ◆晃

 おう、また話そうぜ!

 

 達也は軽音楽部員で、先月、フロントマンとして、毎年恒例の大学祭のミスコンで前座を務めていた。友人である晃は、そのコンサートを後ろの方でこっそり観ていたのだ。

 

 すると、誰かが晃と幸治に話しかけてくる。

 それはさっき、幸治が言っていた、晃の幼なじみ、森村 実夏だった。

 

 ★実夏

 晃君と幸治君、いっつも二人一緒だね。なんか、仲いいよねw

 ◆晃

 それ、どういう意味だよ・・・

 ★実夏

 男同士の友情って、うらやましいなぁ、って思って。

 ◇幸治

 実夏ちゃん、俺は、実夏ちゃんと晃の仲がうらやましいぜ。

 だって、実夏ちゃんみたいなかわいい子と幼なじみなんだから。

 ★実夏

 そうかな。

 ◇幸治

 俺もあやかりたいよw

 ◆晃

 バカ、幸治、何言ってんだよ。

 俺と実夏ちゃんの親は同じ大学の考古学者だから、子供の頃から付き合いがあっただけ。ただ、それだけだって。

 ★実夏

 え、晃君は私のこと、そんな風にしか思ってないの。

 ◆晃

 また、そんなことを言う…

 ◇幸治

 そうだよな、だいたい、晃がこんなかわいい実夏ちゃんをずっと放っておくなって、俺からすれば、あり得ないよw

 ★実夏

 そうだよ、幸治君w こんなかわいい実夏ちゃんが、ずっと目の前にいてだよw

 ◆晃

 あぁ... その話し、次にしない。

 ◇幸治

 晃、おまえが何にもしないなら、俺が実夏ちゃんを取っちゃうぜ。

 ★実夏

 ゴメン、幸治君、それはないかなw

 ◇幸治

 あぁ〜、そういわれると思ったw やっぱ、晃にはかなわないよな〜。

 でも、俺も晃に負けず劣らず、いい男だと思うんだけどな。

 ★実夏

 幸治君はいい男だよw きっといい彼女が見つかるって。

 ◇幸治

 また、実夏ちゃんに振られたよw 晃、おまえ、そろそろ気づけよw

 ◆晃

 だから、その話しはまた、次にしようって…

 ★実夏

 晃君のバーカw

 ◆晃

 (話題を切り替えるように) そうだ幸治、明後日のお前の誕生日会、どうするんだ?

 ◇幸治

 どうするんだって、おまえ、知ってるだろw

 ★実夏

 え、幸治君、誕生日、明後日だったっけ?

 ◇幸治

 そうだよ、実夏ちゃん。夕方から俺の家で誕生日会やるんだよ。

 晃も来るんだけど、実夏ちゃんも来てくれるかな?

 ★実夏

 行っていいいの。なら、私も行く!

 ◇幸治

 大歓迎! なら、詳しいことは晃から聞いて。

 ★実夏

 晃君、教えてね、っていうか、どうするかは知ってるんだよね、おぬしw

 ◆晃

 はいはい、教えます。だから、許して…

 

 こうして実夏は明後日の幸治の誕生日会に参加することになった。

 この後3人は午前中の講義を受けた後、学食で昼食を摂り、いつもの日常を過ごした。

 そして2日後、幸治の誕生日の夕方を迎える。

 

 誕生日会ではまず、用意されたバースデーケーキに幸治の年齢と同じ21本のロウソクが灯されていて、電灯が消された後、幸治がロウソクを吹き消すと、「A Happy Birthday!」の掛け声がかかる。クラッカーが何本も鳴り響く。

 

 ここで、達也がギターを持って現れる。

 晃はサプライズとして、幸治の誕生日会に達也と英真をゲストとして呼んでいたのだ。

 窓を背にし、そこがステージのようにして立つ達也は、幸治へバースデーソングを歌う。

 

 ♪Happy Birthday to you, Happy Birthday to you.♪

 ♪Happy Birthday dear Koji, Happy Birthday to you, Come on♪

 

 続いて達也は、「Stevie Wonder」の「Happy Birthday」を歌う。

 ※BGM →Happy Birthday - Stevie Wonder 1981 (https://youtu.be/Qwscb3QIVSg)

 

 達也が歌いだすと、英真が達也の前に登場し、彼女はダンスを始める。

 あまり広くない舞台だが、限られた部屋の中を工夫しながら、英真は優雅に舞う。

 これには、幸治も、幸治の家族も、晃も大盛り上がりになる。

 その様子を、舌を出して笑いながら床に座って見つめている、幸治の愛犬シロウ。

 

 ところが…

 

 晃の耳に突然、夢に出てくる「ライト」の声が聞こえてきた。

 

 「我は“ライト”。触れ得ざる者。危機が迫っています。早く、早く目覚めるのです。」

 

 今、彼は眠っていない。起きている。

 しかし、晃の耳には確かに、ライトからの呼びかけが聞こえてきた。

 それは何度も何度も続いた。

 晃は、とっさに耳をふさごうとする。そして、手に持っていたグラスを落とした。

 グラスはテーブルの角に当たって割れ、床に落ちた。

 

 その様子に、達也の演奏と英真のダンスが止まる。

 皆驚いて、晃に声をかける。

 

 ・達也

 晃、どうした、大丈夫か。

 ◆晃

 ゴメン、なんか耳鳴りがして。俺、まだ若いのに、なんでだろ。

 ・達也

 俺の演奏が悪かったのかな?

 ◆晃

 そんな訳ないだろ…

 ・英真

 とりあえず、割れたグラス片づけなきゃ。

 ◆晃

 いや、俺がやる。幸治のお母さん、グラス壊してごめんなさい。

 ・幸治母

 いえ、いいのよ。気にしないで。

 

 グラスは運よく粉々にはならず、4つか5つにばらけて割れていた。

 壊れたグラスの破片を拾い集めようとする晃。

 しかし、そのうちのひとつを取るときに、晃は誤って指を切ってしまう。

 指からつーぅ、と血が落ちる。

 

 ★実夏

 晃君、大丈夫! ばんそうこう持ってくる。

 おばさん、ばんそうこうはどこ?

 ・幸治母

 私が取ってくる。実夏ちゃんは晃君を手伝ってあげて。

 ◆晃

 ありがとうございます。

 

 実夏が持ってきたゴミ箱に、晃は拾い集めたグラスの破片を紙に包んで捨てる。

 すると、幸治の愛犬シロウが晃のところへやってくる。

 シロウは、晃が太ものの上に乗せていた、血が出ている右手の指をしばらく嗅いだ後、心配するように、その指を舐めて、血を止めようとしたのだ。

 

 ◆晃

 シロウ、ありがとう。俺のこと、心配してくれるんだな。

 

 ケガをしていない方の左手で、シロウの頭をなでる晃。

 そこへ、消毒綿とばんそうこうを持って来た幸治の母が、晃の指を消毒綿で消毒する。

 

 ◆晃

 しみるな…

 ・幸治母

 これくらい我慢しなさい、男ならw

 

 そして、指が乾いた後、ばんそうこうを傷口に貼る。

 ぱっくりと割れていた指の傷はふさがり、痛みも軽くなった。

 

 ・幸治母

 これで大丈夫。

 ◆晃

 おばさん、ありがとう。

 せっかく盛り上がってたのに、なんか、水を差してしまったみたいで、悪いな…

 ◇幸治

 そんなことないぜ。まだまだ、パーティーはこれからだって。

 達也、続けてくれ。

 ・達也

 待ってたぜw

 行くぜ! いいか、ここに生きているやつらはいるかーー!!

 

 晃と幸治は、「オー!!」と叫ぶ。

 どう反応していいか分からない、幸治の家族。

 達也は気にせず、「ここに生きているやつらはいるかーー!!」、とまた尋ねる。

 晃と幸治がもう一度「オー!!」と叫ぶと、幸治の家族も遅れて「オー!!」と叫ぶ。

 

 ・達也

 幸治、改めていくぜ、Happy Birthday!

