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2話
むつはさっそくその地図を食い気味に見つめている。おそらく、篠田の持ってきた仕事の目撃現場なのだろう。
「お茶お持ちしますので、お話はそれからで」
篠田がそう言うとタイミングを見計らってたかのように、冷えた麦茶が運ばれてきた。
ネクタイの先を胸ポケットに突っ込み、腕捲りをした短髪に眼鏡の若い男だった。むつの前に麦茶を置こうとして、男の手が止まり、むつをしげしげと見ている。
「むつ、か?」
名前を呼ばれたむつは、男の方を見た。そして、がたんっと勢いよく立ち上がった。驚いているのか、目は皿のように大きく広げている。
「とし…西原先輩?」
「よぉ、お前か…その、わけの分かんない車輪を調べに来たって言う篠田さんの知り合いって」
「あ、うん…まぁ」
篠田と直接の知り合いではないが、むつは曖昧に頷いていた。むつは、男の顔を見て微笑んでいた。