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1話
山上は、じっとむつを見つめた。
「敵対とか…」
山上が言葉を切ると戸井が、両手におぼんを持ってゆっくり近付いてきた。
「南蛮漬けと鶏蒸しのお客様、お待たせしました」
むつは、おぼんを受け取ると篠田と山上の前に置いた。戸井はすぐに引っ込むとまたおぼんを両手に戻ってきた。
「はい、軟骨つくねとスープな」
冬四郎の分を受け取って置いてやろうという気はないようで、むつは自分の分を先に受け取った。冬四郎は、自分の分を受け取るとテーブルに置いた。他の二人と比べて明らかにむつの対応は悪い。
「ありがとっ」
「何だ、寒かったの?冷房弱めようか?」
「大丈夫、上着貸して貰ってるし」
「そうか?なら、ごゆっくり」
そう言い、伝票を置くと戸井はさっさと厨房の中に引っ込んだ。
「閑古鳥が鳴いてるわりにまともなの出てきたな」
「だーかーらー味は良いのよ、といちゃんも良い人だし」
むつは、そう言うとさっさとスプーンを手に取っている。山上も割り箸をわると食べ始めた。