 

 彼はもう一度、「Stevie Wonder」の「Happy Birthday」をギターの伴奏とともに歌う。

 英真は、今度は踊らず、晃、幸治、幸治の家族と一緒に(達也のファン第一号として)観客の側に回り、皆と一緒に体を揺らしながら、サビに合わせて合唱している。

 こうして、幸治の誕生日会の夜は更けていった…

 

 その頃、惑星「Zoad」のスーパーコンピューターAI「ライト」は(彼に手はないのだが)確かな手ごたえを感じていた。

 これまで晃は就寝中にしか、「ライト」からの呼びかけを聞くことができなかった。

 ところが今夜、晃は「ライト」の呼びかけを覚醒状態で聞いたのだ。

 これは、彼の思念波の力が明らかに増大していることを示している。

 そう、彼は確実に、「五十億分の一」の確率で秘めた力の覚醒に近づいているのだ。

 

 「ライト」は、晃への呼びかけを止め、彼が覚醒するまで待つことを決める。

 晃が覚醒するには、トリガーが必要だ。

 「ライト」はそのトリガーが何であるのかを知っている。

 トリガーとなるのは、「ライト」が亜空間通信網を通じて地球から受信していた、晃とは異なる別の小さな思念波だった。

 「ライト」はこの思念波が、「一千万分の一」の確率で生命の種に関係なく、細胞のコピーミスによって生み出される、例の特異なDNAと「Phantom」との関係によって起こるものであることを知っていた。

 

 そう、晃の星、地球では、「五十億分の一」と「一千万分の一」の確率が同時に起ころうとしていた。しかもそれは、晃の身近で起ころうとしていたのだ。

 

 同時性、それは神秘である。

 起こらないところでは全く起こらない、しかし、起こるところでは同時に起こる。

 ※BGM →Synchronicity II- The Police 1983 (https://youtu.be/o5FPPoLqkCk)

 

 この事実は、スーパーコンピューターであるAI「ライト」でさえ、予想がつかない。

 

 「ライト」はこれまで、幾多の銀河で幾多の知的生命が、「Evil」の出現によって滅んでいる事実を知っている。でも、「ライト」にはそのことを知らせる相手がいなかった。

 そして、今度は地球に、「Evil」が出現しようとしている。

 

 しかし、地球には晃がいる。

 「ライト」はとうとうその星に、知らせることのできる相手を見つけたのだ。

 

 では、どうやって晃にそのことを知らせるのか。

 「ライト」は知っている、それは、「論より証拠」だ。

 「ライト」は地球に「Evil」を出現するのを見過ごすことで、それに触発され、晃が自らの力に覚醒することを期待した。

 確かに、晃が覚醒しなければ、地球の知的生命は、晃もろとも全滅する。

 それでも「ライト」は、この2億年の間に自らが開発したテクノロジーの信頼性と、触れ得ざる者である晃の覚醒と、その秘めた力に賭けたのだ(その意味では、「ライト」は2億年の時を経て、人間的になっていたのかもしれない)。

 

 そして、そのトリガーは、晃の知らないところで、まさに引かれようとしていた…

 

 幸治の誕生日会から十数日後。

 

 あれから、晃は例の夢にうなされることがなくなっていた。

 理由は分からないが、晃はその理由を考えることはしなかった。

 やっと普通の日常に戻れたのだ。晃にとってはその方がうれしかった。

 

 そんな午後のこと、晃のスマートフォンの呼び出し音が突然鳴り始めた。

 電話の相手は幸治、いつもはLINEで連絡してくる幸治が電話してくる。

 晃は、何かあったのかと考え、電話に出る。

 

 ◆晃

 あ、幸治か、どうした、なんだ、いきなり電話って。

 ◇幸治

 晃、シロウが、シロウが行方不明なんだ…

 ◆晃

 え、うそだろ、どこに行ったんだ。

 ◇幸治

 分からないんだよ、だから、手掛かりがないか、片っ端から連絡してるんだ。

 

 幸治の愛犬「シロウ」はゴールデンレトリバーの三歳オス。

 家内犬であり、家の中で幸治や家族と一緒に暮らしていて、散歩のとき以外はひとりで勝手に外へ出ることはない。なにせ、ゴールデンレトリバー、孤独を嫌うはず。

 ところが今朝、リビングのサッシが開いていて、シロウがいなくなっていることに幸治の母が気づいたのだ。これまで、シロウがそんな行動を取ったことは一度もない。

 

 幸治と家族は慌てて近所中を探し回ったが、シロウの姿を見つけることができない。

 幸治と家族は止む無く、片っ端から知り合いへ連絡し、どんな小さなことでもいいから情報を得ようとしたのだ。

 ただ、晃の家と幸治の家は、大都大学を起点にすると、南北で正反対の場所に位置する。

 犬のシロウの行動範囲が、自分の家の付近まで及んでいるとも思えない。

 しかし、今の晃には、そんなことは決して言えなかった。

 

 ◆晃

 そうなんだ。心配だな...

 近所とか歩いていて、もし何か気づいたら、すぐに知らせるよ。

 ◇幸治

 俺の方でも、FaceBookでシロウの捜索願を投稿してみる。

 だから、今日は大学、休むな。

 ◆晃

 俺も手伝ってやりたいけど、今日はこれからイベントスタッフのバイトがあってな…

 ◇幸治

 分かってるって。またな。

 ◆晃

 じゃ、また。

 

 通話が切れたあと、晃はつぶやく。


 ◆晃

 シロウ、どうしだんだろ。あぁ、行ってやりたい…


 晃にとってシロウは、飼い主である幸治が思うくらいに大切な存在だった。

 晃はシロウの優しさと従順性を知っている。

 割れたグラスで切った晃の指を、シロウは傷を治そうと舐めてくれたのだ。

 晃はいたたまれない気持ちを抱きながら、バイト先へ向かった。


 その頃、幸治と幸治の家族はずっと、シロウを探していた。

 近所中はもちろんのこと、シロウが大好きな(達也がボランティアで清掃活動に参加した)堤防にも足を伸ばしていた。

 幸治は、川をまたいでいるいくつかの橋の橋梁と橋梁との間を自転車で探し回る。

 橋梁を超えて、ずっと先の大川との合流地点まで行ってみても、シロウは見つからない。


 ◇幸治

 シローウ、シローウ!!


 幸治の叫びはむなしく、夕方の空に響く。夕闇はもうすぐ迫ろうとしている。

 幸治と家族は止む無く、自宅に引き返すことを決めた。

 

 そんな頃…

 

 晃や幸治が住む街から電車で数十分のところに、自然公園があった。

 自然公園には「猿山」があり、自然の猿が放し飼いにされている。

 公園は自然の猿を見ることができる上、近くには温泉が湧いている有名な観光地もある。

 

 この夜、自然公園で異変が起きる。

 その異変を、晃は翌朝のTV番組のニュースで知ることになる。

 

 晃は昨夜、シロウのことが気になって、正直、よく眠れなかった。

 幸治とはLINEで連絡を取り合い、昨日、シロウが見つからなかったことを知っていた。

 でも、晃には何の力にもなれない。自分でも、それが少し腹立たしかった。

 晃は正直、自分に何らかの力(超能力)があったら、今すぐにでもシロウを探し出せるかもしれないのに、と何気なく思っていた。

 そして、晃の母親が用意した朝食をいつものように摂ろうと、テーブルに着くと…

 

 ・朝の番組のニュースキャスター

 特報です。

 本日早朝、箕輪自然公園で放し飼いにされている猿のうち、十数匹が殺されていることが飼育員ら関係者によって発見されました。

 殺された猿はまるで上半身を喰われたようにして死んでおり、この状況から、被害届を受けた警察は、深夜に何者かがこのような犯行に及んだ可能性があるとして現在、捜査を進めています。

 

 ・晃の母

 なんか、怖いわね。物騒な話し。

 

 晃はダイニングルームに置かれたTVから流れるこのニュースを何気なく観ていた。

 まるで、自分には関係のないことのように。

 すると、晃のスマートフォンが鳴った。相手は幸治からだった。

 

 ◇幸治

 晃、シロウが、シロウが戻ってきたんだ!

 ◆晃

 本当か!

 ◇幸治

 本当だよ。お袋が朝起きたら、シロウがいつもの場所にいたんだ。

 お袋、いつでもシロウが戻って来れるように、サッシの鍵を開けてたんだ。

 そしたら、そしたら、シロウが…(涙)

 ◆晃

 よかったな、本当によかった。俺、何もできなかったけど…

 ◇幸治

 いいんだよ、シロウさえ戻ってきてくれたら。晃、ありがとう。

 

 晃はこれ以上、何も言えなかった。

 

 晃は今日、大学の一時限目の一般講義に出席するつもりだったが、戻ってきたシロウへの会いたさに、幸治の家に行ってもいいかを確かめる。

 幸治はもちろん、OKする。

 幸治も同じく、一時限目の大学の一般講義をすっぽかすつもりだ。

 一般講義だから、進級に影響はないのだ。

 

 朝食もそこそこに、家を出る晃。

 電車に乗り、いつも降りる大学前の駅を通過し、幸治の家の最寄り駅を降りる。

 はやる気持ちを抑えながら晃は歩く。やっと幸治に家に着き、チャイムを押す。

 ドアが開く。すると、玄関にはシロウが座って待っていた。

 

 ・シロウ

 ワン!

 ◆晃

 シロウ! 

 

 シロウの首を両手でなでる晃。

 なでられたシロウはうれしそうに舌を出して笑っている。

 晃はほっとした。

 

 ◇幸治

 晃、まぁ上がれよ。

 ◆晃

 ああ、邪魔するな。

 

 晃は、シロウと一緒に幸治の部屋へ行く。

 部屋に入ると、シロウは伏せて、あごを床に置いてくつろいでいる。

 幸治は改めて昨日、どんなに探してもシロウが見つからなかった苦労を晃に話していた。

 晃はシロウの頭をなでながら、幸治の話を聞いていた。

 話しはしばらく続いたが、幸治は「ちょっとトイレ…」と言って、部屋を出る。


 晃は、「ああ」と言った後、愛おしそうにシロウを眺めていた。

 すると….

 

 「触れ得ざる者、触れ得ざる者…」


 突然、晃の頭の中に誰かが話しかけてくる。

 驚く晃。周りを見渡してみても、シロウと自分以外、誰もいない。

 気のせいかと思った。最近、彼は「ライト」からの呼びかけを聞いていないからだ。

 しかし、頭の中への呼びかけは続く。


 ・謎の声

 触れ得ざる者、声は出さなくていい。俺とおまえとは思念波で話せる。

 ◆晃

 おまえは誰だ! 「ライト」か! 

