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2話
むつは、素足のままパンプスをはいて日差しで熱くなっている防波堤に上がった。見渡す限り人で溢れている。
じんわりと浮かんでくる汗を拭い、祐斗もむつと同じように海を見ていた。二人が見ているのは、海でも浅瀬の人が遊んでいる辺りではない。その向こうだった。
風も強くなく波は穏やかだが、沖の方は何だかどんよりとした空気に満ちているようで、暗い感じがした。
「何だろうね」
腕を組みむつは、沖合いを見つめている。何が見えるわけではない。
「祐斗、視えてる?」
「視えませんけど、沖の方に何か居ますね」
「船が必要そう…ん?あっちの岩場からのが様子見えそうじゃない?」
むつが何気無く指差した方向に祐斗は目を向けた。その時、うなじの辺りがざわっとし、鳥肌がたった。
「や、行かない方が良いですよ」




