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1話
むつに嫌いと言われたのが相当こたえているのか、冬四郎は疲れきったような溜め息をついている。
「宮前君は彼女をどうしたいの?」
「どうって…」
「嫁にしたいんだろ?」
「なっ‼山上さんっ‼」
篠田は、その顔には似合わないようなにやにやした笑いを浮かべている。
「へぇぇ…あっ、それで沼井の言われるがままに動いてるってわけ?むつさんに害がないように?」
「そんなんじゃ…ありませんよ」
「ふぅん?ま、仕事はして貰えるって事だし楽しみだなぁ」
篠田の夢見るようなきらきらした目を見て、冬四郎と山上は苦笑いを浮かべた。
「やっぱり、お前らにむつは任せる。俺はもうちょい沼井を探るわ…うちの湯野と谷代のが頼りになりそうだけどな」
山上に言葉を聞くと、冬四郎も篠田も表情を引き締めて山上に頭を下げた。