 ・謎の声

 ライトだと。俺はそんなやつじゃない。

 それに、おまえの思念波では、そいつとはまだ話せない。

 せいぜい、俺とぐらいだろう。

 ◆晃

 思念波ってなんだ! 俺にそんなものがあるとでも言うのか!

 ・謎の声

 今に分かる。分かるさ。いや、分からせてやろう。

 いいか、もうすぐ、おまえの周りで恐ろしいことが起こる。

 おまえの周りを起点にして、次々にだ。楽しみにしているがいい。

 俺の方はそうして、力を蓄えさせてもらうぜ。


 ◆晃

 何を言ってる! いったい何をする気だ! 姿を見せろ!

 ・謎の声

 俺はもうすでに、おまえに姿を見せているよ。そのうち分かるさ。

 ◆晃

 何だと!

 ・謎の声

 じゃあな、触れ得ざる者。


 こうして、晃の頭の中へ話しかけていた声が消えた。

 呆然とする晃。

 「ライト」以外に、誰かも分からない相手から、「触れ得ざる者」と呼びかけられたのだ。

 理解できないこの状況に、晃は困惑していた。

 そこへ、幸治が部屋に戻って来た。晃の様子が何かおかしいと感じた幸治。


 ◇幸治

 晃、どうした。なんか気分が悪そうだぞ。

 ◆晃

 いや、何でもない。寝不足のせいかな。

 ◇幸治

 そうか、晃もシロウが心配で、よく眠れなかったんだよな。

 ◆晃

 ああ、でも、ほんと、シロウが戻って来てよかったよ…


 また、シロウの頭をなでる晃。

 何があったか知らないように、シロウは床に伏せながら、上目遣いに晃を見つめている。


 こうして、晃と幸治は日常の生活に戻った。

 いつものように大学に通い、実夏と合流し、講義を受け、学食で昼食を摂り、バイトに出かけ、休みの日には他の友達たちと一緒にカラオケに出かけたり、シロウのいる幸治の家で、晃、幸治、実夏の3人で過ごしたりしていた。皆、シロウが好きなのだ。

 

 そうして1週間が過ぎた、ある深夜のこと。

 それは、晃、幸治、実夏たちが通う、大都大学の付近で起こるのだ。

 

 深酔い加減のOLが、大都大学の通学路を歩いていた。

 彼女は家路を急いでいる。

 今日は会社のキックオフがあり、勢いで3次会まで参加してしまい、何とか最終電車をつかまえて、ここまで戻ってきていた。

 

 ・OL

 あぁ、今日はちょっと飲みすぎちゃった。明日、朝から会議があるのに、しまったぁ。

 まぁ、いっか、何とかなるか。

 

 大都大学の通学路の周りには路地が多い。

 彼女は自宅のワンルームマンションのある路地に入る。自宅はまもなくだ。

 すると不意に、「ワン!」という犬の泣き声を耳にする。

 振り返ってみると、道路の脇にはゴールデンレトリバーが座って笑っている。

 ゴールデンレトリバーに近づく彼女。

 

 ・OL

 まぁ、かわいい。こんなところで何をしているの。

 飼い主さんにはぐれちゃった?

 そうか、帰りの遅い飼い主さんをここで待ってるんだ。

 賢いねぇ~。

 

 ゴールデンレトリバーの頭をなでる彼女。ゴールデンレトリバーは笑ったままだ。

 

 ・風引かないでね。じゃ、私は行くね。

 

 彼女がそう声をかけた瞬間…

 

 「ギャオ!!」

 

 ゴールデンレトリバーとは思えないような泣き声が夜空に響く。

 姿を消すゴールデンレトリバー。

 そこに残されていたのは、首から上を喰いちぎられて失った、無残な女性の死骸だった。

 

 夜の帳が空け、いつもと変わりなく、東の空から太陽が昇る…

 

 晃がこの日受講する講義は午後からだった。午前中は何も用事がない。

 晃は8時頃に起床し、ベッドの上でしばらくボーっとしていた。

 急ぐ必要はない、彼は頭が冴えるまでゆっくりしよう、と思っていた。

 すると、スマートフォンの呼び出し音がなる。見てみると、幸治からだった。

 またシロウがいなくなったのか、と考え、慌てて電話に出る晃。


 ◇幸治

 晃、たいへんだ! テレビをつけろ!

 ◆晃

 幸治、いきなりなんだよ、テレビをつけろって。ニュースアプリじゃダメなのか?

 ◇幸治

 テレビの方が早い! いいから早く、テレビをつけて、モーニングショーを見ろ!

 

 部屋の液晶テレビの電源を入れる晃。

 モーニングショーにチャンネルを合わせる、すると…


 ・モーニングショー ニュースキャスター

 本日は元警視庁捜査一課長の大村さんをゲストに迎えています。

 大村さん、凄惨な事件が起きてしまいましたね。

 ・元警視庁捜査一課長 大村

 その通りです。複数の方々がこんな襲われ方をして亡くなるのは、前代未聞です。

 ・モーニングショー ニュースキャスター

 複数の方々が、首から上をまるで喰われたようして亡くなっています。

 凶器はいったい、どのようなものが使われたと推測されますか。

 ・元警視庁捜査一課長 大村

 推測するのは難しいですね。

 鋭利な刃物ではなく、のこぎりのようなもので切断したのかもしれませんが、断定することはできません。

 ・モーニングショー ニュースキャスター

 大村さんは犯人像をどのようにお考えですか。

 ・元警視庁捜査一課長 大村

 複数の方々が被害に遭われていることから、通り魔的犯行の可能性が高いと思われます。

 通り魔的犯行となると、犯人像を特定することは非常に難しいでしょう。

 ・モーニングショー ニュースキャスター

 大村さん、ありがとうございました。

 もう一度お伝えします。

 今朝、大都大学の通学路周辺で、首のない遺体が複数発見されました。

 警察からの情報によると、遺体はみな、まるで首から上を喰われたような損傷を受けているとのことから、警察は殺人事件として捜査しています。

 

 ◆晃

 幸治、これは…

 ◇幸治

 そうだよ、俺たちの大学の周りで、こんなことが起こってるんだ!

 

 愕然とする晃。

 そして晃は、あの、謎の声の言葉を思い出した。

 「おまえの周りで恐ろしいことが起こる。おまえの周りを起点にして、次々にだ。」

 しかし、これはその序章に過ぎなかった。

 

 晃、幸治、実夏は連絡を取り合い、大学駅前で集合した後、大学の校門を目指す。

 ところが、通学路周辺はあちこちで規制線が張られていて、たくさんのパトカーと警官で埋め尽くされている。

 更にそこへマスコミの取材陣が殺到していて、大学へ向かうのは困難になっていた。

 また、警察の聞き込みは大学構内にまで及んでいて、この事態を受けた大学側は、本日の講義全てを休講としていた。

 そのことを大学のホームページを見て知った3人は、大学駅前に引き返すことにした。

 

 ★実夏

 何が起こったんだろ。なんか、怖いよ…

 ◇幸治

 そうだよな、この前の箕輪自然公園での猿山の事件もそうだけどさ、これまでとは何か違ったことが続いているよな。

 ◆晃

 (・・・・・)

 ★実夏

 晃君、どうしたの、もしかして、事件のことでショック受けてるの?

 ◆晃

 いや、そんな訳じゃないけど、でも確かに怖いよな、こんなこと起こると。

 ◇幸治

 まぁそうだけど、あぁ… 何か気分変えようぜ。

 ★実夏

 カラオケでも行こ! その後、シロウに会いに行こうよ。

 実夏、シロウと堤防で散歩でもしたいな。晃君、おぬしはどう?

 ◆晃

 いいかもね。幸治、かまわないか。

 ◇幸治

 じゃ、そうするか。決まり!

 

 こうして3人は午前中はカラオケに行き、昼は駅前のファミレスで昼食を摂り、電車に乗って幸治の家に着き、しばらく家でくつろいだ後、シロウを連れて3人で堤防へ行き、陽の光を浴びながら、シロウを散歩させていた。彼らにとっては十分な気分転換だった。

 

 大都大学の通学路周辺に張り巡らされていた規制線はその日のうちに解かれ、翌日には日常の状態に戻った。大学の講義も再開された。

 規制線を解いた後も、警察は現場周辺での聞き取り捜査を続けていた。

 聞き取った情報の中に、複数の人が、夜中に「ギャオ!!」という、耳慣れない泣き声を聞いていることが分かった。

 しかし、「人による犯行」と(常識的に)考えていた警察は、この泣き声が今回の殺人事件に直接結びつくとは考えず、他の有力な情報を求めて、更なる聞き込みを行っていた。

 

 しかし、警察は犯人の手がかりを一向に見つけられない。

 有力な手かがりを得られず、捜査は行き詰まり、数日を過ぎたある日。

 その日はとうとうやってくる…

 

 この日は日曜日。

 

 晃は昨夜、幸治と実夏の3人で飲みに行っていた。

 とりとめもない会話から始まり、途中、幸治が酔いに任せて実夏にまたもアタックするが振られてしまい、晃がうらやましがられ、晃が困惑するという、いつもの流れになる。

 晃は、幸治が何かにつけて実夏にアタックするのは、晃をその気にさせる、そう、晃を実夏にアタックさせるためであることを知っている。

 でも、晃はなかなかその勇気を出せずにいた。

 実夏とは幼馴染である。「いまさら」という気持ちが晃を思い留まらせていた。


 午前1時頃に家に帰ってきた晃は、日曜日の朝、目覚めてはいたが、眠気が残っていた。

 あくびをした後、さぁ、歯でも磨こうか、と思いながら、スマートフォンを手にした。

 そして、何気なくニュースアプリに目を通すと….

