1話
先程まで冷房の効いた室内にいたせいか、むわっとした熱気に山上は早くもげんなりしていた。
「随分と彼女を自由にさせてるんですね」
ジャケットを腕にかけ、隣を歩く篠田も太陽の眩しさに目を細めていた。
「あぁ、ここんとこ忙しそうにしてたからな。明日からもまた忙しくなるだろうし…ってか、半休ってあいつ荷物とか会社に置いてるくせに何言ってんだろうな」
「そんなに儲けてるんですか?」
襟元を広げてパタパタと風を送っていた山上は、ふふっと笑った。その笑い方は、見方によっては怖いような笑みだった。
「夏は繁忙期ってやつよ」
「楽しそうで何よりです」
「お前…この前の話、本気なのか?」
篠田はにっこりと笑った。山上の問いかけには答えずに立ち止まった。山上もつられて立ち止まる。
「私はこのまま帰りますので。明日から、よろしくお願いしますよ…あとご馳走さまでした」
きっちりと腰から曲げて礼をすると、篠田はさっさと歩いていった。山上は篠田の後ろ姿を少しだけ見ていたが、暑さがこたえるのか、すぐに歩き出した。戻って颯介と祐斗に仕事の話もしなくてはいけない。
真面目に仕事をしている自分がおかしくなったのか、山上は一人で肩を揺らして声もなく笑っていた。そんな山上を周囲の人達は、訝しげに見つつ、少しだけ離れて通りすぎて行った。




