3話
昼間ほどではないが、砂浜にも波打ち際にも、家族連れや友達同士で遊んでいる人たちは多く、それもむつにとっては不安材料だった。
何かが起きた時に、この広範囲で人を守りきれるとは思えない。ましてや足元は砂しかなく動きも遅くなる。人のいる時間帯には、何も起こらないで欲しい、というのが正直な所だった。
岩場近くなってくると人は居なくなり、しーんと静まり返っている。少し離れた所から聞こえてくる賑わいが、余計に寂しい。
「あそこ…洞窟みたいになってるのかな?」
むつが、目を細めて指差す方には崖のようになった岩場とそこに打ち付ける波の中に洞窟の用に奧に入れそうな所だった。
「見に行きます?乗り気しないですよ」
「同じく」
行きたくはなかったが、これも仕事と自分に言い聞かせ、岩場の洞窟の方に向かう。
視えるわけではない颯介でさえ、そわそわしているのがむつには分かった。
「ねぇねぇ、颯介さん」
わざとなのか、むつは颯介の服の裾をつんつんと軽く引っ張った。
「管狐の様子は?」
「…あ‼祐斗君の部屋に忘れてきた」
すっかり忘れていたのだろう、慌てた様子の颯介が祐斗の方を向くと、祐斗のTシャツの袖から管狐が顔を出した。