 

 「一家惨殺か。4人の首なし遺体が発見される。

 今朝午前7時頃、川沿市大江町の「天智 恭介」さんの自宅で家族4人が殺害されているのを新聞配達員が発見した。

 殺害されていたのは、父親の「天智 恭介」さん、母親の「真里」さん、長男の「幸治」さん、妹の「絵里」さんの4人。

 新聞配達員が天智さん宅の玄関から大量の血が流れているのを発見、通報を受けた警察官が家の中に入ったところ、首から上を食いちぎられたようにして死亡した4人を確認。

 金品が盗まれた形跡がないことから、警察は怨恨も含めた殺人事件として捜査中。」

 

 スマートフォンを手から落とす晃。記事の内容に戸惑い、自分の目を疑う。

 

 ◆晃

 幸治が、幸治の家族が、殺された… そんな、そんなことが、だって昨日…

 

 そんな晃に構わないように、スマートフォンの呼び出し音が鳴り始める。

 ショックのあまり、スマートフォンを拾い上げらない晃。

 落ちたスマートフォンに視線を移すと、電話は実夏からだった。

 スマートフォンを拾い、電話に出る晃。

 

 ★実夏

 晃君、ニュース見た! 幸治君が…

 ◆晃

 見たよ。実夏ちゃん、信じられるかい、俺、信じられない。

 ★実夏

 私も! だから、幸治君の家に行ってみよ。それしかないよ。

 ◆晃

 分かった。なら、幸治の家の最寄り駅で待ち合わせよう。

 ★実夏

 じゃ、後でね。

 

 晃の母はまだ、幸治と幸治の家族のことを知らなかった。

 晃はそのことを母に告げる。驚く母。

 慌ててテレビをつけてみると、日曜日のモーニングショーがそのことを報道していた。

 晃はとりあえず、身支度だけを整えて家を出た。

 電車に乗り、大学前の駅を通過し、幸治の家の最寄り駅を降りる。

 待合室では実夏が待っていた。二人は急いで幸治の家に向かう。

 

 幸治の家の前に着くと、現場は騒然となっていた。

 幸治の家の周りには規制線が張られ、多くのパトカーや警察官が取り囲んでいる。

 また、近所の住民は何事が起こったのかと、遠巻きに集まって様子を伺っている。


 たくさんの報道関係者たちもいて、幸治の家に近寄ることができない晃と実夏。

 しかし、この状況は間違いなく、幸治と家族が殺されたことを物語っている。

 ふたりはただ、この状況を立ち尽くして見ていることしかできない。

 

 ★実夏

 晃君….

 ◆晃

 うん…

 

 すると、ふたりの元へなにかが近づいてくる。

 それは、ゴールデンレトリバー、そう、幸治の愛犬、シロウだった。

 

 ◆晃★実夏

 シロウ!

 

 晃と実夏はシロウに近づく。晃はシロウの首を両手でなでる。

 

 ◆晃

 シロウ、よかった。おまえだけでも無事でよかった…、よく逃げられたな…

 

 この瞬間、晃の頭の中へまた、何者かが話しかけて来たのだ。

 

 ・謎の声

 逃げただと。何を言っている。俺は逃げてなどいない。

 

 驚き、周りを見渡す晃。警察官や近所の住民以外、隣にいるのは実夏だけ。

 前回のことで学習していた晃は、声には出さず、頭の中の声に話しかける。

 

 ◆晃

 またおまえか! どこにいる。姿を見せろ!

 ・謎の声

 いるよ、おまえは今、俺を見ている。

 ◆晃

 どういうことだ! 分かるように言え!

 ・謎の声

 だから、おまえの目の前にいるだろ。それが俺だよ。

 

 晃は前を見る。そこにいるのは、もちろん、シロウだ。

 この状況を全く理解できない晃。

 

 ・謎の声

 本当に分からないやつだな。俺だよ。シロウだよ。

 ◆晃

 そんな、そんなことが、嘘だろ…

 ▲シロウ(謎の声の正体)

 触れ得ざる者、いいか、教えてやろう。

 おまえの大切な友人、そして俺の主人である幸治と家族の命を奪ったのは、この俺だよ。

 ◆晃

 何だって…

 ▲シロウ

 それだけじゃない。

 箕輪自然公園の猿も、大都大学通学路の連中も、みんな俺の仕業さ。

 ◆晃

 なぜ、なぜそんなことを…

 ▲シロウ

 簡単だよ。「喰う」ためだよ。食って、俺の栄養とするためだよ。

 

 この回答に、何の返事もできない晃。

 彼には、目の前のシロウが謎の声の正体であり、更に、一連の事件の首謀者であることを告げられても、簡単には受け入れることができなかったのだ。

 

 ▲シロウ

 いいか、晃、おまえたちの星では、生き物を殺すことは悪いことだと教えている。

 しかし、食うことは悪いことじゃないよな。

 おまえたちは、魚や鶏、牛や豚なんかを食っているだろ。

 しかも、動物は人間に食われて幸せなんだって、親が子供に教えているじゃないか。

 ◆晃

 シロウ、なんてことを言う!

 ▲シロウ

 だから、俺は食ったんだよ。猿も、人も、そして、幸治もな。

 俺に食われて、幸治も家族も幸せだっただろうよ。

 何せ、愛していた俺に食われたんだぜ。ふふふふ…

 

 不気味に笑うシロウ。

 晃はようやく、この信じがたい事実を受け入れようとしていた。

 もう、そうせざるを得ないのだ。

 

 ◆晃

 シロウ、それが本当だとしたら、俺はおまえを許さない!

 ▲シロウ

 俺が嘘を言うはずないだろう。従順なゴールデンレトリバーだぜ。

 まぁ、いい。覚醒していない今のおまえに何ができる。

 何もできまい。例えば、俺が今から、おまえの大好きな実夏を食うとする。

 さあ、触れ得ざる者、おまえは実夏をどう守る。

 ◆晃

 くっ・・・

 

 とっさにシロウから離れる晃。そして、実夏に呼びかける。

 

 ◆晃

 実夏ちゃん、逃げろ、逃げるんだ!

 ★実夏

 晃君、何を言っているの。

 さっきからずっと黙ってると思ったら、突然逃げろって。

 ◆晃

 いいから、早く!

 

 実夏の手をつかみ、強引に引っ張るようにして、晃はこの場から離れる。

 走る晃、訳も分からず晃についていく実夏。

 それを見ていたシロウは、ゆっくりと四足で立ち上がる。

 

 ▲シロウ

 ふふ、面白い。どこまで逃げられるのか、楽しませてもらおうか。

 

 すると、シロウの体から光が発せられる。

 突然の光の出現に驚く、警察官を含めた周りの人々。

 球体の光がシロウの体を覆い、どんどん大きくなっていく。

 この事態に、光の周りから逃げ惑う人々。

 警察官は、この殺人事件の犯人が用意していた時限爆弾の類かと考える。

 しかし、巨大化の速度は速く、あっという間に10mほどの大きさになる。

 

 そして、光が消える。

 そこにいたのは、ゴールデンレトリバーだったことが嘘のような、黒い蝙蝠の羽を持ち、顔がワニのような姿をした、前代未聞の化け物だった。

 

 晃と実夏は、起こっている騒ぎに気づき、逃げている足を止めて振り返る。

 

 ★実夏

 晃君、あれは…

 ◆晃

 実夏ちゃん、信じてくれないかもしれないが、あれは、シロウだ!

 ★実夏

 うそ…

 ◆晃

 うそじゃない。

 猿山と大学の通学路の事件、そして、幸治と家族を殺したのは、やつだ!

 ★実夏

 そんな…

 ◆晃

 実夏ちゃん、話しは後だ。今はとにかく逃げるんだ!

