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2話
西原がせっせと地図に細かな場所と時間を書き込んでいる間、むつと颯介、冬四郎は調書を読んでいた。どれも特に参考になるような事はなかった。
むつと颯介は早々に読むのを止めたが、冬四郎だけは職業病なのか黙々と読んでいた。
「ねぇ先輩、車輪の話は出てるけど海難事故とかしろーちゃんの方の被害とかは報告されてないの?」
マジックを片手に西原が振り向いた。そして、少しの間、視線を天井の方に向けた。
「いや、噂程度って所だな。被害報告はないし」
「ふーん?」
調書を読む冬四郎に視線を向けてむつは、ぽつりと呟いた。
「被害はなく、はっきりした目撃情報もないのに仕事として依頼…するか?普通」
颯介にだけは、はっきり聞こえていたよだ。
「権力者に泣きつかれたとか?客足が減らないように、噂のうちにって」
颯介が小声で答えてきたのでむつも自然と小声になっていた。
「噂を大人が本気にする?」
「報告されてないだけ、って事かもね」