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2話
松の木の林に入るとすぐに潮の香りがしてきた。足元も砂浜になっていて、歩きにくい。少しだけヒールのあるパンプスをはいていたむつは、よろよろしつつも冬四郎と祐斗を追って歩いている。
時折、心配そうに冬四郎が振り向き止まって待ってくれたりしていた。
歩きにくさに、疲れたのかむつは立ち止まるとパンプスを脱いだ。パンプスカバーも脱いで、ポケットに入れるとさくさくと歩き始めた。
「そんな靴で来るから」
呆れたような冬四郎の言葉を無視し、松の木のおかげで涼しい砂浜を歩いていく。
松の木の林はすぐに終わり、コンクリートの防波堤が見えた。その向こう側は海になっているのだろう。さっきよりも強い潮の香りと賑わう声が聞こえてきた。
「仕事じゃなかったら、楽しめそうなんですけどね」
「ね、そう言えば…何年も海なんてきてないや」
祐斗とむつは、仕事中だというのにのんびりと気の抜けるような会話をしている。
冬四郎はそんな二人を後ろから見ている。