 ★実夏

 うん…

 

 また走り出すふたり。

 

 怪物が現れた現場は収拾がつかないほどに混乱していた。

 怪物の出現を本署に報告する現場の警察官。

 報告を受けた本署側の担当者は容易に事態を飲み込めない。

 現場の警察官は本署の担当者へテレビを観るように伝える。

 現場にはマスコミの取材陣もいたため、この状況を速報としてテレビに流している。

 その上で、怪物への発砲許可を要請する現場の警察官。

 本署の担当者はその旨、警察署長へ報告する。

 

 しかし、全てが遅かった。時間にすれば10分にも満たない。

 シロウは、現場にいる人間を容赦なく、食い漁っていく。

 現場には、首から上を食いちぎられたいくつもの無残な死体が増えていく。

 その中にはマスコミの取材陣や警察官も含まれている。

 こうなると、できることはもう、この場から逃げることしかなかった。

 

 食欲を満足させたシロウは、晃と実夏の後を追い始めた。

 晃と実夏は、もうすぐ駅前までたどり着こうとしていた。

 このまま電車に乗れば、何とか逃げおおせることができると考えたのだ。

 

 ▲シロウ

 ふふ、触れ得ざる者、どこにいるのかは分かっているぞ。

 

 そう言うと、シロウの姿は現場から一瞬にして消えた。

 そう、シロウは「Evil」だ。念動力による瞬間移動の超能力を持っている。

 

 ◆晃

 実夏ちゃん、もうすぐ駅だ。電車に乗れば、何とかなるかもしれない。

 ★実夏

 うん、何とかなるかも…

 

 ふたりはどうにか、駅前のバスターミナルにたどり着いた。あと少しだ。


 しかし…

 バスターミナルに突然、10mの巨大な化け物が出現する。

 シロウだ。瞬間移動で、彼は晃と実夏の前に立ちふさがるように現れたのだ。

 バスターミナル付近にいた人々は、ニュースで報道されていた怪物が突然、自分たちの目の前に現れたため、悲鳴を上げながら、無我夢中で逃げ回る。

 

 ◆晃

 くっ…

 ▲シロウ

 さぁ、どうする触れ得ざる者。今度はどこに逃げるつもりだ。

 ★実夏

 晃君、こっち!


 今度は実夏が晃の手を引っ張って走り出す。

 二人はアーケードのある商店街に向かっていく。

 アーケードの下なら、10mある怪物は入って来られない。


 ▲シロウ

 面白い。気の済むまで逃げるがいい。


 アーケードの中に入る二人。

 商店街の中には、同じように怪物から逃げてきた人たちが他にも大勢いた。

 後ろを振り返る二人。怪物「シロウ」の足元だけが見える。 

 これでもう大丈夫、そう思った瞬間….


 ▲シロウ

 ギヤーーーーーーァン!!!


 シロウが咆哮した。

 この高周波の音波に耳をふさぐ、晃、実夏、避難していた人々。

 すると、まるで地震のように商店街のビルとアーケードが揺れ始め、そして、崩れた。

 晃、実夏、避難していた人々の上に、崩れた鉄とコンクリートの瓦礫が落ちてくる。


 ◆晃

 危ない!

 

 晃は実夏の体をかばうようにして覆い被さった。正直、晃は死を覚悟した。

 こうして彼らは皆、崩れた瓦礫の下敷きになった。

 この状況下では、強運の持ち主でもなければ、生き残れる人など誰もいない。


 ところが… 気がつく晃。


 ◆晃

 あれ、俺、助かったのか。


 晃の下には実夏もいる。見てみると、特に怪我もなさそうだ。

 今度は周りを見てみる。

 なぜか、晃の周りが球体の光に包まれている。

 そして、鉄やコンクリートの残骸は球体の光がシールドになって、ふたりを守っている。

 しかし、その光の外では瓦礫と残骸の下敷きになり、多くの人たちが犠牲になっていた。

 状況が理解できない晃。やっと、気がつく実夏。


 ★実夏

 晃君、私たち、どうなったの。生きてるの。

 ◆晃

 分からない。ただ、生きていることは間違いない。


 周りを見る実夏。その惨劇に言葉を失う。


 ★実夏

 なんで、何でこんなことに…(涙)


 すると、このタイミングでまた、晃の頭の中に誰かが話しかけてきた。


 ▽ライト

 私はライト。触れ得ざる者、私の声が聞こえますか。

 ◆晃

 聞こえる。おまえはライトか! ずっと俺に話しかけていた…

 ▽ライト

 触れ得ざる者、いえ、晃。

 そうです。私がライトです。晃、あなたはやっと覚醒したのです。

 ◆晃

 覚醒って、いったいどういうことだ。それになぜ、俺はおまえと話しができるんだ。

 ▽ライト

 それは、あなたが覚醒し、己の力に目覚めたからです。

 その証拠に、目の前の悲惨な状況下で、あなたと実夏はこうして助かっています。

 あなたは自らの念動力によって光の球体を生み出し、自らを守っているのですよ。

 ◆晃

 そんなことが…

 ▽ライト

 あなたの星には、「論より証拠」という言葉があるでしょう。

 あなたは自分の力を信じるのです。さぁ、長話しをしている時間はありません。

 「Evil」はまだ、目の前にいます。とにかく、今は逃げるのです。

 ◆晃

 逃げるってたって、どこへ逃げればいいんだ!

 ▽ライト

 飛ぶのです、晃。

 今のあなたにならできます。宇宙空間まで瞬間移動するのです。

 ◆晃

 うそだろ…

 ▽ライト

 早く! とにかく、「飛べ!」と強く念じなさい。早く!

 ◆晃

 分かった、やってみる。ライト、実夏も一緒でいいのか。

 ▽ライト

 構いません。

 ◆晃

 実夏ちゃん、とにかく何も言わず、俺の手を握っていて欲しい。

 そして、何が起こっても驚かないで欲しい。約束してくれるかい。

 ★実夏

 約束する、っていうか、今の時点で十分、驚きの連続だし… 

 ◆晃

 ありがとう。じゃ、行くぞ・・・ 飛べ!!

 

 晃は自分が空高く飛翔することをイメージし、飛べ、と強く念じた。

 その瞬間、光の球体に包まれた晃と実夏は、一瞬で宇宙空間に到達していた。

 

 ▲シロウ

 おぉ、触れ得ざる者め。とうとう覚醒したか!

 

 ふたりを包んだ光の球体は瓦礫の山を押しのけ、シロウの目の前を一瞬にして通過する。

 

 ▲シロウ

 ふふ、面白い。これでやっと面白くなる。早く戻って来い、晃…

 戻ってくるまで、俺は好き勝手にさせてもらう。食えるだけ、人間を食ってやるぜ。

 

 宇宙空間に飛び出した二人。

 大気圏内では見ることができない無数の星の輝きを、彼らは今、目にしている。

 そして、眼下には丸くて青い地球が美しく輝いている。

 

 ★実夏

 きれい、宇宙がこんなに美しいなんて、知らなかった。

 ◆晃

 俺もだよ、実夏ちゃん。

 ▽ライト

 晃、実夏、今は余韻に浸っている場合ではありません。

 特に晃、あなたには伝えなければならないことがあります。

 それには、私の星、惑星「Zoad」へ来てもらう必要があるのです。

 ◆晃

 惑星「Zoad」って、どこにあるんだ。

 ▽ライト

 あなた方の星「地球」からは約60万光年離れた「Formax」銀河です。

 ◆晃

 でも、どうやってそんな遠くまで行くんだい。

 ▽ライト

 心配ありません。

 私が開発し、改良した「亜空間通信網」を使えば、あっという間に移動できます。

 晃、今からあなたの脳に、惑星「Zoad」の空間座標を送ります。

 あなたはその空間座標に向かってまた、飛んでくれればいいのです。

 ◆晃

 分かった。理屈は分からないけど、ライトの言うとおりにやってみる。

 ▽ライト

 ありがとう。今、空間座標を送りました。分かりますね。

 ◆晃

 分かる。

 ▽ライト

 では、飛んでください。亜空間通信網の準備は済んでいます。

 ◆晃

 実夏ちゃん、もう一度行くよ。いいね。

 

 実夏には晃とライトの通信は聴こえていない。

 晃はそのことを理解した上で、実夏に自分が誰かと話していることを分からせるため、頭の中ではなく、声に出してライトと話していた。

 最初は不思議に思っていた実夏だが、自分たちが宇宙空間に飛び出してからはとにかく晃の言うことに着いて行く、と決めていた。

 

 ★実夏

 いいよ。実夏、おぬしにどこまでも着いて行く。

 ◆晃

 実夏ちゃん、ありがとう。行くぞ! 飛べ!!

 

 するとふたりは、海と緑の陸地が見渡す限りに広がる美しい風景の上空にたどり着いた。

 そこは、「ライト」が持てる力の全てを注ぎ、「Evil」によって破壊された自然環境を2億年かかって修復した、惑星「Zoad」の現在の姿だった。


 ★実夏

 きれいな星…

 ◆晃

 そうだね。

 ▽ライト

 私は2億年をかけて、「Evil」によって無残に破壊された自然環境をここまで復元しました。

 そして、かつていた生命の種の約60%を回復させています。

 しかし、知的生命体、これだけは私の力でも、復活させることができないのです。

 ◆晃

 この星には昔、人類がいた、ということなのか。

 ▽ライト

 その通りです。

 晃、あなたにはなぜ、2億年前にこの星の人類が滅んだのか、その歴史を見てもらう必要があります。いや、あなたにはその責任があるのです。

 ◆晃

 どういうことなんだ。俺にはわからない。

 ▽ライト

 それは、あなたが「五十億分の一」の確率でしか誕生しない知的生命体だからです。

 ◆晃

 五十億分の一、俺が…

 ▽ライト

 私があなたを「触れ得ざる者」と呼んでいるのは、その確率ゆえです。

 私はあなたが現れるのを2億年、待ち続けました。

 ◆晃

 ライト、なら、おまえは人間ではないのか。機械、そうか、コンピューターだな。

 ▽ライト

 そうです、私はこの星にただひとつ残った、「知性」を持つAIです。

 ◆晃

 そうか・・・ 2億年も俺を待ってくれていたんなら、この星の人類の歴史が見たい。

 ▽ライト

 晃、ありがとう。 

 あなたの星にある「百聞は一見しかず」という言葉の通りでしょう。

 では、私の情報をあなたの脳へ転送します。

 あなたの脳に負担がかからない程度の情報量ですから、安心してください。

 ◆晃

 その情報量で、俺は全てを知ることができるのか。

 ▽ライト

 できます。あなたが何者か、「Evil」が何なのか、そして、その対抗策も分かるでしょう。

 ◆晃

 いつでもいいぜ。始めてくれ。

 ▽ライト

 それでは、転送します。


 ライトは情報の転送を開始した。

 転送された情報は、晃の視覚と聴覚、嗅覚に訴える。

 そこに映し出されていたのは、まさしく、地獄絵図だった。

 地球よりも優れた科学力を持ちながら、抵抗虚しく、「Evil」に無残に喰われていく人々、人類を喰い尽くした後、500体に分裂した「Evil」が一箇所に集まり、ハルマゲドンのごとく始めた「Evil」同士の超能力戦争と、最後に生き残った「Evil」が自らを喰って自滅する姿。


 ◆晃

 うわーーあぁ!! いやだ、こんなの見たくない! やめろぉ!!

