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1話
そう言いながら、むつはチラッと冬四郎の様子を見た。今回、冬四郎はただの付き添いなのだろうか。口を挟んでくる事はなく、静かに麦茶を飲んでいた。
「実はですね、車輪が出たんです」
「…はい?」
「車輪が出たんです」
「車輪…車輪って言うのは、タイヤの事でしょうか?」
篠田は何だか、熱っぽくむつを見つめて車輪が出たと言うが、むつにはさっぱり意味が分からなかった。
「そうなんです‼」
むつは何が、そうなんですなのか分からず困惑したように山上を見た。山上は笑いを堪えているのか、首を軽く振る。冬四郎の方は、げんなりした表情で篠田を見ていた。
「あの…申し訳ないのですが、話の意図がつかめないので詳しくご説明頂けますか?」
山上も冬四郎も助け船を出す様子がないと分かると、むつは苦笑いを浮かべつつ篠田に視線を戻した。