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1話
むつは、そのまま目を閉じてしまった。冬四郎は黙々とスプーンを動かしている。
「ホントに夏バテなのか?」
うつ伏せになったまま、むつは目を開けてちらっと冬四郎を見た。
しびれを切らしたのか、山上と篠田も座敷から出てきて、むつと冬四郎を挟むようにカウンター席に座った。
「社長、わたし半休で。あとで詳細のメールくれ」
顔も上げずにひらひらと手を振るむつを、山上の怒るでもなく笑って見ていた。そして、わさわさと頭を撫でた。
「すいません、お会計。今回は俺が奢ってやるぞ…みや、あと頼んだ」
山上は冬四郎の耳元で小さく言うと会計を済ませて篠田と出ていった。
山上と篠田の足音が聞こえなくなると、むつは顔を上げた。温くなったお茶を飲むと、厨房の中に入っていく。
戸井はそんなむつを気にする事なく、片付けを始めていた。むつは、厨房の隅にあるロッカーから未開封のタバコを取り出し、フィルムを剥がしている。
「買い置きしてあるの」
冬四郎が、呆然としているのに気付いたむつは、肩をすくめてそう言った。