 ▽ライト

 晃、見るのです!

 見なければ、惑星「Zoad」の人類がなぜ滅んだのか、その悲しみと苦しみを、そして、「Evil」がどれだけ恐ろしい存在なのかをあなたは知ることができません! 見るのです、晃!!

※BGM →King of Pain - The Police 1983 (https://youtu.be/tFN5DveQH0o)

 ◆晃

 うわーーあぁ!!


 もがき叫ぶ晃を見ている実夏。

 彼女は晃のその姿を見るに耐えなくなり、晃に声をかける。


 ★実夏

 晃君、大丈夫、晃君!


 晃の体に触れる実夏。 


 すると、晃の見ている情報が実夏の脳にも伝わってくる。

 晃が見ている惨状を遅れて、追いつき、そして、今は一緒に見る実夏。

 実夏は正直、卒倒しそうなる眼前の光景に、晃の体から手を離したくなった。

 しかし、晃も今、これを見ているのだと思うと、実夏は決して手を離さなかった。

 晃と一緒に苦しもう、そう決めたのだ。


 時間にすれば数分だろうか。

 その光景はまるで走馬灯のように二人の頭を駆け巡った。

 そして二人は、「Evil」が「一千万分の一」の確率で全ての生命の種に関係なく発生する超能力の怪物であり、「Evil」に対抗できるのは、「Evil」の超能力を持ちながら「人間」の心を保つことのできる、「五十億分の一」の確率で特殊なDNAを持って生まれる知的生命体、そう、晃以外、今の宇宙にはいないことを知り、どうにか、心を平静に保つことができた。


 ◆晃

 ライト、もしこのままシロウを放置したら、俺たちの地球もまた、惑星「Zoad」のように全人類が滅んでしまうんだな。

 ▽ライト

 その通りです、晃。「シロウ」に対抗し、「シロウ」を滅ぼせるのは、あなただけなのです。

 ◆晃

 しかし、分からないことがある。

 「Evil」は知的生命の「知的能力」を得たいという本能から、人の脳を喰う。

 要は、いくらがんばっても知的能力は得られないってことだよな。

 でも、シロウは俺に話しかけてきた。やつはすてに知的能力を持っている。

 ▽ライト

 晃、予想するにそれは、シロウがあなたの「血」を舐めたからです。

 「一千万分の一」の確率である「Evil」が「五十億分の一」の確率である知的生命体の「血」を舐め、体内に取り入れたのですから、何が起こってもおかしくない、と私は考えます。

 ◆晃

 そうか、惑星「Zoad」のスーパーコンピューターでも分からないことがあるんだな。

 ▽ライト

 同時性による偶然は私の予測を超えることがあります。

 ◆晃

 ライト、俺、正直、まだ迷っている。

 ▽ライト

 晃、どうしてですか。あなたには全てを伝えました。

 ◆晃

 だからこそさ…

 君たちの星の人類はすばらしいよ。困難な壁を乗り越えて世界統一国家を築いた。

 でも、地球の人間たちは未だ、人種だ、肌の色だ、国だ、思想だ、宗教だって、お互いがいがみ合い、殺し合いをしている。それに、核兵器は地球を何回も破壊できる量がある。

 もしかしたら、シロウが現れなくっても、俺たちはいつか、自分たちの手で自分たちを滅ぼしてしまうのかもしれない…

 ★実夏

 晃君…

 ◆晃

 例えそうだとしても、俺は、実夏のいない世界なんて考えられない。

 実夏がみすみす、シロウ、いや、「Evil」に食い殺されるのを黙って見てなんかいない。

 難しいことは俺にはわからないけど、でも俺、実夏を守るためなら、シロウと戦う。

 

 この晃の話を聞いて、実夏は涙を流す。

 幸治がこれまで、いくらアクションを起こしても何もしなかったが、晃はやはり実夏のことが好きだったのだ。

  

 ★実夏

 晃君、実夏、うれしい…

 ◆晃

 実夏ちゃん、シロウを倒したら、俺は実夏ちゃんには改めて言うことがある。

 シロウを倒すまで、それまで待ってくれないか。

 ★実夏

 大丈夫。実夏、それまで待ってるよw

 ◆晃

 ありがとう、俺必ず、シロウを倒す。幸治の敵だ。

 ▽ライト

 では晃、これが「Zoad Watch」です。

 

 晃の目の前に、小さな光の球体が現れる。

 手を差し出す晃、すると光の球体は消え、晃の手の上に腕時計が落ちてくる。

 

 ※Zoad Watch

 この腕時計は「Phantom」と特殊DNAを任意に融合させることを可能とした、晃が「Evil」の体を手に入れるための変身装置。

 ライトが150年の歳月をかけて開発し、そのエネルギー源はタキオン粒子を利用する。

 まず、腕時計の左右のボタンを同時押しした後に、腕時計に向かって「メタモルフォーゼ オン!」と叫ぶと、腕時計が光子状に拡散し、「Phantom」と特殊DNAを融和させて、晃は「Evil」の体を手に入れるのだ(変身を解除するときは、「メタモルフォーゼ オフ!」と叫ぶ)。

 変身後、拡散したZoad Watchは「Evil」の体となった晃の胸の中心に集まり、固定される。

 変身した晃は、Zoad Watchの持つテクノロジーとタキオン粒子の強力なエネルギーによって、Evilを凌駕する超能力を発揮することができる。

 なお、同時押し後の「メタモルフォーゼ」可能な有効時間は「5秒間」。

 5秒を過ぎるともう一度、左右のボタンを同時押しし直す必要がある。

 

 ▽ライト

 これであなたはいつでも戦えます、でも晃、忘れないで欲しい。

 あなたは、「Evil」の体を持ちながら、「人間」の心を保ち、そして、私たち惑星「Zoad」の人類の意思を受け継ぐ「触れ得ざる者」、そう、あなたは「EvilZoad」なのです。

 ◆晃

 「EvilZoad」… 分かったライト! 俺は今日から「EvilZoad」なんだ!

 ▽ライト

 晃、それでは、地球に戻りましょう。

 シロウは今、あなたの国日本で残虐の限りを尽くしています。

 あなたの国の国家も何らかの対策を立てようとしているようですが、事情があってすぐには軍隊を出動させられないようです。出動させてもシロウにはかなわないですが…

 それに重要なのは、被害はもうすぐ、実夏の両親のいる地域に及ぶでしょう。

 時間がありません。

 ◆晃

 分かった、戻るぞ!

 ▽ライト

 晃、あなたの脳に地球の空間座標を送ります。今、送りました。

 ◆晃

 受け取った!

 ▽ライト

 亜空間通信網の準備はできています。

 晃、いや、「EvilZoad」! 戻りなさい、そして、シロウを倒しなさい!

 ◆晃

 もちろんだ、「ライト」! 実夏ちゃん、行くよ(うん、とうなずく実夏)。飛べぇ!!

 

 晃と実夏は地球上空の宇宙空間に戻っていた。見詰め合う晃と実夏。

 

 ◆晃

 実夏ちゃん、しばらくお別れだ。

 実夏ちゃんとおじさんおばさん、ノロちゃんは安全な場所へ移動するから。

 ★実夏

 晃君、必ず帰ってきてね…

 ◆晃

 大丈夫さ、俺には「Evil」の超能力とライトが開発したZoadWatchのテクノロジーがある。

 安心して。必ず戻ってくるよ。じゃ、実夏ちゃん、行くよ。

 

 晃は実夏に手をかざす。

 すると、実夏はふたりをつつむ球体から分かれて、別の光の球体に包まれる。

 そして、実夏を包んだ光の球体は、ゆっくりと晃から離れていく。

 

 ◆晃

 実夏ちゃん、また!

 

 晃がそう言った瞬間、実夏の光の球体は一気に大気圏を降下していく。

 

 ★実夏

 晃く〜ん!!

 

 気がつくと、実夏は隣県にある、大型スーパーマーケットの駐車場に立っていた。

 そこには、晃の超能力によって瞬間移動された実夏の両親と歳の離れた弟のノロちゃん(何をさせてものろまなため、実夏からこんなニックネームをつけられている)もいた。

 全く事情が飲み込めない、実夏の両親とノロちゃん。

 

 ・ノロちゃん

 実夏おねえちゃん、僕たち、何でここにいるの?

