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1話
山上は声を出さずに笑った。そして、短くなったタバコを灰皿にぎゅっと押し付けて消した。
「それから宮前さん」
名前を呼ばれた冬四郎は、気まずそうにゆっくりと視線をむつに向けた。むつはうっすらと微笑んでいる。だが、その目は怒っているようだった。
「一緒にいらしたんです、宮前さんの方のご用件は何でしょう?」
「俺は篠田さんを案内するのに」
「あーまた嘘つくんだ?」
細められた目と言い呆れ返った声といい、むつの不機嫌さは増している。
「篠田さんは社長の知り合いでしょ?場所が分からなきゃ迎えに行くと思うな」
冬四郎が気まずそうに山上を見た。山上は、両手を上げて肩をすくめた。
「海に出る霊を何とかして欲しいんだ」
「両方とも沼井さんとやらが絡んでるの?」
むつの問いは冬四郎でも篠田でもなく、山上に向けられたものだった。
「何で俺に聞く?」
「敵対してんのかと思って」