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1話
そう言うと冬四郎は立ち上がった。
「篠田さん、帰りましょう。話をするだけ無駄だったようですし」
むつも山上も引き留める様子はない。冬四郎は帰ろうとしていたが、篠田が立ち上がる様子はなかった。
「ねぇ宮前さん」
座ったまま、むつが厳しい視線を冬四郎に向けている。
「少し雑なのでは?」
「雑、とおっしゃいますと?」
何も答えない冬四郎がかわって、篠田が不安そうにむつを見ている。むつは、何も気にする様子はなく、テーブルをとんとんと指先で叩いた。冬四郎に座れ、と言っているのだ。だが、冬四郎は座らない。
「先ず1つ、場所と日時の説明がない。まぁ引きちぎられたって事は不可思議だし、炎を纏った車輪も非日常な出来事だし悩むのは仕方ないとして…何故、また宮前さんが居るの?その説明もないよね?また、ぬま」
言いかけた言葉は山上の手で口を塞がれてしまい、言い切る事は出来なかった。
「やはり、鋭い方のようですね」
篠田がにっこりと笑った。