 ・実夏母

 私もお父さんも、気がついたらここに立っていたの。

 ・実夏父

 ここ、隣県だよな。いったい何がどうなってるんだろ。

 ◆実夏

 実夏も分からないw

 

 とぼける実夏であった。

 

 ところで、「Evil」となったシロウは幸治の住む街である大江町の人々を食い尽くし、大都大学方面へ新たな餌を求めて進んでいた。

 人々の脳を食らうことで栄養を得たシロウは、この時点で25mほどに巨大化していた。

 更なる超能力を得ていたシロウは、惑星「Zoad」に最初に出現した「Evil」と同じく口から食うのを止め、進行方向周辺にいる人々の脳を瞬間移動で直接、胃に転送していた。

 シロウの進む方向の周辺には、脳を失い、外傷なく倒れていく人々が続出していく。

 このままでは、今日一日で川沿市は間違いなく、「死の街」となってしまう。

 

 その頃、宇宙空間に留まっていた晃は、今まさに「EvilZoad」に変身しようとしていた。

 

 ◆晃

 ライト、行くぞ! 「メタモルフォーゼ、オン!!」


 ZoadWacthを左腕につけた晃は左右のボタンを同時押しした後に、そう叫んだ。

 すると、晃の体が光子状の光に包まれ、光の球体が巨大化していく。

 巨大化した光の球体は一瞬にして、傍若無人に街を進むシロウの前に瞬間移動した。

 球体の光が消え、そこに現れたのは、蝙蝠のような羽を両腕に纏い、全身が紫色の毛に覆われた悪鬼のような顔を持つ、まさに悪魔の姿をした化け物だった。

 

 新たな化け物の出現に驚く人々。

 ただでさえ、突然現れた一匹の怪物により街は大混乱し、人々は命を失っていた。

 そこに、もう一匹、化け物が増えたのである。

 今まさに、この街にいる人々は神も仏もない、絶望的な気持ちに襲われていた。

 しかし、この状況の中でただ一人(一匹)、シロウだけは喜んでいた。

 

 ▲シロウ

 晃、戻ってくるのを待っていたぞ。

 ◆EvilZoad(晃)

 シロウ、俺は全てを知った!

 おまえが元はシロウでも、今は「Evil」だ! 俺がおまえを倒す! 幸治の敵だ!

 ▲シロウ

 何を言っている。晃、おまえは俺たち「Evil」の側なんだよ。

 ◆EvilZoad(晃)

 何を言っている! 俺は「Evil」じゃない! おまえらの側ではない!

 ◆シロウ

 おまえこそ、何を言っている。ビルに映っている自分の姿を見てみろ。

 

 ビルのガラスに映る、自分の姿を見るEvilZoad。

 そこに映っていたのは確かに、蝙蝠のような羽を両腕に纏った、醜い化け物の姿だった。

 

 ・Zoad

 これが、これが俺の姿なのか...

 ▲シロウ

 だから言っただろう。おまえは俺と同類なんだよ。

 

 始めて見る、EvilZoadの姿になった自分。

 EvilZoadになる際、どのような姿に変身するのかは、「Phantom」と彼の特異なDNAを融合させてみないと分からないため、ライトは前もって、変身したときの姿を情報として晃に見せておくことはできかなった。

 「Evil」の体になり、その姿が醜いであろうことを晃は覚悟していた。

 しかしまさかここまで、悪魔の中の悪魔のような姿になるとは、晃の想像を超えていた。


 自分の姿に困惑するEvilZoad、いや、加賀見 晃。

 ここで、ライトが晃に声をかける。


 ▽ライト

 晃、迷ってはいけない! 戦うのです!

 

 ここで、晃ははっと気がつく。

 こうなることは、実夏を守るため、自分で決めたことだ。

 そう、躊躇している暇はないのだ。

 

 ▲シロウ

 さぁ、晃、俺と一緒に地球の知的生命体を食い漁って、楽しもうぜ。

 ◆EvilZoad(晃)

 違う!

 ▲シロウ

 何ぃ!

 ◆EvilZoad(晃)

 今の俺は、確かに化け物だ。悪魔のような醜い体を持っている。

 しかし、人間の心を保ち、惑星「Zoad」の人々の遺志を継ぐ、触れ得ざる者。

 俺は、「EvilZoad」だ!

 ▲シロウ

 いいだろう。ならば改めて、おまえの脳を俺の胃袋に収めてやる!

 ◆EvilZoad(晃)

 来い! シロウ!

 おまえの超能力が上か、俺の超能力が上か、勝負だ!

 ▲シロウ

 言ってやがる、これでも食らえ!

 ギヤーーーーーーァン!!!


 シロウが咆哮する。


 今回の咆哮は、破壊のための念動力ではなく、動きを止めるための念動力だった。

 シロウは自衛隊、要は軍事力の出動がこれまでなかったため、この種の念頭力を使わなかった。しかし、触れ得ざる者たる晃の出現により、念動力で晃の動きを封じようとした。

 このシロウの咆哮により、シロウの周辺にいる人々は全く動くことができなくなった。

 逃げようにも逃げられず、動かない体ではどうすることもできない。「万事休す」だ。

 そして、EvilZoadも同じように、ぴたりと動きを止めている。


 ▲シロウ

 ふふ、晃、先ほどまでの威勢はどうした。動けまい、動けないだろう。

 さぁ、今から、おまえの脳を俺の胃袋に転送してやる。楽しみだぜぇ。


 薄ら笑うシロウ。ところが、その瞬間…

 動きを止めていたのが嘘のように、EvilZoadがシロウへの突進を始める。


 ◆シロウ

 そ、そんなバカな!


 シロウの顔に一発、拳を食らわせるEvilZoad、続いてEvilZoadは蹴りを入れる。


 ◆EvilZoad(晃)

 直接ぶちのめしたかった!

 ▽ライト

 晃、冷静になりなさい!


 倒れたシロウは起き上がりながらも、なぜ自分の念動力が通じないのかが理解できない。


 ▲シロウ

 なぜ、なぜ俺の念動力が通じない… そんなことがあるはずがない。

 

 EvilZoad、晃はその問いに答える。


 ◆EvilZoad(晃)

 シロウ、俺には惑星「Zoad」のスーパーコンピューターAI「ライト」が開発した技術がある。「ライト」は長い年月をかけて生み出した、「Evil」の超能力を無効化する「反Evilシールド」を俺に与えてくれた。俺に、おまえの超能力は無効だ!

 ▲シロウ

 そんな、そんなことが…

 ◆EvilZoad(晃)

 いいか、シロウ、いや、「Evil」!

 俺と「ライト」のタッグは宇宙最強だ! 誰にも負けはしない!

 ▲シロウ

 ならば、したくはなかったが、分裂してやる。

 俺はおまえの血を舐めたおかげで、知的能力を手に入れた。

 せっかく知的能力を手に入れたのに、分裂したら、後でお互い喰い合うことになる。

 そんなの意味がない、だから、しなかったが、こうなったら、やってやる!

 

 シロウの周りを光の球体が包む。そして、球体から強烈な光が放たれる。

 今まさに、シロウは自らの個体の数を増やそうとしていた。しかし…



 EvilZoadが両手を前に組む。

 組んだ両手の前には、EvilZoadの胸の中心に固定されたZoadWatchがある。

 ZoadWatchが輝きを放つ。EvilZoadは両手を斜め下に開くようにして降ろす。


 すると、シロウを包んでいた光の球体は消滅し、そこには一体だけのシロウが残っている。


 ▲シロウ

 これは、これはいったいどういうことだ・・・

 ◆EvilZoad(晃)

 これが、ZoadWatchのテクノロジーだ。おまえは分裂もできないんだよ。

 ▲シロウ

 なんだと…

 ◆EvilZoad(晃)

 これが、これが幸治を食った、おまえの口か!!


 EvilZoadはシロウに飛びかかると、ワニのようなシロウの口の上下をつかんだ。

 そして、口の上下を掴んだまま持ち上げると、口から体を引き裂こうとしたのだ。

 全く抵抗できないシロウ。シロウはまるで遺言のように、EvilZoadへ話しかける。


 ◆シロウ

 晃、おまえは俺を否定するが、いいかい、俺たちは、進化なんだ...

 だから、俺が死んでもまた、俺のような化け物が出現する。

 そうさ、俺とおまえと、同じような化け物がな…

 ◆EvilZoad(晃)

 俺はおまえとは違う! おまえのような化け物が進化なものかぁ!!


