5/309
1話
「お噂以上に可愛らしい方に仕事の依頼をして良いんですか?」
デスクの方から、ガタンっと大きな物音がしたし、むつも思わず冬四郎と顔を見合わせていた。冬四郎は驚いたような笑ってるような不思議なをしていたし、むつは苦い物を食べたような顔をしていた。だが、篠田は真剣な様子で、山上を見ていた。
「大丈夫だ、かなりの腕がある」
山上は表情を変える事なく、重々しく頷いた。そんな山上を見て納得出来たのか、篠田は氷の溶けかかった麦茶を飲んだ。
「良かった。でしたら、是非お願いしたいのですが」
篠田は微笑みをむつに向けた。篠田が身を乗り出すようにすると、むつは少しばかり身を引いた。明らかに引いているが、篠田は気にした様子はない。もしかしたら、気付いていないのかもしれない。
だが、いつまでも引いているわけにもいかず、むつは表情を引き締め姿勢を正した。
「お話を聞いてみない事には何とも言えませんが…何があったのですか?」