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1話
「格好いいのに残念だ」
しみじみとむつが言うと冬四郎は、ぎょっとしたようにむつを見た。そんな冬四郎に気付く事なく、眼鏡を外したむつは暢気に欠伸している。
「あ、鳴ってる」
ポケットから携帯を取り出すと、メールではなく電話だった。画面にはよろず屋と表示されている。
「はーい?」
『むつさん、戻ってきて下さい。打ち合わせ、さっさとして終わりましょ』
「半休」
『社長から聞きました。打ち合わせだけはしないと、鞄もあるでしょ?』
意外としっかりした口調の祐斗に、むつは反論せず、唇を尖らせていた。
『やる事やらないとダメです』
「…はい、戻ります」
電話を終えると、のろのろと起き上がり、眼鏡をかけた。
「谷代君、しっかりしてきたな」
「良い事よね。これで仕事も押し付けられたらもっと良いんだけど」
靴をはき、むつと冬四郎は戸井に声をかけ鍵を開けて外に出た。午後になり一層気温が上がったようで、日差しに目眩を感じながらもよろず屋に向かって歩き出した。