 シロウの体を引き裂くEvilZoad。体を引き裂かれたシロウは絶命する。

 しかし、シロウの「一千万分の一」のDNAは残っている。


 ▽ライト

 晃、シロウのDNAを残してはいけません。念動力で分子レベルで破壊するのです。


 ZoadWatchが固定されている胸の前でEvilZoadは右手を下に、左手を上にし、手を開くようにして、球体の形を作り出す。

 作り出された手の形の間に、球体の高エネルギー衝撃波が作り出される。

 作り出された高エネルギー衝撃波を、EvilZoadは引き裂いたシロウの死骸に放出する。

 すると、死骸は紅蓮の炎に燃え上がった後、消滅するように姿を消したのだ。


 EvilZoad、晃はシロウに勝った。

 これで、地球人類の絶滅を防ぐことができた。


 シロウが死んだことで、シロウの念動力によって動きを束縛されていた人々は、拘束から解放され、自由を取り戻した。

 彼らは動きを止められていたと言え、意識までは止められていなかった。

 彼らは、新たに現れた、自分たちに危害を及ぼすかもしれないと思っていた二匹目の怪物が自分たちを守ってくれたことを、その目で見ていた。

 理由も何も分からない。彼らはその巨大な怪物をただ、敬愛の念で見つめるだけだった。


 実夏との約束を果たし、シロウに勝った彼は、すぐにでも実夏に会いたくなった。

 そして、両腕に纏っている蝙蝠のような羽を広げ、そのまま大空へ飛翔した。

 向かうは隣県のスーパーマーケットだった。


 ◆EvilZoad(晃)

 メタモルフォーゼ、オフ!!


 EvilZoadの体は球体の光に包まれる。

 球体は次第に小さくなり、人の大きさになっていく。

 そして、球体は実夏の待つ、隣県の大型スーパーマーケットに降りていくのだ。

 降りてくる光の球体を見ている実夏。実夏はそれが、晃であることを知っている。


 ★実夏

 晃君、やっぱり帰ってきてくれた…


 空を見上げる実夏。

 光の球体は上空で一瞬にして消えると、実夏の目の前には晃がにっこり笑って立っていた。


 ◆晃

 実夏ちゃん、お待たせ。約束通り、戻ってきたよ。

 ★実夏

 晃君!


 強く抱きしめ合う二人。

 タイミングよく、実夏の両親とノロちゃんはスーパーマーケットの中に入っていた。


 ◆晃

 実夏ちゃん、俺、シロウに勝ったよ。「ライト」のテクノロジーのおかげかな…

 ★実夏

 うん… 幸治君の敵が討てたね。

 でも、怪物がシロウだったことを思うと、少し複雑な気分になる…

 ◆晃

 そうだよね。実夏ちゃん、ほんとは優しいから…

 そうだ、実夏ちゃん。俺、実夏ちゃんにちゃんと言わなきゃいけないことがある。

 ★実夏

 うん、実夏も聞きたい。

 ◆晃

 今まで言わなくてゴメン。実夏ちゃんが幼なじみだってことで、踏ん切りがつかなくて。

 実夏ちゃん、いや、実夏。

 俺は君が大好きだ。だから、改めて、俺の彼女になって欲しい。

  いいかな…

 ★実夏

 もちろん! おぬし、やっと言ってくれたなw

 ◆晃

 うん… 幸治もきっと喜んでくれていると思う、「おまえ、やっと言ったな!」って…

 ★実夏

 そうだね、きっと。


 ここで、ライトが晃に話しかけてくる。


 ▽ライト

 晃、いいところを悪いのですが…

 あなたには2つ、伝えなければならないことがあります。

 ◆晃

 問題ないよ。話してくれ。

 ライト、実夏も一緒に聞いてもいいかな?

 ▽ライト

 構いません、逆に、実夏にも是非とも聞いてもらいたいのです。

 ◆晃

 分かった。実夏、ライトが君にも伝えたいことがあるらしい。

 俺の手を握ってくれるかい。

 ★実夏

 うん。


 実夏は晃の手を握る。

 実夏は晃の体にさえ触れていれば、自分もライトと話しができることをすでに知っている。


 ▽ライト

 惑星「Zoad」で転送した情報には含めていなかったのですが、「Phantom」は生命の進化に深く関わっています。

 このことを伝えなかったのは、あなたを動揺させる可能性があったからです。

 では、生命がなぜ、単細胞から人間に至るまで多種多様な進化を遂げ、それぞれの環境に合わせた独自の変化を可能としたのか。実は、その根源の力が「Phantom」なのです。

 その意味では、シロウがあなたに言ったことは間違いではありません。

 ◆晃

 (・・・・)

 ▽ライト

 植物、動物に関係なく、全ての生命に共通しているのは「生きようとする意志」です。

 劇的な環境変化に晒され、その渦中にある生命は命を失う危機に遭遇し、滅びていく中で、それでも、「生き抜こう」との強い意志、エネルギーとも言うべきでしょうか、を持ちます。

 そのような個体のうち、偶然に何らかのきっかけで「Phantom」の力を得ることができた個体だけが、環境に合わせて自らを作り変え、そして、種を作り、生き延びてきました。

 それが「進化」なのです。

 ◆晃

 もし、「Evil」が進化の産物なら、将来的に「Evil」という生命の種が生まれるのか?

 ▽ライト

 晃、それは安心してください。

 「Evil」は、コピーミスによる特異なDNAの発生によってその力を劇的に手に入れた特異体質です。その意味では、「進化」ではなく、「突然変異」と言えましょう。

 突然変異した彼らは、いくら分裂を繰り返しても、雌雄の差が生まれません。

 生殖することはなく、彼らの種が残ることは、「Evil」の性質上、ありえないのです。


 これを聞いた晃はやっと安心し、シロウから言われた言葉から解放される。

 「Evil」が生命の種として地球に残ることはなく、また、自分は「Evil」ではないんだと…


 ▽ライト

 そうです、「Evil」の体に変わることができますが、あなたは「人間」です。

 「五十億分の一」の確率である、宇宙一特異なDNAを持つ、貴重な知的生命体です。

 実夏、ここからはあなたの存在が重要になってきます。話しを聞いてもらえますか。

 ★実夏

 大丈夫。話して。

 ▽ライト

 晃、あなたには自分の貴重なDNA、要は、「遺伝子」を残す使命があります。

 あなたのその遺伝子を、あなた一代で終わらせては、絶対にいけないのです。

 ここで大切になるのは、実夏、あなたです。

 ★実夏

 (・・・・・)

 ▽ライト

 私はAIですから、2億年の時を経てもまだ、人の心の機微は要を得ていません。

 しかし、実夏、あなたは晃と同じく、この事実の全てを知っている貴重な女性です。

 そして、あなた方は相思相愛の仲です。

 不謹慎なことをお願いするのかもしれませんが、実夏、いいですか、あなたが晃の遺伝子を残す役割を担うのです。適任者はあなたしかいないのです。

 私の言うこと、理解できますね。

 ★実夏

 理解できる。でも、今そんなこと言われても…


 ライトが実夏に話しかけている内容を聞き、顔を真っ赤にする晃。

 ライト、まさか今、そんなこと言うかよ… でも、ライトは2億年の間ずっと、俺のことを待ち続けたんだ、本当に真剣なんだ、と、自分を納得させている。


 ▽ライト

 分かります。実夏にその約束をする義務はありません。

 晃の遺伝子を実夏が残す役割を担うのかどうか、重要なのは、晃自身です。

 晃、いいですね。あなたが実夏との関係をこれからどうしていくか、それが大切ですよ。

 ◆晃

 ライト、君が真剣に俺のこと、実夏のこと、地球のことを思って言ってくれていることは本当に分かっている。俺、実夏を不幸にはしない。約束するよ。

 ▽ライト

 亜空間通信網を通じ、私とあなたはいつでも話しができます。

 私はAIなので、人生の相談に乗ることはできませんが、困ったことがあったらいつでも私を呼んでください。

 ◆晃

 そのときは遠慮なくそうするよ。じゃ、ライト、しばらくお別れだ。

 ▽ライト

 はい、では。

 私は今後も、あなた以外の異能知的生命体の探索を機能の続く限り行います。

 そして、60万光年離れたところから、晃と実夏の幸福を祈っています。

 ◆晃★実夏

 ライト、ありがとう。


 ライトとの通信を終了するふたり。

 通信が終わった後、ふたりはしばらく目を合わせることができなかった。

 もじもじしていて、背を向けあっている晃と実夏。すると、


 ★実夏

 晃君!

 ◆晃

 はい!

 ★実夏

 晃君は、実夏のこと好きだよね。

 ◆晃

 もちろん、ライトの前で言ったことに、嘘はないよ。

 ★実夏

 なら、証明して!

 ◆晃

 しょ、証明って、どうやって…

 ★実夏

 まずは、キスして。

 ◆晃

 え、今ここで? ほんとに?

 ★実夏

 実夏は真剣だよ。

 ◆晃

 分かった、俺も真剣だから…

 

 実夏の両肩に手を置く晃、そして… 二人はキスを交わした。

 二人の後ろには、夕焼けに照らされたスーパーマーケットが黄金色に輝いている。

 この二人が将来結婚し、子供をもうけるかどうか、彼らはまだ21歳だし、分からない。

 でも、ふたりはだれよりも強い絆を持っている。きっと、そうなることだろう。


 そして、川沿市ではやっと、災害派遣で出動した自衛隊が現場の収拾をし始めていた。

 警察発表では、現時点での死者数は約4,000人、負傷者数は約1,000人。

 死傷者数は5,000人を超える見込みとなっていた。


 今回の事件は、大地震の発生に匹敵する災害であったことをこの数字は物語っている。

 街の再建と人々の心の傷が癒えるには数年を要するかもしれないし、数年でも足りないのかもしれない。しかし、それでも「Evil」の魔手から地球は救われたのだ。

 それが、せめてもの救いなのかもしれない。



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