教育
ある小学校で、子どもたちに対するアンケートが行われた。このアンケートは、生徒の性格や考え方を調査し、教育に反映させるためのもので、どこの学校でも定期的に実施されていた。
その中には、たとえばこんな質問があった。
〈あなたが、お父さんやお母さんに、「お父さん・お母さんのことは好きかい?」と聞かれたら、どう答えますか? その理由は何ですか?〉
この質問に対して、ほとんどの子どもは、こんなふうに答えていた。
〈「好きだよ」と答えます。そう答えたら、お小遣いをもらえるかもしれないからです〉
しかし今回、新年度になって初めてのアンケートで、ひとりの一年生がこういう答えを書いていた。
〈「好きだよ」と答えます。僕は、パパとママが大好きだからです〉
職員室では、この回答を見た教師たちが雑談をしていた。
「一年生とはいえ、こんなことを答える子はいまどき珍しいですね」
「いえいえ、そんなことはありません。今でも、たまにいますよ。と言っても、たいていの場合は先生の目を気にしてそう答えているだけですけどね」
「そうです。実際に話を聞いてみると、やはりお小遣い目当てだったり、自分の評判を良くするための方便だったり、ということがほとんどです」
教師たちがそんなふうに話していると、その子の担任が口を開いた。
「しかし、この子は私のクラスの生徒なんですが、どうやら、本当にご両親のことが好きだからこう答えたらしいのです」
その言葉に、他の教師たちは眉をひそめた。
「それはいかん。このご時世、小さいころから世間を上手く泳ぐ方法を学んでいかないと、いずれおぼれてしまうに違いない」
「このままでは将来が不安ですね」
「仕方ありませんな」
翌日、教師たちは両親に事情を説明したうえで、その子を学校と提携している病院に連れて行き、対処を依頼した。
数日後、その子は無事に帰ってきた。
両親と再会したその子は純真そのものの表情で、しかしどこか前よりも媚びるような目つきで、開口一番にこう言った。
「パパ、ママ。僕は、パパとママのことが、大好きだよ」
息子の成長ぶりに両親は喜び、満足そうにうなずきながらお小遣いを与えて、三人仲良く手をつなぎ、わが家へと帰っていった。