2話
むつは言いかけて口をつぐんだ。篠田と西原の視線に気付いたのだ。何を言うのかと期待してるような目に、むつはにっこりと微笑みを向けた。
そして、颯介の身体で顔が隠れると眉間に皺を刻んで、小さく舌打ちをした。どうやら、今回は多少なりとも愛想よくしていこうとしているようだ。
「で、何が分かってるの?」
「我を見るより我が子を見ろ…そっちのは片車輪だと思う」
むつはそう言ってから、曲げた人差し指を下唇にあて、何かを考えている。
「西原先輩、ちょっと」
おいでおいで、と手招きすると西原は微妙な顔をしつつ側によってきた。
「目撃者からの話で、炎をまとった以外に何か聞いてる?」
仕事の話と分かると、西原は手帳を取り出してせわしなくページをめくった。
「怖い男の顔が乗ってた、髭もじゃの男の顔があった、ってくらいだな」
「他は?被害者は一人だけ?」
「今の所はそうだな、夜中に暴走族の中を突っ切っていく時に足を掴まれたとか車と並走したとかで、驚いて操作を誤ったとかでの怪我人は出たけど」
「そ、分かった。ありがと」
颯介に向き合い、むつは西原に向かってしっしと手り追いやった。西原はしぶしぶ篠田の所に戻っていった。