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認識

 ターゲットに近づきつつある巨大な宇宙船の中で、宇宙人たちが話しあっていた。


「見えてきたぞ。あれが今回の獲物だ」


「なんという名だったかな」


「住人は、チキュウと呼んでいるらしい」


「チキュウか。たまたま見つけた星だが、資源はそれなりにありそうだな」


 宇宙人たちは、いわゆる宇宙海賊だった。めぼしい惑星を見つけては、ガスから石油から金属から、ありとあらゆる資源を高度な技術力で吸いつくす。それを母星に持ち帰り、文明の発展に寄与していた。


 彼らは、そこに住民がいても容赦なく攻め込んだ。手間がかかるので、住民を殺しつくすことまではしなかったが、結局は同じことだった。これまでに侵略された惑星の住民たちは、あらゆる資源を失ってどうすることもできず、例外なく滅んでいったのだ。


「調べたところ、文明のレベルはたいしたものではない。侵略は、そう難しくないだろう」


「そうだな。さっさと征服して、いただくものをいただいていくとしよう」


「ふむ、今回も例の装置を使えそうだぞ。今まで侵略した星々と同じように、あの文明も無機物に大きく頼っているようだからな」


 宇宙人の一人が、無機物ならば何でも消し去ることができる装置を撫でながら言った。この装置を使って武器を消し去ってから、悠々と侵略を進めるのが、宇宙人たちの常套じょうとう手段だった。


「有機物を消し去ることができればいいんだがな。住人そのものを消せば、こんな回りくどいやり方をせずにすむ」


「有機物は構造が複雑すぎるんだ、しかたがないさ。それに、いきなり武器を失ってあわてふためいている様子は、何度見てもおもしろい。娯楽だと思えばいいんだよ」


「それもそうだな。じゃあ、始めるか」


 宇宙人たちは特殊な電波を放ち、地球全体をスキャンして、どんな武器があるのかを一瞬で調べあげた。その結果、一定レベル以上の危険性を持ち、かつ最も多く存在している武器は、銃というものだとわかった。


 さっそく宇宙人たちは例の装置を動かし、地球上にある銃をすべて消し去った。


「見ろよ。パニックになってやがるぜ」


「それはそうだろうよ。いきなり目の前で武器が消えたんじゃあな」


「次の消去は、また明日だな」


「ああ。エネルギーの消費が大きすぎるんで、再充填に時間がかかる。何とかならないもんかね」


「まあ、いいじゃないか。ひそかに侵略を進められるんだ。それくらいは待つさ」


 そして一日が経ち、地球の様子を調べていた宇宙人が意外そうな声を上げた。


「おい、おかしいぞ」


「どうした」


「銃が消えたことを、喜んでいるやつらがいるようだ」


「そんなばかな。見せてみろ」


 宇宙人は、高性能の望遠鏡で住人の様子を観察した。銃を失って不安になっている者やがくぜんとしている者も多かったが、むしろ喜んでいる者のほうが多いらしかった。


「や、本当だ。なぜだ。武器が消えたのに、やつら、なぜ喜んでいる」


「わからん。わからんが、とにかく次だ。予定どおり、もっと威力の高い武器を消そう」


「何という名前だったか」


「砲弾だ。銃よりも遠いところまで届く。さすがにここまでは無理だがね」


「なるほど。よし、やろう」


 そうして宇宙人たちは再び装置を動かして砲弾をすべて消し去り、また一日待った。


「やはりおかしいぞ」


「また喜んでいるやつらがいるのか」


「そうだ。それも、昨日よりももっと多いみたいだ。わけがわからん」


「こうなったら、段階を踏むのはやめにしよう。一番威力の高い武器を消し去ってやろうじゃないか」


「たしか、核とかいうやつだな。原子の分裂エネルギーを使う爆弾だったか」


「ああ。あれは、そこそこ危険だ。威力もそれなりに大きい。ぜひ消しておかなければならない」


「さすがにこれが消えれば、きっと大あわてになるだろうさ」


 宇宙人たちは三たび装置を動かし、すべての核弾頭を消し去った。


 最大の脅威も消えたところで、宇宙人たちは、さあ、侵略を開始しようと考えた。しかし、これまでの地球人の反応が不可解だったので、ついためらってしまい、もう一日だけ様子を見てみることにした。


 そしてまた一日が経った。


「様子はどうだ」


「だめだ。悲しんでいるのは、ごくわずか。チキュウ全体で、喜びの声が上がっている」


「いったい、どういうことだ。最大の武器をすべて消されたんだぞ」


「まったくわからん。なにか、われわれとは根本的に認識が違うのかもしれない」


「なあ、おれは少し、不安になってきた」


「おれもだ。侵略のためには、あいつらを一時的にとはいえ、管理しなければならない。しかし、ここまで認識が違っていたのでは、管理しきれるかわからん」


「そうだな。不測の事態が起こり、われわれが襲われる可能性もないとは言えない。なにせ、あの数だ。もしそうなったら、対処が面倒だ」


「今回は、やめにしておかないか」


「残念だが、そうしたほうがいいだろうな。なに、あの程度の星なら、他にいくらでもあるさ」


 そうして、宇宙船は地球から離れていった。


「それにしても、なぜあいつらは武器を消されて喜んだんだろう」


「わからん。武器というのは、われわれのような侵略者から、星と仲間を守るためのもののはずだが」


「いくら考えたところで、たぶん無意味だぜ。さっきも言ったように、きっとわれわれとは根本的に認識が違うんだ。われわれには想像もつかないような、深い事情があるのかもしれない」


「ああ。もう考えるのはやめだ。次のターゲットを探すとしよう」


 アメーバのような体を持った、全員が同一個体由来のクローン体である宇宙人たちに、まさか地球人が同士討ちなどということをする生き物であるとは理解できるはずもなく、地球の危機は遥か彼方へと去って行った。

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