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1話
むつは、タバコをくわえたまま、音を立てないよう静かに店の引き戸を少しだけ開けて周囲を見回した。誰も居ない事を確認すると椅子に座った。
「といちゃーん、今日ずっと居る?」
「居るよ、片付けしたら夜の準備して寝るかもしれないけど」
「もぅちょい居て良い?」
「全然いいよ。もうランチ営業終わりだし」
そう言い戸井は暖簾を片付けて、戸の鍵もかけている。そして、冬四郎が食べきったスープの器とおぼんを下げると、ざぶざぶと洗い始めた。
むつはまた座敷の方に向かっていった。どうしたら良いのか分からない冬四郎は、とりあえず戸井にご馳走さまと声をかけて座敷の方に行った。
座布団を折り曲げて枕にし膝をたてて、仰向けに寝転んでいるむつ。冬四郎は座敷に上がると、むつの隣に座り壁に寄りかかった。