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1話
「車輪と海に出る霊…片車輪と船幽霊かな?どっちも夏っぽいよね同時発生なのは気になるけど」
むつは、隣に居るのが冬四郎と分かっているのか否か、ぼんやりとしたまま呟いた。そして、冬四郎のくわえていたタバコを取るとおぼんを冬四郎の前に押しやった。
取り上げたタバコを口にくわえたむつは、冬四郎の方を向いた。
「蜘蛛の時は邪魔になったから起こしたんだと思う。けど、今回は?たまたま?」
灰皿を引き寄せ、長くなった灰を落とした。
「むつ?」
「もぅ食べれない、といちゃーん温かいお茶が欲しい」
戸井はカウンターの向こう側でしゃがんでいたのか、手だけを出して振った。
「食べちゃって。あーんしてあげようか?」
むつがスプーンに手を伸ばそうとしてきたので、冬四郎は反射的に手にしていたスプーンを引っ込めた。
「食欲ないのか?」
冬四郎は、運ばれてきた時からあまり減っていないスープをスプーンですくった。
「夏バテかな?情緒も不安定」
そう言うとカウンターに顎を乗せるようにして、突っ伏した。そんなむつの前に戸井が、湯気のたつ湯飲みを置いた。濃い目に淹れたのか良い香りがする。